15話 魔法実技
午前の授業も終わり、ルシアンは午後の「基礎属性魔法訓練」の授業を受けるため、演習場へと向かっていた。
その後ろには、同じく岩属性魔法の適正を持つ者たちが続く。
「しかし、わざわざ属性ごとに分けて授業をするとは…」 そう口火を切ったのはエイジ。
「属性毎で特性が違いすぎるからじゃないか?例えば岩と雷じゃそもそも用途が違いすぎる」 そう返したのはライ。彼は岩属性魔法を使った物理防御を得意としている。
「先生はどんな人なんだろうね」静かに問うたのは6人の中で唯一の女子であるエミリア。
「確かグラン先生?って書いてあった気がする。どんな人かは分からないけど、岩属性魔法のは最初は防御系の魔法って聞いたよ」答えたのは中性的な見た目をしたシド。
「防御系か……、防御壁でも作るのかな」ソウマが呟いた。
ルシアンは特に口を開くこともなく、話を聞きながら歩き続けた。
やがて一行は、開けた石造りの広場に到着する。演習用に造られた大きな訓練場には、幾何学的な魔法陣があらかじめ刻まれていた。
そこに、すでに待っていた初老の男が一人。がっしりとした体格、岩のような顔立ち、そして無駄のない動作。
「ようこそ。私はこの授業を担当する、グラン・ドルトンだ」
グラン教官は短く自己紹介をすると、すぐに本題へと入った。
「今日の課題はレベル6のフォールを使って岩の壁を作ってもらう。学園に入学できている以上、全員レベル6なら使えると思う。ただ壁を作るだけじゃなく、とにかく防御壁としての性能を意識して作れ。他にも魔力効率や構築安定性も考えることだ」
号令とともに生徒たちは各自の構築に入った。
「「岩属性魔法レベル6 フォール」」 ルシアンとソウマは早くも壁を作りつつ、分厚く大きな壁を作っていた。
他が壁を作るも長い間壁として形を残し続けていた。
「ルシアンの壁はとにかく大きくて分厚いな。魔力相当もっていかれてるんじゃないか?」
「そんなこともないぞ。無駄のないように全体に均一に魔力を流してる。ソウマの壁も同じようにしてるんじゃないのか?」
「僕は普段防御魔法で壁を作ってるからどうも感覚が掴みにくくて今でもギリギリだよ」
ルシアンとソウマは既に壁の質について話し合っていた。
他の4人もそれなりの大きさの壁を作れるようになったところでグラン先生が大きな声で注目を集めた。
「うむ。全員中々良いものが出来てきたな。岩属性魔法を使うものは戦場に出た時、基本このように壁を作って味方を護る。これを複数作ったり、連続で生成出来るようになれば、戦場でも生き残れるだろう」
「そして……、極めればそれが自身の一番の強みになる。」
そう言うとグラン先生は見たことの無い魔法を使いだした。
「《独創》アルカディア・ブレスト!」
大地からせり上がる無数の岩が、連なって半球状の巨大な防壁を形作る。 厚み2メートル以上、内側には魔力を拡散させる構造が施され、まさに“守るための神殿”とも言うべき防御壁。
「これが私の《独創》だ。他にも何個かあるが、複数の仲間を守る際に非常に役に立つ」
静まった演習場でルシアンが口を開く。
「先生、俺も見せたい魔法があります」
グラン先生が静かに頷くとルシアンは魔法の詠唱を始めた。
「《独創》岩属性魔法レベル12 ストーンカーテン」
バシュゥゥン!と音を立てて地面から無数の岩の柱が出現。螺旋状に広がったそれらが絡み合い、巨大な“動く壁”となって迫り上がる。
「ほう、これは良い。この《独創》は独学か?そしてレベル?とはなんだ?」 グラン先生は興味津々に問いかける。
「はい。俺は新しい《独創》を覚える度にレベル10までのようにレベルを上げていってます。その方が…覚えやすいので」ルシアンは少し恥ずかしそうにも見えた。
「僕やルシアンを含んだ幼なじみの間では《独創》にレベルをつけています。」
「凄いなルシアン、それにソウマも。それって《独創》を何個も覚える前提の考え方じゃん」
「確かにそうだな。卒業までに一体どれほどの《独創》を覚えるのか楽しみだな。」
「私も…早く追いつきたいな。」
周りの生徒も興味津々な様子だった。
「うむ。みな向上心があって素晴らしい。そろそろ時間だから今日の授業はここまでだ。今日学んだことは各自でまた復習しておくよくに。」
「はい!」 グラン先生の言葉に対し6人が返事をし、初めての実技授業を終えた。
岩属性魔法の授業を終えたルシアンとソウマは、静かに寮への帰り道を歩いていた。
「グラン先生の《独創》……本当に美しかったな」
ソウマが言う。
「構築の理論が整いすぎてる。あれを応用すれば、応急用の拠点防壁もいけそうだ」
ルシアンは淡々と応じながら、頭の中で防御構築のパターンを反復していた。
そのとき、砂利を蹴散らす足音が響いた。
「おーい、ルシアン、ソウマー!」
レンが手を振りながら走ってきた。
「風属性授業だったんだろ?どうだった?」ソウマが尋ねると、レンは苦笑いしながら肩をすくめた。
「いや〜、正直きっつい。拳で殴る方がよっぽど分かりやすいよ。風の流れとか力の逃がし方とか、考えること多すぎて頭痛ぇ」
「だろうな。お前、風を“撃つ”じゃなくて“ぶん殴る”方に向かってるし」
ルシアンが淡々と指摘すると、レンは照れ笑い。
「まあまあ、アカネの方がひどかったからな」
「え?アタシの話してた〜?」
レンの後ろからアカネが現れる。木刀を背負いながらも、元気な笑顔は変わらない。
「いや、アカネ。風魔法の演習中に、剣で風斬ってたの、お前くらいだったからな……」
「だって!どうしても風で剣を強化するってイメージが湧かなくてさー。風だけで攻撃するより剣振った方が早くない?」
「うん、それを言っちゃ授業の意味が……」
ソウマがため息をつく。
そこへ、アリサとアイが合流してきた。
「やっと見つけた。全員揃ってるわね」
アリサが整った呼吸を整えながら言う。
「アイとアリサは雷だったんだろ?どうだった?」
レンが軽く問いかける。
「んー、レオくん、すっごかった!サンダースピア連発しても全然魔力切れてなかったし、何より――あの構え!発動の瞬間のピシャァ!って音!めちゃくちゃカッコよかったんだから!」
「……サンダースピアか。レベル9を連発できる魔力量、それも演習中で……さすがは王族」
ルシアンが少し顔をしかめるようにつぶやく。
「威力もだけど、制御の精度もすごかったわ。標的の中心だけを正確に貫くんだから」
アリサも感心したように付け加える。
「私たちみたいに補助や付与がメインの魔法とは別次元って感じだったよねー」
アイがぽやっと笑いながら続ける。
「“カッコよかった”……か」
ルシアンが小さくつぶやいたのを、アイは見逃さなかった。
「え?なになに?ルー、もしかして……ヤキモチ?」
にやりと笑みを浮かべ、アイが横にぴたりと寄る。
「別に……ただの演習だろ」
「ふふ〜ん、サンダースピアの“構え”が“かっこいい”って言っただけだよ〜?でも、ルーはずっと私にはかっこよく見えてるよぉ?」
「……お前、またそういうこと言って……」
「えへへっ、ルー照れてるの珍しくて意地悪しちゃうね」
アイの無邪気な笑顔に、ルシアンは少しだけ顔を背ける。
ソウマが横で静かに目を細め、アカネとレンは「仲良いな~」と笑いながら見守る。
そのやり取りに、アリサが小さく笑いながらつぶやいた。
「……平和ね、こういうの」
アリサが小さく笑った。
そんな何気ない会話を最後に、6人はゆっくりと歩き出す。
男子3人、女子3人。それぞれの寮棟へと、自然に分かれていった。
初日の授業は、こうして幕を閉じた。