第一章6 『俺に策がある!』
「え、えぇ? でもついさっきまで……」
ついさっき出たばかりの酒場の前にたどり着いた俺たちは、その光景に言葉を失った。
俺の手で放たれたはずの炎は、もうどこにも見当たらない。まるで最初から存在しなかったかのようだ。
瓦礫が地面に散乱し、天井は塊となって崩れ落ち、壁のほとんどは無惨に破壊されている。だが、俺たちが感じたあの猛烈な熱気は完全に消え失せ、死の灰のような灰色の残骸だけが残っていた。
「でも、どうして……? 一体どうなったら――」
「ちょ待てよ、ってことは俺ら、あのままあの子を近くに置いてってもよかったってこと?」
アンファングが俺の言葉を遮った。
「そんなことどうでもいいだろ、バカ!」
その時、冷たい液体が足元に触れ、ブーツの中に染み込んできた。靴下を、つま先を濡らしていく。背筋に悪寒が走った。
「ぐああああ!」
俺は片足を上げ、本能的に両手を縮こまらせた。とてつもなく……乙女チックなポーズで。
「ハハハ! 水が怖いのかよ?」
「あ、お前は感じないのかよ!?」
「別に」
「強がるなよ!」
「あ? じゃあ……これでも喰らえ!」
こいつ……水を蹴っ飛ばしてきやがった。
「ぎゃあ! ち、ちくしょう!!」
俺も負けじと水を蹴り返す。
だが驚いたことに、奴はほとんど反応しなかった。まるで水が触れていないかのように。
「あ?……本当になんともないのか? なんであんたは震えないんだよ?」
「さあな……でも、確かにいい点突いてるかも」
奴は……水の中に身を投げた。顔面から、地面へと。くるぶしまでしかない深さの水の中にだ。
「な、何やってんだお前!?」
一瞬、奴は顔を水に沈めたまま沈黙していた。やがて、びしょ濡れの石に手をついて立ち上がった。
「変だなあ……」
ダイブのせいで前髪が垂れ下がり、服はずぶ濡れだ。だが、俺を見つめるその表情は好奇心に満ちていた。まるで興味深い実験結果を観察する科学者のようだ。
「マジで何も感じないわ。水の冷たさとかさ。圧力は感じるけど、温度は外にいるのと変わんない感じ」
突然、奴の顔に満面の笑みが広がった。
「これ、すごくね!?」
「ああ、まあ……正直……」
変な奴だ……。
俺たちは酒場の方を振り向いた。水はそこから流れてきている。階段を伝って滝のように俺たちの足元へ。
「ふむ、ってことはあそこから来てるのか……」俺は分析した。「アンファング、もしかして消防士か?」
奴は穏やかな、澄まし顔で俺を見た。
「ヨナス、中世に消防士なんていないと断言できるっしょ」
あ、あぁ、そりゃそうだ……俺は今住んでいる世界をすっかり忘れていた。
この時代、そんな仕事で給料をもらっている奴なんていない。火事と戦う時は教会の鐘が鳴り、住民が集まってバケツリレーってやつをやるんだ。手伝わない奴はお上の命令に背いたとして罰せられる。
なんと悲劇的か。飢えと貧困に苦しみながら、国の問題解決の責任を負わされ、死ぬことだってあるなんて。
「あ、でも、それなら鐘が鳴るはずじゃ?」俺は尋ねた。
「そう言われてみれば、俺も何も聞こえなかったし、バケツ持った奴も見なかったな。近くに教会はあったけどさ」
お、こいつ結構物知りだな……待てよ、俺と同じこと考えてたのか? 教会のことまで? 結構マニアックな知識だと思ってたのに……。
ってことは、俺たち趣味も合うのか!
「じゃあアンファング……何が起きたと思う?」
「決まってんじゃん」奴は頷いた。「能力の仕業だろ」
だが、俺は奴の言葉をほとんど聞いていなかった。俺の目は別の場所に釘付けになっていた。
「お、おい、アンファング……」俺は少し怯えながら囁き、空を指差した。
「な、なんだありゃ?」
そこには、どの人間よりも雲に近い場所を、一人の男が歩いていた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
数分前:
「え? ヒヒヒ……生意気なお嬢ちゃんだねぇ」
腰に手を当て、服も笑みも「エゴ」を叫んでいるような白髪の男――コエリョが言った。
数年前に彼が作らせた、今は破壊されたカウンターの上に立って。その目の前、もう存在しない壁を背にしているのは、眼鏡とナイフの少女――アンナだ。
二人とも服に軽い切り傷はあるが、肌はほぼ無傷だ。
コエリョに至っては、最後の一撃を受けたにもかかわらず、その手にはかすり傷一つない。
「組織の一員だから私を殺したいのかい? だって、あててみようか……復讐だろ? はいはい、きっとそうさ。私か、我々の誰かが君の親しい誰かを殺した――」
「黙りな!!」
ナイフを振り上げ、アンナは飛びかかった。
再び、マチェットと金属の腕が衝突する。
ガキンッ!
「ヒヒ……いつも同じだねぇ。『肉体の神:チェイン・オブ・エクソダス』!」
(表記:『肉体の神:連鎖する脱出』)
彼の一本の髪が、金属のように鋭く尖った。
金髪の盗賊が気づいた時には、それはすでに顔の近くに迫っていた。
「く、クソッ――」アンナは呻き、素早くマチェットを持ち替えて髪を防いだ。
防ぎきった。
だが、正面がガラ空きになった。
「ここだ!!」
コエリョは彼女の鼻に頭突きを叩き込んだ。
ゴッ!
血が飛び散り、眼鏡が砕け、意識の一部が吹き飛ぶ。
「まだ終わらないよ!」
コエリョは彼女の胸に蹴りを叩き込んだ。
彼女は吹き飛び、テーブルの上に落下してそれを粉砕した。
ガシャンッ!
眼鏡の少女は再び血を吐き、意識を取り戻そうと何度も体を起こそうとするが、そのたびに崩れ落ちた。
「おやおやおや。え? 本当に終わりだと思ってるのかい? まだまだこれからだよ」
これ以上近づくことなく、彼は立ち止まった。一歩も動かない。アンナは気づいた。彼は確信している。そして何より、サディスティックだ。この一秒一秒を楽しんでいる。
「ふむ、さっき複数のものを生み出す攻撃を使ってたね? まあ、私も似たようなことをさせてもらおうか」
コエリョは地面を強く踏みつけた。
「『召喚魔法第五階梯:ジョブズ・プレイグ』」
彼の体の影からハエが現れ、次にオウム、ハイエナ、狼、ワニ、無数の昆虫の群れ、鳥、捕食者たち――あらゆる生物が、最も恐ろしい猛獣を含めて一体ずつ現れた。すべてが肉体的に全盛期の状態で。
それら全てがアンナを冷たく睨みつけていた。その中心に立ち、笑みを浮かべる白髪の男を除いて。
「ヒヒ……こっちの方がずっといいだろ? 何を試すか分かるかい、お嬢ちゃん? 簡単さ。ある者は君を拘束し、ある者は順番を待ち、殆どは噛みつく。外側だけじゃなく、君の体の中もね。みんな腹ペコなんだ。
私の疑問は、どれくらい保つか、ってことさ。理解できるだろ? 私はただ、この力の限界を知る必要があるんだ。当然、人類のために記録もしなきゃね、ヒヒ……。魔力をほとんど持っていかれるが、それだけの価値はある。
さあ、時間だ――」
「な、なんて……バ、バケモノ……」
目の前に無限とも思える動物たちがいても、アンナは怯まなかった。それどころか、彼女は高らかに笑った。
「おや、遺言かい? 可愛いねぇ。続けていいよ」
アンナは彼を見るのにも、狙うのにも眼鏡など必要なかった。
「何か足りないと思わないかい!?」
数秒間、コエリョは沈黙した。いつものニヤついた笑みが消え、ただ彼女の手を見つめた。
やがて、彼の眉が上がった。
「マチェットが――」
倒したはずのアンナの手には、武器が握られていなかった。
だが、さすがはコエリョと言うべきか。彼は即座にナイフのある正確な方向を見た。
自分の背後だ。
「『空気魔法第一階梯:フロンタル・パーパス』!!」アンナが叫んだ。
その瞬間、ナイフが飛び、コエリョの首を貫いた。
ザシュッ!
その僅かな一瞬、彼は何が起きたのかを悟った。
以前の衝突で、彼は自らの暴力的な力を乱用し、彼女を簡単に打ち負かしたと思っていた。しかし、頭突きか蹴りの最中、アンナは戦略的にナイフをコエリョの背後へと投げていたのだ。傲慢な男は、自分がずっと完璧な射線上にいたことに気づいていなかった。
いや、気づいた時には。
もう遅すぎた。彼の首は、刎ねられていた。
指を鳴らすように、全ての動物がかき消えた。血も骨も塵も残らない。
地面に落ちたコエリョの首を除いて。まだショックを受けた表情のまま。
「ヒ、ヒヒッ、アタシの勝ちだね……」
もう片方の腕を掴み、彼女は立ち上がった。体中傷だらけだが、今まで感じたことのない満足感があった。
「やった……アタシ、本当に……本当にやったんだ……こ、これが最初の一人目――」
「え? そんな簡単に死ぬと思ったのかい?」
死んだはずの生首が喋った。
胴体だけになった体が動き、自分の頭を抱え上げた。
「私の『神』がどういう仕組みか知らないのかい? 甘ちゃんめ」
そして、頭を首の上に戻し、両手で押さえた。
「今、全ての血管と神経が再接続されている。そしてすぐに――」
彼が手を離すと、頭は落ちなかった。首には傷一つない。髪の毛一本すら切れていない。全てが繋がっている。
「元通りってわけさ!」
アンナの瞳が震えた。恐怖がこみ上げてくる。だが、それは死への恐怖ではなかった。いや、そんなものはとっくに乗り越えている。
それは、誰かに立ち向かうことへの恐怖だった。
「テ、テメェ――」
「おやおやおや、焦るなよ、いいかい?」コエリョはいつもの得意げな笑みで遮った。「そんな奇妙な斬首を目の当たりにした後じゃ、喉も痛むだろ? いい努力だったが、無駄だったね」
コエリョの首を刎ねたマチェットは、アンナから遠く離れた壁に刺さっていた。だがすぐにそれは消え、痛む彼女の手に新たな一本が現れた。
「おや、まだやる気かい? 分かるよ、実際美しい光景だ。なら、私も相応に返そうか。君に怒りはないよ、ただ……哀れだね。ちょっと切ったくらいで私を殺せるとでも思ったんだろ? ナイフだけど甘いねぇ、実に可愛いよ」
彼女はマチェットを強く握りしめた。心の底では無駄だと分かっていても。自分の最期が近いと知っていても。
「ま、まだ終わってない……テメェら全員、ぶっ殺してやる……」
「え? そうは見えないねぇ。だってその構え……まあ、マシな方だけどさ」
彼は次の標的をはっきりと見るために、髪を後ろにかき上げた。
「さっきの攻撃で魔力をほとんど使い果たしちゃってね。だから生まれつきの能力しか使えないんだが……まあいいさ」
親指に息を吹き込むと、彼の手全体が再び不釣り合いな大きさに膨れ上がった。
「この技の名前はもう知ってるね? ヒヒ、光栄に思いなよ。最初と二回目は君に使ったんだ」
そしてアンナにできることは、以前のように彼の手を突き刺すことを願い、ナイフを上に向けることだけだった。今度はそのまま押し潰されて死ぬ確率の方がはるかに高いと分かっていても。
「さて、いくよ。『肉体の神:ジャイアント・パンチ』――」
少女の命を終わらせる直前、何かがコエリョを止めた。
彼は見上げた。自分の巨大に膨らんだ手の先を。
その顔は恐怖に染まっていた。
「こ、これは……まさか、火か!?」
アンナははっきりと気づいた。どういうわけか、火を見るとコエリョの体は凍りついたように震えていた。
「ク、クソッ……『肉体の神:ジェイコブズ・ラダー』!」
手が萎むと同時に、二本の髪の毛が鋭くなり、先端が太くなった。そしてその白髪が垂直に伸び、持ち主を吊り上げた。
アンナは信じられない思いで見ていた。コエリョができる限り高く飛び上がるのを。雲の近くまで。自分の髪を支柱のように使って。
そして上空で、彼は叫んだ。
「『水魔法第一階梯:リバー・スプラッシュ』!」
彼の足元から水が噴き出した。少しではない、波そのものだ。落下しながら、酒場に広がる炎を飲み込んでいく。
ゴウウウッ!
「ク、クソッ……避けた方がいいな……」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
一方、地上では:
俺はようやく到着した。隣には相棒のアンファング・バウムガルトナー。
そして、その濡れて汚れた場所に入って最初に目にしたのは、床に倒れている見知った女性だった。
「おい、大丈夫か!?」俺は必死に叫び、二人で彼女のそばに駆け寄った。
「な、なんてことだ、すまない! アタシ、本当の悪党はあいつなのに、アンタたちを襲っちまって――」
「そ、そんなこと言うなよ……」彼女は呟いた。「あ、アタシ、アンタの足に杭を刺したのに」
ああ、言われてみれば確かに……もう俺の体には刺さってないけどな。
「なあ」アンファングが彼女の隣にしゃがみ込んだ。「まだ戦えるか? 魔力は残ってる?」
「は、離れて……アンタたちバカかよ、首を切ったってあいつは死なない……何やったって無駄なんだよ」
「だから聞いたんだ、まだ戦えるのかって」
「……ああ、少しなら……でも、それが何になるんだい?」
アンファングは右の上腕二頭筋に手を当てて力こぶを作ると、ニカッと笑った。
「俺に策がある!」




