愉悦
幼い頃に両親を魔獣に殺され、天涯孤独の僕を村の人が14まで育ててくれた。
いつか魔獣を倒せる強さが欲しい。
「サイテル、また素振りかい?」
「わっ!」
「……やっぱり、まだ仇を諦めてないんだね」
そう、僕は諦めていない。けれど、ただ農作業を手伝ってきただけの村人には魔獣と戦う武器も力もない。
敵討ちしようにも、元凶とされる魔獣は既に冒険者に討伐されてもいる。なぜなら目の前で魔獣が僕の両親を喰って、物心ついたばかりの僕に襲い掛かるところを討伐されるまで見ていたからだ。
「強くなりたいならマレダ神様に祈るんじゃ」
声の方を確認すると知らない老婆がいた。まばたきをすると消えていて、気味が悪い。
「サイテル。鍛えてるとこすまんが森で薬草を採取してきてくれんか」
「はーい。行ってくるよ」
村の近くにある森の、少し分け入った先のじめじめした場所は、生活に欠かせない草や木の実が生えている。
10年前の一度のイレギュラーをのぞいて、賢者クラール様の結界で森に魔獣は入って来られない。
「そうだ村の長老が腰を痛めているので、ヒンヤリ草は多めに……」
採取に夢中になっていると、キラキラした腕輪を見つけた。冒険者の落とし物かもしれない。それを拾って長老に渡しておこう。
「ごくろうさん……」
僕は腕輪を持っているのだが、特に何も言われず。
「森で落とし物をみつけたんです。冒険者のものでしょうか?」
「ふむ、せっかくじゃ、拾ってきて落とし主が取りに来るまで預かっておきなさい」
僕は腕輪を掌にのせていて、だけど長老にはそれが見えていない??
深く追求しようとしていると、長老が腰痛で「じゃあの」と親指を立てて気絶した。
「長老おおおお!」
◇◇
腕輪を人差し指でくるくるとしてふざけていると、腕輪をうっかり転がしてしまった。
通りがかりの酒場のおじさんはそれをすり抜けていく。これで、腕輪は他の人には見えていないと確信した。
腕輪を拾い上げ、自宅へ帰る。腕輪を眺めていると、囁き声がした。
〝腕輪を〟
その声に従って大丈夫かと躊躇う。
「誰?」
〝マレダ〟
神様、あの怪しい老婆の言っていた力をくれる神様だ。
「力がほしい。そして魔獣で苦しむ人が減るように、僕が倒すんだ」
腕輪をはめても何も感じない。ガセネタを掴まされたらしい。誰も見てないのに、カッコつけて損をした気分。
〝見ているぞ〟
なんと、腕輪の神様は存在したようだ。
〝私は悪い魔法使いクラールによって腕輪に封じられた〟
「え?」
村を守るために結界をはってくれたクラール様が、悪い魔法使い?
〝腕輪が村に入って来たということは、結界が弱っている証拠〟
「そうなのですか?」
〝クラールは10年前に魔獣を村に放った張本人だ〟
にわかには信じがたいが、10年前……それは両親が殺されたイレギュラーのタイミングだ。
……その日は結界が緩んでいて、それは冒険者が一時的に補修して帰っていったと聞かされた。
仮に冒険者が自作自演で魔獣を倒したと仮定して、まずクラール様の結界を一部だけ解除するなんて器用な事は考えにくい。
「クラール……両親の仇……」
◆◆
「サイテル、悪いが村を出て行ってくれ」
「え?」
なぜ、こんな事になったんだろう?
これまで家族がいない身で、なんとか村でやっていけていると思っていた。
それならいっそ、日ごろから蔑まれていたなら……
「どうしてだろうねぇ……お前を見ていると……苛立ってくるんだよ」
いつもにこにことしていたおばさんまで、眉を潜める。
〝願うのだ〟
「……マレダ様」
「サイテル、どこでその名を!」
「僕の敵をすべて討ってください!」
〝キキトドケタ〟
ああ、村が焼けていく。真っ黒で全部。
「次は……」
〝嘘だぞ〟
「え―――」
〝クラールは結界を解いてもいなければ、魔獣をけしかけてもいない〟
「で、も、それは……」
〝すべてはこのマレダがやったこと〟
「あぇ……?」
〝結界が綻び魔獣を招き入れ、目の前で親を殺す……〟
嘘だ。
〝そうそう、腕輪を手にしてから村人に嫌われるまでは速かったな〟
「じゃあ、村の人は……」
〝想像の通りだろうな……思いだしてみては?〟
ぼ、くは
ダマサレテイタ
〝愉悦〟