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第二話・・遠野へ・・

 第二話・・遠野へ



翌週、

私達三人は東京発の東北新幹線に乗り込み、

遠野へ向かった。


東北新幹線の新花巻駅で下車をし、

柳田國男氏はここから馬車で遠野へ向かったが、

今は馬車ではなく

東北本線が釜石まで開通しているので、

私達は釜石線で向かう事にした。


この釜石線は、

花巻出身の宮沢賢治の童話

「銀河鉄道の夜」のモデルとも言われていて、

賢治の作中にはエスペラント語がよく登場するが、

そのことに因んで、

全二十四駅にエスペラント語の愛称が付けられている。


 テクシーロ(機織り機)綾織

 フォルクローロ(民話)遠野

 カッパーオ(カッパ)青笹

 などなど。


何処の国のものでもない言葉が、

イーハトーブと賢治が表現した岩手の景色と重なり、

現実の世界から、不思議の国へと

私達を誘なっていてくれているように感じた。


「福山チーフ。今回の取材に同行させていただきありがとうございます。」

私は電車の中で起立して福ちゃんに改めてお礼を述べた。

「いや〜こちらこそよろしくお願いしますよ。

さっきから、周りの人達が話す言葉がわからなくて、

どうしたものかと思っていたんだよ。

岩手出身のはなちゃんが一緒で、心強いよ。」


確かに電車の車内で

大声で話しているご婦人達の会話は、

都会から来た福ちゃんや一人には

なかなか難しい言葉に感じるのかもしれないと思った。


「でさ、なんでそんなに遠野に来たかったの?

斎田からはなんとなくは聞いているけど、

続石の夢を何度も見たってほんとなのかい?」

ちらりと一人の顔を見たら、

俺は知らないとばかりにそっぽを向いている


「そうなのよ。けれど、ここしばらくはあるところで止まったままで、

一人に相談したら、

先ずはその石が本当に実在してるかどうかを

調べてみることから始めたらいいじゃないのかと

アドバイスをくれたんだけど、

どうやって調べたらよいかわからないままだったの。

そこに福ちゃんのあの画像が目に飛び込んで来て、

私は神様のお導きだと思って…

無理なお願いをきいてくれて

本当にありがとうございます。

通訳もがんばります。

よろしくお願いします。

感謝しています。」


福ちゃんは、不思議な話もあるものだと言いながら、

夢が何を伝えようといるのかについて、

一緒に考えてくれると言ってくれた。


念願の遠野行きが叶ったにも関わらず、

何をどうしたらよいか、わからないのが本音で

福ちゃんの言葉に正直救われた思いがした。


福ちゃんは社の中でも格段に知識が豊富で

「人間百科事典」と言う異名の持ち主で、

頼れる兄貴のような存在だったからである。


その福ちゃんが実は大学の頃から

「民話の里・遠野」に強い関心を抱いていて、

今回「遠野物語百年」記念の

パンフレットの担当に決まった時には

とても嬉しかったと話してくれた。


一方一人は、

曽祖父が遠野の出身で、

幼いころに「早池峰の神風が吹く郷」

と言いながら、

よく故郷遠野郷の話を聞かせてくれたことを教えてくれた。


「え!それじゃ私達三人がこうして遠野に向かうって事は、

何か大きな意味があるのかも」

と言う私の言葉に

「はじまったよ!また、はなちゃんの不思議ちゃんが!」と、

一人が茶化しはじめた。


「とにかく、こうして遠野に向かっているわけだから、

良い仕事をしたいと思うので、

二人とも協力よろしくお願いします」

と、福ちゃんがぺこりと頭を下げた。

つられて、私と一人もぺこりとお辞儀をした。


それぞれの想いを胸に、

列車はガタゴト揺れながら

「フォルクローロ遠野」へとたどり着いた。


駅の改札を出て一番に私達を迎えてくれたのは、

何処かで干草を燃やしている懐かしい香りだった。

観光シーズンの少し前、それも平日の夕方である。

人影もまばらな駅を出ですぐに目に飛び込んできたのは、

三匹のカッパの像だった。

横にある交番までもがカッパの形をしている。

ある人が、遠野は人間の人口よりも

カッパの方が多いと言っていたが、

本当かもしれない。

町を挙げて民話の郷のイメージを大切にしているのが、

この駅前広場を見ただけで充分受け取れる気がした。


福ちゃんは早速、

駅の脇にある観光協会へ挨拶をしに向かった。

一人はカッパの像の写真を写す事に夢中になっている。


私はあまりの寒さに、薄着で来た事を後悔しながら、

急いでカーディガンを羽織った。

観光協会に挨拶を済ませた福ちゃんが戻ると、

タクシーに乗り込み宿を目指した。


タクシーの運転手が言うには、

今年はいつもより春の訪れが遅く、

つい先日も雪が降ったそうだ。

東京は既に桜の季節は終わろうとしているのに、

遠野の桜はやっと蕾が色づきはじめたばかりだった。


宿はちょうど駅の裏側の通りにあり、

座敷童が出る事で有名な「民宿パハヤチニカ」

パハヤチニカとはアイヌ語で早池峰と云う意味らしい。


普段なら予約でいっぱいのはずなのに、

私達が宿泊する三日間は、すんなりと予約が取れたと、

福ちゃんが驚いていた。

シャッターが閉まっている店が目立ちはするが、

マンホールの蓋や、

歩道にある馬の背もたれが付いたベンチなど、

町のあちこちに遠野物語の雰囲気がちりばめられていて、

どこか暖かく感じる。


乳母車を押しながら老女がゆっくりと歩いている。

誰も早足で先を急ぐ者はいない、

この郷の人達はゆったりとした時間の中を

ゆっくりと呼吸しながら過ごしているように感じた。


都会で暮らし始めてから、

毎日忙しく時間に追われて過ごしている私にとって、

忘れていた穏やかな時間が目の前に広がっていた。



感謝しています。

お読みいただきありがとうございます。

面白かったらブックマーク・評価をよろしくお願いいたします。

ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
感謝してます。カッパ像の写真を撮るのに夢中な一人に親近感〜。いつも応援してます。
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