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第十四話・・妻の神の石碑・・

第十四話・・・妻の神の石碑・・


昨日早池峰山へ向かった、

県道160号線を走っていると、

ひときわ立派な六峰山と刻まれた石碑を中心に、

沢山の石碑が並んでいる場所がある。


これが妻の神の石碑である。

昔は奥山に寺院があり、

道端には経塚や地獄山があり、

子供の霊を祀った賽の河原に祈りを込めて登り、

供養する習慣があったと伝えられている。


私達は石碑の脇に車を止めた。


「あ〜!!!やっとまともな呼吸ができた。」

福ちゃんがそう言いながら背伸びをし、

大きな深呼吸を2,3回している


「実は俺もそうなんだよ」

一人も福ちゃんと一緒に深呼吸している。


「諏訪神社から母也明神の道は

なんだか気が重い感じがして・・

重い題材の物語のある道だったよね。

祈りの道。

そんな感じがしたよね。

私もやっと深呼吸ができた気がする」


妻の神の石を見た時、

あの世からこの世に帰ってきたような

不思議な感覚があったので福ちゃんに

「石碑の意味って確か魔除けだったわよね。」

と、問いかけてみた。


「石碑の意味は実はいろんな意味があってね、

今は明るい照明器具があるから

闇ってあんまり意識したことがないけど、

行燈や松明、ランプで暮らしていた時代は

闇に紛れてやって来る、

悪鬼や邪神から村を守る役目をしていたらしいよ。

それから峠を越えてやって来る、

よそ者の侵入も防いでいたみたいだね。」

と答えてくれた。


すると一人が

「目に見えない境界線、

現代風に言えばバリアーみたいな役目をしていたのかもしれないね。

生きているもの、

死者、人間界と幽冥界の境を現したり、

それを司る神とも言われていたらしいよ」

とカメラを片手に教えてくれた。


福ちゃんと一人の話を感心しながら聞いていると、

私の腰の辺りをツンツンと突くものがある。


もしかして座敷カッパのたっちゃんかな?と思い振り返ると、

其処にはまるで、

海老のように腰が曲がり、

どこの目があるのかわからないほど

顔中シワだらけの老婆が私を見上げていた。


「おめさんがだ、これがらどっちゃあいぎゃんすか」


私には老婆が何を言っているのか直ぐにわかったが、

福ちゃんと一人はキョトンとしている。


「おばあちゃんが、

これからあなたたちは、

何処へ行きますか?だって」

と二人に伝えると、

一人も福ちゃんも、

ようやく理解ができたと言うふうな顔をして、

福ちゃんが老婆に向かい

「はい、でんでら野へ向かいますよ」と伝えた。


老婆は下から福ちゃんの顔を見上げながら

「うんで、おらのごども乗せでってけねがべが」

福ちゃんが私を見る。

「おばあちゃんが一緒に乗せて連れて行ってほしいって」


福ちゃんと一人は、

指でOKマークを作り、さっきと同じように老婆に向かい

「いいですよ。

一緒にいきましょう。

でんでら野の近くにお住まいですか?」

「ほんでがす。もさげねがす。ありがどね」

老婆は嬉しそうに皺だらけの顔で微笑んだ。


「そうです。申し訳ありませんが、

よろしくお願いします。ありがとうございますだって」

私はすっかり通訳気取りで

福ちゃんと一人に伝えた。


東北の夕暮れは早い、

風はさっきより強くなってきた。


老婆を後部座席の私の隣の席に乗せて

私たちはでんでら野へ向かった。


「あすた雨降るな」

老婆が車の窓から西の空を指差して言った。

「明日は雨ですか?」

さっき一人も同じことを言っていたのを思い出しながら

そういえば、

私の母方の祖母も

翌日の天気を当てる名人だった事を思いだした。


生きている時間が長い分

生活の知恵が老人たちには備わっているのだろう。


「うんだ。ほれ西の山が曇ってきたべ」

一人は西という言葉が聞き取れたらしく、

バックミラー越しに驚いた顔をしている。

きっと自分と同じように

天気の話をしているのがわかったからなのだろう。

「むがすっから西が曇れば雨になり、

東が曇れば風がふぐって言ったもんでがす」

と老婆が言った。


「昔から、西が曇れば雨になり、

東が曇れば風が吹くって云われているそうよ」

前の席の二人のために標準語に訳した。


福ちゃんと一人が頷いた。

「おばあちゃん、これからお家に帰るんですか?」

私が聞いた。

「うんだよ。はがげってきたんだ、

登戸の親戚の家さ行って、

草取りの手間取りしてきたんだ」

福ちゃんはまるで解らないと

両手を広げてお手上げポーズをしている。


「仕事が終わってお家に帰るそうよ

、登戸の親戚のお家の草取りを手伝ってきたそうよ」

福ちゃんが指でOKマークを作っている。


「おらの名前はサチコって言います。

あんだぁこのあだりのひとすか?」

と老婆が私に聞いてきたので

「はい、私は黒田はなゑと言います。岩手の生まれですよ。

一昨日から取材で遠野に来ています」

「そうすか、体だけは大事にね。がんばらいよ」

そう言いながら私の手の上に自らの手を乗せ、

皺だらけの顔で優しく微笑む老婆の手は

長い間の過酷な農作業のためだろうか、

節々が厚く大きなあたたかな手だった。


車は福泉寺の脇を通り、

しし踊りの祖として名高い角助の墓の看板の横を通り過ぎた。


しし踊りは350年ほど前に

駒木の角助が、

熊野詣での時に京都の辻でしし踊りを見て、

改良を加えたものと云われている。


またこのしし踊りは、

両手に幕を下げる幕踊り系の代表的なもので、

南部かんながら獅子とも云われている。


更に車は昨日訪ねた伝承園やカッパ淵、

早池峰古道を経て細い道を右に曲がり、

母をおんぶする姿のレリーフがある橋を渡り、

間も無くでんでら野に着くという辺りにさしかかった。


「おらぁこのへんでおります」

と老婆が言った。

「おばぁちゃんがこの辺で降ろしてくださいって」

福ちゃんが周りを見ながら

「おばあちゃんもう暗くなってきましたから、

遠慮しないでお家まで送ってあげますよ」

私もその方がいいと思った。

こんな寂しい場所におばあちゃん一人を置いていけない。

「いがす、すぐそごだがら、こごで降ろしてけらい」

「おばあちゃん。

私も心配だからお家まで送ってあげたいのよ」

「いがす!いがす!ここでいがす!」

さっきまでの穏やかな顔ではなく、

長年生きてきた人間の迫力とでも言うのだろうか、

取り付く島もなかった。


結局老婆の迫力に負け、

仕方なく老婆を車から降ろした。


「おばあちゃん本当にここでいいの」

諦めきれない私は、再度老婆に促した。

老婆は小さく頷き、

小さな体を90度に曲げたまま暗闇に向けて歩き出した。


「おばあちゃん、お家まで送っていこうか?」

暗闇に向けて歩き出した老婆の背中に

そう声をかけると老婆は振り向きながら

「あんだだぢごそ、

はやぐけえらい。

体さきいつけらいよ」

と反対に私たちの体を労ってくれた。

「ありがどね〜」

そう言いながら何度も何度も

振り向きながら手を振る老婆。


私たちは細い道の先にかすかに見える灯り中に

老婆が溶け込んでいくまでその背中を見送った。


車に戻ろうとすると突然、

立っていられないほどの突風が吹き抜け、

老婆が歩き出した方向へ通り過ぎて行った。


感謝しています。

お読みいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
感謝してます。さちこお婆様、愛と優しさが伝わります。もしかして行きてる人でなくて神様なのかな〜。続きが氣になります。楽しみです。 いつもいつも応援してます!
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