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プロローグ 『すべてが再び始まることへの恐れ』

「嫌だ、もう二度と……」


俺は走る。必死に。

結局は避けられないと分かっていながら。


それでも、俺は一欠片の希望にしがみつく。

足元の雪片よりも小さな、ほんのわずかな希望に。


息は切れ、服は裂け、帽子などとうの昔に失くした。


ヒュー、ヒュー。 荒い呼吸が空中で凍りつく。まるで南極の氷を直接吸い込んでいるかのようだ。


足を踏み出すことすらやっとだ。一歩ごとに足を撃ち抜かれたような激痛が走る。ミシッ。骨がきしむのを感じる。


雪片が目の中に落ちてきた。子供の頃、目に何かが入るのが何より怖かったというのに。

だが、目は閉じない。それどころか、瞬きひとつしない。


夜は冷たく、不気味だ。そして何より恐ろしい。だが、俺を待ち受ける運命ほどじゃない。


森を形作る黒い木々はどこまでも続く。歩き続ければ、やがて黒い空へと落ちてしまいそうだ。


ああ、この森……。何度も見た場所なのに、いつもまるでパズルのように見える。


だが、それは怖くない。いや、もっと恐ろしいものがいる。


男だ。


それでも進まなきゃいけない。また最初からなんてごめんだ。いやだ、ここまで来たのに。頼む!


振り返るな。力を振り絞れ。落ち着こうとしろ。走れ。


だが、奴は無慈悲だ。


「もう慣れただろう?」


声帯が文字通り凍りついたのか、単に力が残っていないだけなのか。


怖い。今までの人生で一番。


ここまで来たんだ。今回は完璧なはずじゃなかったのか? なぜ奴はこんなことをする?


なぜ俺には誰も守る力がない? なぜ助けなしじゃ何もできない? なぜ逃げることしかできないんだ?


なぜ平穏に生きられないんだ!?


目から涙がこぼれた。いや、いくつも。だが、それもすぐに凍りついた。


そして、俺の体。


ついに低体温症が襲ってきた。わずかなアドレナリンではもう抗えない。


それでも、手を使って這おうとする。赤く腫れ上がり、擦り切れて肉が見えている手で。


足はもう立たないが、這うことくらいはできるはずだ。


無駄だ。分かっている。だが諦めたくない。こんな現実、認めてたまるか。


「家に、帰りたい」


ほとんど本能的に言葉が出た。


本当にそう思っているのか? 自分でも分からない。


どっちの家のことだ? それも見当がつかない。


だが、それが何だというんだ? 結局は何の違いもない。どうせ俺は、囚われているのだから。


「一つ聞こうか」


男は薄ら笑いを浮かべていた。見慣れてしまった、恐怖と死の象徴のような笑みを。


振り返って奴を見ようとしたが、できなかった。


その瞬間、全ての希望が砕け散った。


もう時間の問題だ。


指はもう震えていない。そんな力すら残っていないのだ。目も同じだ。


下の雪が俺を飲み込み始めた。まるで俺を受け入れようとするかのように。


男は俺の一歩後ろで立ち止まった。いつものように、その目に嗜虐の色はない。あるのは一種の、悪魔的なまでの決意だけだ。


「この世界を愛しているか? ジョナス・ソルバーグ」


再び、奴は俺の首を斬り裂いた。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


俺の名はジョナス・ソルバーグ。高校生活の最後を迎えようとしている、もうすぐ18歳の若者だ。


これまで大きな悩みもなく、平穏に生きてきた。

学校に友人は少ないが、そんなことは気にしていない。俺が心から好きなのは、親父と一緒に家にいる時間だからだ。


俺と親父の二人きり。森と、毎日のように降り注ぐ雪のそばで暮らしている。

北欧の冬は厳しく、何枚も服を重ね着しなければやっていられない。


俺の恰好といえば、白いコートに、同じ色のニット帽。

ああ、それから背は高くも低くもなく、力も強くも弱くもない。まさに平均のど真ん中だ。筋肉をつけようとしたことすらないと認めてもいい。


本当は、俺の人生に必要なことなんだけどな。


なぜかって? それは、俺と親父が木こり(ランバージャック)だからだ。


一日中木を切り、燃やし、売る。そんなことを心から楽しんでいるのは、学校でも俺くらいのものだろう。

だが、それは極めて穏やかで、落ち着く時間だ。毎日のセラピーみたいなものさ。


その生活は俺の性格にも表れているらしい。「穏やかで、一人でいるのが好きで、誰にも迷惑をかけず、かけられず」……よく人からそう言われる。


別に人間嫌いというわけじゃない、断じて。知らない人とも普通に話せるし、頼まれれば勉強だって教える。


うちは代々この仕事をしてきた家系だから、驚くことじゃないのかもしれない。だが、親父はいつもそれが不満らしい。

家を出て、大学に行き、金持ちになれと言う。俺の成績が良いから余計にだ。


でも、俺はそんなこと望んでいない。なぜかは自分でもよく分からないが。

ただ、今の生活が好きなんだ。シンプルで、平穏なこの生活が。


少し悲しい人生に聞こえるかもしれないが、正直、俺はそうは思わない。


何か間違っているか? 両親の小屋を継いで、そこで生きたいと願う男の何が?

いつか恋人を見つけ、結婚し、子供を作る。善良なクリスチャンのように。ああ、それは素晴らしいことだ。


シンプルで、平穏。


「お前は事なかれ主義だな、ジョナス」


ああ、またか。親父には数え切れないほど言われた言葉だ。今また、それを繰り返している。

もっとも、親父の言うことは間違っちゃいないが。


「だから何だよ? 少なくとも平和だろ」


土曜の夕暮れ、俺たちは薪を割っている。

冬の日は落ちるのが早い。だが俺は、この空を見上げるのが好きだ。工場の煙から遠く離れているから、満天の星が見える。天の川だって見えるんだ。なんて美しいんだろう。


そしていつものように、手には斧。

カーン! カーン!

木を切る音が響く。


「今日はこれくらいにしておこう」


俺の左側には、すでに大きな薪の山ができている。かなりの稼ぎになるはずだ!

なにせ俺たちは、国でも有数の木こり集団で、政府に直接卸しているんだからな。

誇らしいことだ!


親父が薪の山へと歩いていく。一歩ごとに、ザクッ、ザクッ雪に深い足跡が残る。


親父は薪の束を胸に抱え、俺を見た。


「ジョナス。森の中に薪の束を置き忘れてきたんだ。取ってきてくれないか」


森の中? ああ、忘れてきたのか。


「ああ、任せろよ。デカい図体のおっさんには無理な仕事みたいだしな」


「すまん。もう暗いが、あの子の様子を見に行かないといけないんでな」


ああ、そうだった。二年前に生まれた従姉妹が一緒に住んでるんだった。すごく可愛い子だ。


俺はそのことについて、なるべく考えないようにしている。


「まっすぐ行くだけだ。遠くない」


そう言い残し、親父は家の中へと入っていった。


グズグズしてられない。さあ、行くか。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 


ここは、何十回、何百回と通った場所だ。黄昏時の暗闇なんて、もう何年も怖くない。


ゴオオオオオ…… 聞こえるのは、頬を打つ雪混じりの風の音だけ。視界は数センチ先まで。その先は漆黒の闇だ。

だが俺は怯みもしない。慣れっこだ。俺にとってこれは呼吸と同じこと。


懐中電灯を持ってくるべきだったが、すぐ近くだし心配ないだろう。

この辺りにいる動物といえば、リスやヘラジカ、トナカイ、あとはヤマネコが数種類くらいだ。

叔父貴はホッキョクグマを見たと言っていたが、あの酔っ払いの法螺話に決まってる。


とにかく、薪の山はこの辺りに――


『ジョナス』


ん? 誰か呼んだか?


親父か? いや、あの声はずっと若かった。それに、木々の間を縫って遠くから響いてくるような、反響した音だった。


風の音と聞き間違えたのかもな。同じ音を長く聞いていると、脳内で幻聴が聞こえるという科学的なアレかもしれない。

だが、それじゃあ俺の体が凍りついた説明がつかない。寒さのせいじゃないんだ!


とにかく歩け。目的地へ向かうんだ――


『お前の世界は、ここにある』


おい……今のっ、気のせいじゃない。


あの声……待てよ、俺の声か!?

俺が俺を呼んでる!? 一体どうなってやがる――


『お前の居場所は、ここだ』


雪に遮られていても、音の出処はわかる。

右だ。


行くべきか? どう考えても罠っぽい。しかも木々の真っ只中、何も見えない場所だ。


だが、俺自身の声だぞ? 意味がわからない! 何か超常的な――


……落ちた?


足元の地面が消えた? ここはずっと崖だったのか? 柔らかい雪の上を歩いていたのか?


だが、横に逸れたわけでもないのに、なぜ唐突に雪の下が空洞に?


何が起きている? 視界が遅れてる? いや、違う。考える間もなく沈んでいく――


そして――

ガッ!!!!

俺の体は硬い地面に叩きつけられた。生命が、失われていく。

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