第四話‥座敷わらし②
第四話‥座敷わらし②
福ちゃんははじめのうちは信じてくれなかったが、
私があまりにも細かくカッパの様子を説明するものだから、
次第に本当のことだと信じてくれ、
隣の一人にもカッパの話をし始めている。
一人はまたはなちゃんの不思議ちゃんが始まったと茶化し始めた。
すると私たち三人のやり取りを見ていた、
宿の御主人のモトさんが
「何かありましたか?」と声を掛けてきた。
私がなんと説明したらよいか迷っていると
「さてはお客さん!見えましたね」
とサラリと言うものだから正直驚いた。
これには福ちゃんもそして、一人までが驚いて
モトさんの次の言葉を待った。
「私には見えませんがね、
家の小一になる娘のマキが時々、
全身が緑色のカッパのような姿の男の子が
御膳の前に座っていると言うんですよ
娘が言うにはカッパの名前はタツヤくんと言うらしく、
カッパのたっちゃんと呼び
時々一緒に遊んでいるらしいです。
私も最初のうちは作り話だと思っていたんですがね、
その後、二、三人のお客様が
見た!見た!と言うものですから、
今では座敷カッパのたっちゃんと
名前を付けて信じることにしました。
そうですか!たっちゃんに逢えたんですね!
お客さん方はきっと幸せになれますよ。
いがった!いがった!」
そう言いながら宿の御主人は
頷きながら厨房へ戻って行った。
たっちゃんは相変わらず御膳の前に座り、
器用に箸を使いご馳走を食べている。
宿のご主人の話しを聞いた後は、
さっきまでのパニクっていた私とは違い、
かなり落ち着いた気持ちで現実を受け入れはじめていた。
けれど私にはハッキリ見えているのに、
どうして福ちゃんや一人には見えないんだろう?
その時だった、たっちゃんと目が合い、
たっちゃんの口が何か言ったような気がした。
「・・ゑ」
え?なに?なんて言ったの?
と聞き返すとこれがテレパシーと言うものなのだろうか、
「は・な・ゑ」
たっちゃんの声が耳ではなく心の中に響いてきて、
私の名前をはっきり伝えてきたから驚いた!
目ばかりか耳までおかしくなったのかと考えていると。
「チガウヨ・ハ・ナ・エ・ノココロガキレイダカラダヨ」と
覚えたての日本語をたどたどしく話す、
外人のような言葉が響いてきたのである。
福ちゃんにも一人にも、
たっちゃんの言葉は聞こえていないようだった。
「ボクハ・ムカシ・コノイエニウマレテネ・チイサイトキニシンダンダヨ」
えっ!死んだ?確かにそう聞こえた。
たっちゃんの話はつづく。
「キガガ・コノサトヲオソッテネ・タクサンノコドモタチガシンダンダヨ」
淡々としかも、たどたどしい言葉の話し方のせいなのか、
悲惨な内容のはずなのに、
悲しみが薄れて聞こえたのがせめてもの救いだった。
そして、以前聞いた座敷わらしの始まりについての言い伝えは、
本当だったんだと思った。
「コノサトノオクニハネ・ハヤチネノカミサマガイテ・ボクタチヲ・マモッテクレテイルンダヨ」
早池峰って聞こえたけど、
早池峰の神様って
遠野の守護神の早池峰山の神様のことなのだろうか?
私は心の中でたっちゃんに聞いてみた。
そして、たっちゃんの返事が心に響いて来るのを私は待っていた。
「コンヤハ・ハ・ナ・エ・ガボクヲミツケテクレテ・ウレシカッタ」
私の問いに応えないまま、
大きな瞳を瞬きさせながら、
たっちゃんの姿はスーッと薄くなり次第に消えてしまった。
たっちゃんが消えてから、
私はしばらく呆然としていたが気を取り直して、
目のまえで起きた現実を今度は落ち着いて、
もう一度考えて見ることにした。
突然現れて、
煙のように消えてしまった座敷カッパのたっちゃん。
福ちゃんにも、一人にも
周りにいる誰にも見えないのに、
なぜ私にだけ姿を見せてくれたのだろうか?
更にどうして私の名前を知っていたのだろうか?
謎は深まるばかりだけど、
なぜか私には
たっちゃんにまた直ぐに会えそうな気がしていた。
たっちゃんが器用に箸を使い食べていた茶碗からは、
確かにご飯の量が少しだけ減っていた。
夕飯の後は、囲炉裏を囲んで語り部さんによる遠野物語を、
宿の御主人が取材に訪れた私達のために、
特別に企画してくださった。
「むがすむがすあったずもな」
と言う独特な言いまわしで始まり、
「どんどはれ」
と言いう言葉で結ばれる昔話。
特にどんとはれについては以前、
NHKのドラマの題名にもなり、
一人が、ドーンと晴れるの意味だと勘違いしていて、
おわりですよ。おしまいですよ。の意味だと教えたことがあった。
今夜のお話は、オシラサマ。
美しい馬と娘さんの悲しい恋のお話で、映画になったこともある。
「まだございね」と言う語り部さんの言葉に見送られて、
和やかな会がお開きになり、お腹も心も温かなものでいっぱいになった。
初めての遠野の夜は、
座敷カッパのたっちゃんとの出逢いはかなりの衝撃であったけれど、
ゆっくりとした時間が流れるこの郷の中では、
不思議と違和感がないように思えた。
明日からなにやら始まりそうな予感と、
懐かしい香のする部屋の中で眠りについた。
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