第七話・・かっぱ淵①・・
第七話・・・かっぱ淵①・・
カッパ淵は、常堅寺の裏手にある小川の淵を言い、
その昔カッパが住んでいて
人々を驚かし悪戯をしたと伝えられている。
常堅寺はカッパに縁のある寺で、
境内の左手にある十王堂の前には、
頭が円形に窪んでいるカッパ狛犬が鎮座している。
昔、寺が火事になった時、
小川に住んでいるカッパが火消しをしたことから
祀られるようになったとのこと。
人間もそうだが、
良いカッパもいれば、悪いかっぱもいる。
遠野物語の中には、
そのどちらも民話として伝わっているわけで、
実際に私達が関わったカッパのたっちゃんは、
良いカッパであることを私は願った。
常堅寺の中には
体の痛いところを撫でると痛みが取れたり、
頭が良くなったりすると伝えられている
オビンズルさまが祀ってある。
その事を教えてくれた一人に「頭を撫でてきたの?」
と聞き返したものだから、
一人を怒らせてしまった・・・。
なぜかいつも
怒らせるようなことを言ってしまうのだろう
・・・ごめんなさい。
と心の中で呟いた。
常堅寺の裏は人影も少なく、
木々の間から差し込む光と、
どこからか時折吹いてくる湿った風と、
サラサラと流れる小川のせせらぎ、
仄暗い茂みの中には
何かしらの気配を感じてしまう。
小さな橋を渡り小川を眺めながら歩くと、
右手に小さな祠があり
中にはたくさんのお供物とカッパの像、
そして一枚の男性の写真が掛けてあった。
「この人が有名なカッパおじさんかな?」
福ちゃんが言った。
「有名な人なの?」
「そのようだね。
確かカッパを捕まえたことがあるらしいと聞いたよ」
「へーそうなのね!」
「このおじさんが捕まえた時の事を参考にして、
さっき見せた
河童捕獲許可書の注意書きが作られたらしいよ」
と言いながら、
福ちゃんが自慢げに河童許可書を私に見せてくれた。
「福ちゃん!もしかして本当にカッパを捕まえるつもりだったの」
「当たり前だろう!せっかく遠野に来たんだからさ。
でもさっき、座敷カッパのたっちゃんに会ってしまったから
やめにしたよ。友達は捕まえられないだろう」
そう言いながら福ちゃんが笑った。
「しっかし、河童捕獲許可書といい、
このおじさんの写真といい洒落が効いているよな」
お堂の中を撮影しながら一人が言った。
「そうだね、なかなか面白いアイディアだよね」
福ちゃんが言った。
私はさっきの事が心のどこかでモヤモヤしていて、
一人の問いに返事ができないでいた。
「はなちゃん!たいへんだ!」
祠の反対側にある茂みの中にある立て看板を見ながら、
一人が手招きしている。急ぎ駆け寄ると
「美人はカッパに引き込まれる恐れがあります。
ご注意下さいだって!」
と一人が笑いながら読み上げた。
・・・あれ?怒ってないみたい・・・
なんだか嬉しくなり、
背中を丸めてきゃーといいながら逃げるふりをすると、
一人も福ちゃんもそれを見て笑っている。
「さっきはごめんなさい」と一人に謝った。
「えっ!なんのこと」
そういう一人の笑顔がとても眩しく感じられて、
胸の奥の方が
ぽっかりとあたたかくなるのがわかった。
「カッパおじさんは本当に、
本物のカッパを捕まえたのかな?」
福ちゃんが問いかけてきた。
私は、昨夜出逢った座敷カッパのたっちゃんは、
赤いカッパではなく、さらに民宿に住んでいるのだから、
捕獲証明書の規定外だし、
その前にあんなにかわいいたっちゃんを、
捕まえるなんてできるわけがない
・・・そう考えていると突然!
「いますよ」とムッとした表情で、
私達三人に話しかけてきた男性がいた。
麦わら帽子をかぶり、
歳の頃は四十代から五十代くらいで、
名前を内ヶ崎さんというらしい。
私達が東京から、
遠野物語百周年の取材で来ている事を
福ちゃんが説明すると、
自分はこのカッパ淵の祠の中にある
写真の男性の孫にあたり、
おじいさん、つまりはカッパおじさんが生前に、
孫である自分に、
話してくれた話を聞かせてくれるという事になった。
私達はカッパ淵にあるベンチに腰掛けて、
内ヶ崎さんの話を伺った。
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