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第十二話……ファーストキセキ

「部屋に戻ったあとは、できれば一人ずつ話しをしたい。お互いに指摘できないことがあれば聞いておきたいから。お互いが考えるママや女神のイメージも共有したいんだ」

「うーん……ミレイとナツがレツのことを好きって分かったから、おっぱいがどうのって監視する意味もなくなったけど、なんとなくそういうのは嫌なんだよね」

「私達はいつも一緒だから、だよね」

「そうだよなぁ……」


 事務処理センターを出て寮に戻る前に、人が少なくなった学園本館内中央広場の片隅で、俺達はこれからの夜のことを話し合っていた。


「気持ちは分かる。仲間外れみたいだもんな。じゃあやっぱり、スイには是が非でもママになってもらうしかない」

「……。レツは、アイツみたいにハーレム築きたいの?」


「否定はしない。じゃあ聞くけど、ハーレム状態じゃないと三人一緒には常にいられないと思わないか? もちろん、俺が入らなければ、何も考えずに三人ずっと一緒だった可能性はあるけど。他に案があるのかってことを聞きたい」

「それは……思い付かないけど……。でも、時間は欲しい」


「いや、時間はないんだ。今すぐに決める必要がある」

「説明は?」


「できない」

「『ない』んじゃなくて、『できない』か……」


「でも、結局はこの言葉に収束する。『俺を信じられるかどうか』だ。その判断材料は、現時点で全て出し尽くした。あとは、スイが考えて結論を出すしかない」

「私は……無理だよ……」

「スーちゃん……」

「……」


「無理なのは、『考えて結論を出すこと』であって、『ママになること』ではない。そうだな?」

「……」

「そうなの?」


「スイは作戦立案役の責任を、まだ引きずっているんだ。その証拠に、俺の実力を認めて以降、その会話の多くで思考を放棄していた。大好きな『メガミバースト』『メガファー』『リトルヴィーナス』の時だけは自分で導き出せたが、他は常に答えを待っていたり、夢だと言って現実から逃避したりしていた」

「……。そうだね、レツの言う通り。でも、どうしようもない。これが私なんだよ。秀才だとか言われてもこの程度。天才を目の当たりにして、全て打ち砕かれた。他のパーティーを見返す前に、私が壊れちゃった。でも、それでも上手く行くのなら、別にいいでしょ。そのぐらい、天才なら考えてよ」


「思考放棄、支離滅裂、そして再度、思考放棄。重症だよ。とてもママになんてなれないな」

「ごめんなさい……」

「……」

「……」


「……。安心したよ、スイ。『ママになる気』はあると分かって。そうじゃないと、この状況で謝らないはずだ」

「……。分からないよ、そんなこと……」


「俺は自分のことを天才だと言うつもりはないけど、所謂『秀才』には二種類いると思う。考えるだけ考えて実行に移す人と試行錯誤して結論を導き出す人。こう表すと、秀才に限ったことではないことが分かる。方法論でしかないんだ。スイは前者だった。一度決めたらそれを簡単には覆さない。すでに実行に移してしまったから。そして、その責任は自分にあるから。ここまではいいか?」

「うん……」


「とりあえず、ママの話に絞ろう。例を挙げる。シングルマザーで子育てすると仮定して、色々考えた結果、自作の離乳食を子どもに食べさせることにしたとする。でも、それが子どもの口に合わず、吐き捨てられたらどうする? 感情の話ではなく行動の話で」

「どう不味かったのか確認して作り直す……かな」


「無理矢理食べさせないのか? せっかく愛情を込めて、栄養バランスも考えて作ったのに」

「そんなことしないよ! そんなの本当の愛じゃ……! な……い……」


「もう一度吐き捨てられたら、もう一度作り直すよな? 栄養バランスはできるだけ損なわず、味見をしながら。スイにとっては、それが本当の愛だから。方法を見誤ることはあるが、愛がないわけではない」

「う、うん……」


「じゃあ、少し栄養バランスは悪いけど、もっと美味しくできるレシピがあると知ったらどうする?」

「とりあえず、何も考えずにそのレシピで作る」


「それを子どもが気に入ったとして、そのあとは?」

「……。それを参考に栄養バランスの改善を図る」


「もう少しだけ続くから我慢して答えてくれ。次に、超有能男性ベビーシッターを紹介され、その人に離乳食を任せたとする。もちろん、味も栄養バランスも最高。文句の付け所がない。このあとどうする? 不貞腐れて子育てそのものを放棄するか?」

「そんなことするわけない……。子育てには、やることなんていくらでもあるから……!」


「もう分かってるな。最後、そのベビーシッターが『おっぱいを吸わせてくれ』と言ったらどうする?」

「いや、それはおかしいでしょ! シングルマザー設定だから満更ではないけども!」


 俺が知ってる、今日話したばかりだが、いつものスイだ。

 ミレイもナツも心配そうな顔から笑顔になっている。


「はぁ……。ふふふ……あははは! 例え話で全部説明されちゃったね。私の悩みから当時の解決策、今の私と現在進行の心境まで。まさに、私の『軌跡』だ。きっとこの話は、親から子へ受け継がれるんだろうね。そして、冒険者から冒険者へ。それが教育だから」

「子どもから学ぶこともある。人間はいつまで経っても未熟だから。ただし、『やる気』がないと一生学ぶことはない。無理矢理にでも不味い離乳食を食べさせる親がいるように、それは自己満足でしかない。でも、スイは違うはずだ。

 もちろん、この世は全て自己満足で成り立っているが、程度の問題はあるからな。その『程度』が限りなく小さいのが、『ママ』であり、女神だと俺は思う。

 そう考えれば、女神になるのは本当に無理なんだろうか。道筋は見えているのに」


「確かに、分からないよね……。いいよ、分かった。レツのママになるよ。『奇跡』はもう起こしてもらった。しかも何度も。だから、レツの『未来の軌跡』に私が乗るよ。それが私の……私達の『軌跡』になる。それなら差し引きチャラ。それが最初で最後……死ぬまでずっと続いてくれたら嬉しい……かな……」

「もちろんだ。そもそも、絶対に切り離せないんだ。ママはいつまで経っても、永遠にママなんだから」

「良かったね、スーちゃん!」

「私も嬉しいぞ、スイ!」


 三人の嬉し泣きを再び見ることができた俺も、無性に嬉しくなった。


「ありがとう、みんな……。でも、レツには騙されたからね。まだ、判断材料は残ってたでしょ」

「無理矢理作ったんだよ。その辺の材料を使って」

「やっぱり、超有能だね。スーちゃんの口にピッタリだったから」

「もう家族になるしかないな! みんなで!」


 これが俺達のスタートラインになるだろう。


 いや、もうスタートは切っていたのだ。



 『リトルヴィーナスファーストキセキ』のスタートを。

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最後に、本話をお読みいただき、ありがとうございました!


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