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第一話・・・はじまり・・・

 第一話・・・はじまり・・・


 2010年に書いた作品です。

 内容は全てフィクションです。 


 …………


また同じ夢を見た。

鳥居のような形の大きな岩の向こうにある、

少し小ぶりな岩に、

ちょうど鳥居を潜る様に光が差し込むと、

岩が音もなくスルリと二つに分かれて、

中からキラキラ輝きながら光の粒子が飛びだし、

その真ん中に人形(ひとがたが)が現れて私を手招きする。

今朝もそこで夢は終わった。


私の名前は黒田はなゑ。

岩手の県南に生まれ、地元の普通高校を卒業して、

東京の大学に学び、都内の出版社に勤めている。

憧れていた出版社に就職し、

近頃やっと仕事が認められるようになり、

今が一番、思い通りの仕事ができていると感じている。


そんな私が不思議な夢を見るようになり、

今日で10日が過ぎようとしていた。


「おはよう どうしたんだよ、

朝からそんな難しい顔して」

同期で入社した

フォトグラファーの斎田一人(さいだかずひと)

声をかけて来た。


彼は背が高く、

どちらかと言うと強面な印象があり、

怖いひとと思われがちだが、

誰よりも山と自然を愛する男で、

大学では山岳部に所属していたと、

本人から聞いた事がある。

山男らしく、ゆったりとした雰囲気があり、

優しい気持ちの持ち主で、

気取らずに話せる友人である。


「またあのでかい岩の夢をみたのかい?」

一人がそう言いながら、

右隣のデスクに腰かけ話しかけてきた。


「うん、今日で10日になるとさすがに気味が悪くて…」

「だよな、でもさ、はなちゃん。

本当に今まで見たことのない岩なのかい?」

「うん。形はイギリスのストーンヘンジに似ているんだけど…イギリスなんて行ったことないし…」

「手招きするってとこがちょっと不気味だよな」

「でしょう!そこなのよ!でもね、

近頃はその先が、

どうなっていくのかが気になってしょうがないの」

不思議な夢は、

まるで違う世界の出来事のように、

日を追うごとに先に進み、

ここしばらくはこちらに向い、

手招きしているところで終わったまま、

先に進んでいない。


「だとしたら、はなちゃんに、

何かを伝えようとしているんじゃないかな?」

「うーん…そうなのかな?」

「それ以外考えられないだろう!だってさ、

何度も同じ夢を繰り返し見ているんだろう、

ついでに夢の内容が物語みたいに前に進むんだろう?」

「やっぱりそうなのかな…

実は私もそんな気がしていたの…

だとしたら、

一人が言うように私に何かを伝えたいのかな?」

二人してしばし考え込んだあとに

「まずはその岩が

実際にこの世の中に存在しているのかどうか、

そこから調べて見ることなんじゃないのかな」

私もそれが一番気になることだったので、

「そうだよね…」

と、小さな声で答えた。


そうは言ってはみたものの、

どうやって調べたらいいのだろう…

なにせ相手は夢の世界の住人で、

なんの手がかりもないのである。


たとえ山に詳しい友人の一人でさえ、

イメージは沸くかもしれないけれど、

私の夢の中に出て来る岩をみつけるなんて、

土台無理な話だと思いながらも、

なぜか夢の中に登場するあの岩は、

絶対に実在していて、

必ず会えると私は信じていた。

「あんまり難しく考えるなよ」

そう言いながら一人は、私の肩を軽く叩いた。


その時、左隣のデスクのやはり同期の福ちゃんが

書類を抱えながら戻ってきた。

「お二人さん。おはよう」

デスクの上のパソコンを開きながら福ちゃんが言った。

「おはよう福山」

一人が手を上げ、福ちゃんに挨拶している

「おはよう、相変わらず早いのね」

「ああ、ちょっと調べものがあってね」

福ちゃんは毎朝一番に出社し、

今朝も既に資料集めを終えたようだ。

彼は常にクールで、現実的な考えの持ち主である。


「ところでさ。はなちゃんが見ている

例の夢のきっかけって、

やっぱりあの本なのかい?」

相変わらず椅子の背もたれに身体を預けたままで、

一人が声をかけてきた。

椅子がギイギイと変な音を出している。


「ええ、思い出してみたんだけど、

やっぱりあの本を一人から借りて

読み初めた頃と重なるのよ。」

「そうか・・・不思議な事ってあるものだな、

はなちゃんを悩ませている原因が、

俺が貸した本ってことで責任を感じているよ、

ごめんな。」

「一人が誤ることじゃないよ。

こっちこそ無理に借りておいてごめんなさい。」

いつもはなにかと、

私の行動をばかにするような言動が多い

一人らしくない言葉に、

私もいつになく素直に詫びれたことに驚いた。


私は幼い頃から、

古代の歴史や文明が大好きで、

よく図書館から本を借りてきては、

今では尋ねる事のできない古代遺跡や

歴史上に登場する

過去の時代に思いを馳せるのが好きだった。


それと不思議な出来事や

精神世界や占いなどにも興味があり、

終末論で有名になった

トヨ文明になぜか強く惹かれ、

ある一冊の本を探していた。


その本は「トヨの占いの書」と言う題名で、

トヨの二十の神々が織りなす占いの本で、

既に絶版となっている本である。


あちこち探してみたけれど、

ついぞ見つからず、諦めかけていた頃、

何気ない話しの途中で一人に話してみたら、

なんと!持っているというので、

借りて読み始めた日から、

不思議な夢をみるようになったのである。


あこがれた本の最初には


…あなたに逢えてとてもうれしいです。

この本を手にした貴方はとてもツイています。

おめでとうございます。


 自分を変えたい。

 悩みから解放されたい。

 幸せな最高の人生にしたい。

 誰もが抱くそんな思いをたちまち解決します。


そしてこの先も、

目のまえの出来事にいちいち動揺しなくなり、

自分の思い通りの道を突き進むことができます。


経済的なゆとりを手に入れ、

最高の仲間に囲まれながら、

好きな仕事、

楽しい趣味で満たされた人生を

全力で生き抜く事を可能にします。


そして、自分に与えられた時間を、

最後の最後まで

笑いながら生き切ることができます。…


更にその本の最後にはこんな注意書きがしてあった。


 …この本には約束の精霊達が宿っています。

どうぞ大切に扱ってください。…


とあったものだから、

不思議な事が大好きな私には、

たまらない内容なのが直ぐにわかり、

夢中になり読み始めた。


本を手にしたきっかけを思い出しながら、

気持ちを切り替えて、

仕事を始めようとデスクのパソコンを開いた時だった。


「おい!見ろよ!あの大きな岩!

はなちゃんの夢に出てくる岩に、そっくりじゃないか?」

一人が突然、

福ちゃんのデスクのパソコンを指差して言った。


そこには、私が今、悩みに悩んでいる、

夢の中に現れるあの岩にそっくりな岩が、

パソコンの画面いっぱいに現れていたのである。


パソコンの画面を見つめたまま、

動けないでいる私をみて福ちゃんが

「この岩かい?岩手県の遠野市にある続石だよ。」

福ちゃんの説明によると、

柳田國男氏の代表作「遠野物語」が発刊されて、

今年で丁度百年になると言う事で、

我が社が記念のパンフレットの制作の委託を受け、

福ちゃんが担当に決まり、

来週から取材に遠野へ向かうと言う事だった。


今はその資料集めをしていて、

たまたま続石について調べているところだったらしい。

「斎田!確か山岳部出身だったよな!

来週一緒に遠野に行ってくれないか」

福ちゃんが一人を遠野行きに誘っているのを見て、

私は居ても立っても居られなくなり、

慌てて席を立ち

「福山チーフ!私も遠野行きに同行させてください」

と気が付いたら深々と頭を下げお願いしていた。


かなりの図々しいお願いなのはわかっていたけれど、

今はとにかくあの岩のそばに行きたい、

その気持ちのほうが勝っていたのである。


更に一人も

「こいつの夢の中に何度も出でくる岩に

そっくりなんですよ。

それに、はなちゃんは、

岩手出身ですから訛りの通訳もお願いできますよ」

と、パソコンの画面を指差しながら

福ちゃんに一緒にお願いしてくれた。


そんな二人の勢いに負けたのか、

福ちゃんから同行の許可が出た時には

思わず一人と抱き合って喜んだ。

やったー!やっとあの岩に逢える。







感謝しています。お読みいただきありがとうございます。

面白いと感じましたら、ブックマーク・評価をおねがいいたします。

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感謝してます。磐座に呼ばれる、本に精霊が宿る、ステキで引き込まれます。 登場人物のお名前、ヒロインのお名前も可愛イイ。 私もまた岩手に行ってつづきいしに触れたくなりました。 いつも応援してます。
すごく面白くて続きが早く読みたいです。 更新されるのを楽しみにしております。
すごく惹き込まれるお話です…!続きを読むのが楽しみです!応援してます!
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