第十五話……女神達の覚悟
「バアちゃん、明日の七百五階の話だけど、『入階冒険者数制限』は切っておいてくれ。俺達を除いて、最低でもAランクパーティーが三つ、Bランクパーティーが三つ、ひしめき合うことになる。この際、できるだけ粛清したい」
「えぇ⁉️ 『リトルヴィーナス』と『トップオブトップ』だけじゃないの⁉️」
「漁夫の利……を狙って来るってことじゃない? つまり、あのやり取りを聞いていた連中が各パーティーに情報を売るはずってことか……。これも言われないと気付かないことだね……」
「それも考えないといけないのかよ……。あと、『入階冒険者数制限』も聞いたことないぞ?」
「順番に説明しようか。俺は、『トップオブトップ』に事前にマークされたくないと言った。それは本当だ。ただしそれは、俺達が攻略に勤しんでいる時に不意打ちされたら多少困るかな、程度の意味であり、心の準備ができている場合にはその限りではない。無償の愛が揺らぎにくいからだ」
「そっか……。不意を突かれたら焦って、『レッくんなんとかして!』って思いやすいから」
「『特定の利益』を得ようとするわけね……」
「まぁ、三人いれば誰かしら落ち着いてるだろうから大丈夫そうだけど、そういう意味では、どんな場面でも焦るかもしれないから、すぐにスイの決断が必要だったのか」
「そう。そして、俺はバイスンを挑発した。確実に俺達を潰しに来るように。決戦の場をAランク階層に指定して。完全にAランク階層を舐めてかかるDランクパーティーを装い、そんな潰し合いが起こるなんて思ってもみない感じで。
もちろん、漁夫の利を狙ってくるAランクパーティーと、『トップオブトップ』に従っているパーティー、恨みを抱いているパーティー、『プラチナセレピーズ』を含めたAランク階層に手が届きそうな実力のパーティーをできる限り集めるように。なぜなら、七百階層は身を潜めやすいからな。
それともう一つ、正直に言う。『トップオブトップ』の醜悪さを三人に肌で感じてもらいたかったんだ。心置きなく、粛清に協力する判断ができるように」
「そこまで考えてたんだ……」
「一石何鳥になってるの……」
「えーと……いや、もう分からん!」
「ただし、通常は『入階冒険者数制限』がオンになっていて、一つの階に最大七十名までしか転移できないようになっている。大所帯パーティー二つと少人数パーティー二つ程度の想定だ。その程度なら、階層クリアのために協力してもいいと暗に言っているようなものだが、公にはされておらず、実際に協力したパーティーはない。それ自体は良いことだけどな。大規模複合パーティーを制御できなくなるし、記録更新が無効になることを嫌っているんだろう」
「でも、勝手にそれをオフにしてもいいの? 他のパーティーには知らせずに」
「もちろん、問題ない。そういう規定があるから。学園内のシステムについては、その目的を明らかにした上で、学園長の責任の下、変更希望や改修希望を直接申請できて、決済してもらえるんだ。で、その承認が口頭で下りたところ。その目的も、学園の利益になる場合は機密事項にできる」
「私、そういうのあんまり読んでなかった……。学園の運営のことだから、関係ないかなって思って……」
「私だって……。生徒でも申請できるなんて思わなかった……」
「ほとんどの規程は閲覧権限を与えられてるんだろうな。誰も読まないけど」
「学園のこと全てが生徒に関係することだよ。そうじゃないと、学園は建たないんだから。だからこそ、知らなければ損をすることもある。誰も教えてくれないけどね。『生徒のこと』であっても、全てが『生徒のため』ではないというスタンスが、この冒険者学園」
「厳しい学園だよ、ホントに。めちゃくちゃ優しい学園も世の中にはあるらしいけど、俺にはここの方が合ってるかな。挫折するパーティーが多い一方、尖ったパーティーは出てきやすい」
「粛清もされちゃうし……」
「出てきた杭が打たれてるよね」
「丸みを帯びて、みんなの目印になる良い杭じゃないとな……」
「よく分かったようだね」
「そこで三人に改めて聞きたい。まず、粛清に協力してくれるかどうか。さらに、俺が『イービル』の連中を殺すことに協力してくれるかどうか。そして、自分も人を殺す覚悟があるかどうか。この三点。全て『イエス』でなくても、部分的にでもいい。
ミレイ、どうだ?」
「私は……レッくんには全面的に協力する。私が人を殺すのは……もうちょっと待ってほしい。現場を経験しないと、実感が持てずに逆に迷惑になるから。ただ、レッくんの殺人は責任を持って見届ける」
ミレイは俺の目を真剣に見つめ、現時点で可能な限りの覚悟をしっかり示してくれた。
「ありがとう、ミレイ。俺にとっては、十分すぎるぐらいだ。ナツはどうだ?」
「すでに私は、『できることがあったら何でも言ってくれ』って言ってるし、その意志に変わりはないよ。全て『イエス』だ。レツが実際にどうやるのかは見てみたいけどな」
ナツはさらっと言っているが、その表情には多少の強張りがあった。
「ありがとう、ナツ。俺が手本を見せよう。その通りにやってくれればいい。スイ、最後頼む」
「私は、基本的にはミレイと同じだけど、レツのその時々の明確な指示、命令があれば殺人もできると思う。その時は、冷たい口調で『やれ』って言ってほしい。それ以外だと躊躇するような気がする。そこは、非現実的であってほしいから。甘いかな……? 現実から逃げてるだけ?」
スイらしい考え方で、俺に確認を求めてきた。
「ありがとう、スイ。最初はその方が良いと思う。普通の少女が自発的に全て冷淡にできるわけがない。汗が滝のように流れ、心臓が激しく鼓動し、脚が震えて立てなくなってもかまわない。やっぱりできないと中断してもかまわない。でも、大丈夫だ。現実を受け入れる過程も俺がしっかりケアする」
「私からもお礼を言わせてほしい。本当にありがとう、『リトルヴィーナス』。完全にレジェンドランクの器の持ち主達だ。美しい中にも、綺麗事を言わない信念が見える。それがカリスマ性であり、人を惹き付けるんだ。
まさに、『アイドル』。『女神やアイドルはそんなことしない』なんて言うのは、お花畑の妄想でしかない。それこそ、女神から鉄槌を食らうだろう」
「人々がなぜ神を人間の姿で想像するのかを考えれば分かりやすい。自分に近い存在しか想像できず、その価値を測れないんだ。人間離れしている能力を持っているのに、人間の形をしているなんて、普通に考えておかしいからな。
天使が人間の姿に羽を生やしているのも構図は同じ。あんな羽じゃあ物理的に浮遊も飛行もできないんだよ。だったら、羽が生えている必要もない。無用の長物だ。でも、羽がないと飛べないよなぁと安易に考えて、それならこれぐらいの大きさかなとテキトーに考えた結果が『アレ』だ。
それらが美しいと考えたんだ。実際、それで良かった。だから想像できるし、崇拝できる」
「『メガミバーストファーストキセキ』を出版した理由だね。女神とファンの間に、『メガファー』という名の中間地点を置くことで、彼女達を想像しやすくして、カリスマ性を高めたんだ。謎が多くて、手が届きにくい方がカリスマ性が高いんじゃないかと思うだろうけど、実際はそうでもないんだよ。手が届きにくい云々は、また別の話だし」
三人は、『はぇ~』というような表情で、バアちゃんの話を聞いていた。
『メガミバースト』の大ファンからすれば、関係者の貴重な話だろう。
「話を戻そうか。ナツとスイの潜在スキルが判明したことにより、大規模同時粛清に当たっては、二人のスキルも使った方が、著しく効率が良いことが分かった」
「そうだった! 私の潜在スキルは、なんだったんだ?」
「私も!」
「ナツのスキルは『完全透明化』、スイのスキルは『任意幻影』。どちらも、俺のスキルとそれぞれの性格が混ざったようなスキルだな」
「く、詳しく!」
「その前に、ミレイの『時間停止スキル』がどのように実現されているか少し触れようか。各スキルには注意点もあるから、その方が自分のスキルの特徴とリスクを理解しやすい」
「わ、分かった!」
俺はミレイに、と言うより、三人に説明するつもりで説明を始めた。
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