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第十一話 花嫁ごっこ

「おや、結婚式ですね」

 ある街を訪れた時だ。教会の前で人々に祝福されている白い装束の男女の姿を見かけてクリスが足を止めた。

「賑やかですね。まあお祝い事ですから」

「まあ、そんなものだろ」

 ファウストのほうは興味もなさそうに通り過ぎて、クリスもそれを追いかけた矢先だ。

 教会のほうから悲鳴が聞こえて、立ち止まって視線を向ける。

「まただ…! 新婦がさらわれた!」

 聞こえてきたのは、参列者の一人の声だった。




「結婚式を狙う悪党がいる?」

「そう聞いています。決まって新婦をさらうそうで、これで五件目です」

 ギルドで聞いたのは、そんな事件のあらましでギルドにも依頼が来ているらしい。

「くだらねえ。どうせ嫉妬とかだろ」

「まあそう決めつけずに。その新婦たちの捜索状況は?」

「探していますが、見付からずで」

 ファウストはやはり興味なさそうで、あくびをしている。

 クリスは面白そうににんまりと笑って、

「わかりました。引き受けましょう」

 と答えた。



「おい、簡単に引き受けてよかったのか?」

 ギルドの建物を出てからそう聞いてきたファウストに、クリスは常の笑顔のまま、

「まあ報酬は高かったですし、それに疑問でしょう。

 なぜ新婦を狙うのか」

「だから嫉妬だって」

「それにしたってハイリスクですよ」

「まあ、それは…」

 言われてファウストもおかしいとは思ったらしい。眉を寄せる。

「捜索はほかの依頼を受けた冒険者がやっているそうなので、聞き込みですね」

 クリスの言う通りに、被害者の家などに聞き込みに向かったクリスたちだが、めぼしい情報は手に入らない。

「被害者の共通点、ありませんでしたねえ」

「共通点ならあるだろ。花嫁」

「それはそうなんですが」

「…いや、もしかすると」

 ふとなにか気づいたようにファウストが呟いた。

「なにか思いつきました?」

「花嫁ってことは、純潔だろ。婚前交渉は基本禁止だからな」

「そうですね。この国では」

「なら、確実に純潔の女を必要としている、とか」

 ファウストの言葉に、クリスもありそうだと思ったのか目を瞬いた。

「…ああ、それはありそうですね。

 人身売買でも処女の女性は高値がつくそうですから」

「だがどうやって尻尾を掴む?」

「一芝居打ちますか」




 その数日後、教会の一室でクリスは見事な花嫁衣装に身を包み佇んでいた。

「…馬子にも衣装だな」

 準備が出来たと呼びに来たファウストがそう呟くが、妙な間があった。

「今の間はなんですか?」

「なんでもねえ」

「フォスこそ、似合ってますよ」

「こんなもん着る日が来るとは思ってなかったがな」

 ファウストも白い新郎の衣装を纏っている。

「俺たちの推理が外れていても、狙っては来るだろうさ」

「まあ、そうですね」

「…お前はどうなんだ?」

「はい?」

 不意に歩み寄ってきたファウストが、クリスを見下ろして静かに尋ねる。

「純潔の花嫁。…お前は、俺に抱かれていいのか」

「私は花嫁になりようがありませんから」

「それはどういう…」

 ファウストが眉を寄せた矢先だ。「準備が出来ましたよー」とシスターの声がして、クリスは花嫁の格好でにこりと微笑む。

「じゃあ行きましょうか」

「…ああ」

「ああ、あとですね」

 クリスはファウストの胸に手を当てて背伸びし、耳元で囁く。


「フォスになら抱かれてもいいのは、事実ですよ」




「健やかなるときも病めるときもこれを愛し、これを敬い、真心を尽くすことを誓いますか?」

 教会の祭壇の前、神父の言葉に二人は厳かに頷く。

「…はい」

 だがこれは演技なのに、やけに落ち着かないとファウストは思う。

 クリスがあんなことを言うからだ。

 そう八つ当たり気味に心の中で詰った矢先だ。

 教会の裏手で爆発音と振動が響いた。

「来たか」

 ファウストは素早く動き、教会の外に飛び出す。だが怪しい人影は見えない。

「フォス!」

 クリスの声に反応して振り返った視界で、クリスの身体を抱えていくシスターの姿が見えた。

「シスターだ! シスターがあいつをさらって行った!」

「なんだって!?」

「そういえばいつも結婚式の時にはあのシスターが」

 今回の茶番に協力してくれたのは今までの結婚式で新婦を攫われた被害者たちだ。

 小さな街だから、教会はここしかない。ならば、教会の関係者が犯人の可能性はあった。

「しかし、馬鹿をしたな」

 にっと全く心配していない顔でファウストは呟く。

「お前たちが招き入れたのは、怪物だぞ」

 そういえばある話を思い出す。

 悪魔は応答がなければ家の中に入れない。

「まさしくそれだな」

 しばらくして、光魔法の閃光が空を照らした。

「合図だ」

 今のはクリスからの合図。あの光の下が、奴らのアジトだ。




 意外にもアジトは普通の民家だった。

「よう」

「フォス」

 ファウストがその民家に足を踏み入れた時には、床に複数人の男たちが倒れていた。

 息はある。事情聴取があるから、殺さなかったのだろう。

「聞くまでもないが、無事だな?」

「はい。全員倒しました。あ、殺してはいませんよ。

 街の外れのねぐらにさらった新婦さんたちもいるそうです」

「そうかよ」

 そもそもこの作戦、クリスを攫わせさえすればよかったのだ。それで解決なのだから。

 ファウストは首に手を当て、骨を鳴らす。

「これで解決だな。らしくねえことしたから肩が凝った」

「そうですね。私もらしくないことをしました。

 …どうします?」

「なにがだ?」

 花嫁衣装のまま、クリスが目の前に立って見上げてくる。

 悪戯めいた微笑だ。

「永遠の愛を誓っちゃいましたけど、私たち」

「あんなの、」

 演技だろ、と言おうとしてやめる。

 顔を寄せると、そっと触れるだけの口づけをした。

「誓うか?」

 吐息の触れる距離で囁いたファウストにクリスはにっこり笑って、

「いえ、面倒くさいです」

 と言い切った。

「は、お前はそういう女だよ」

 そうだ、ただの気の迷いだ。そう言い聞かせた。


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