いやサワピコさんが背中毛引っこ抜いたんじゃねーの?
ここは占いの館。
「お次でお待ちの方どうぞ〜」
一言一句内科医と同じ文言で客を通すこの女性は、日本占い師協会上級会員の青木円盤焼。そのへんを歩いている有象無象の約3000倍の占い力を持っている。
「こんにちは。では、この紙にお名前を書いていただけますか?」
「お名前を書いていただけますよ」
「あっはい、ありがとうございます」
今お名前を書いていただけている50代前半くらいのこの男は、3日前から隣の家の1階の廊下に落ち武者の幽霊が出るような気がして仕方がないという。
「書けました」
「ではこちらへ⋯⋯ああっ!」
「どうしました?」
「お名前、私と同じです! ⋯⋯でも、読み仮名がちっちゃくてちょっと⋯⋯」
「田中円盤焼って読みます」
「ごめんなさい、まだ見にくくて⋯⋯」
「田中ブルボンプチシリーズのうす焼きのやつ、です」
「ええっ!? ブルボンプチうす焼きですってぇ!? その隣の隣くらいに緑のパッケージのうす焼きサラダ味3パック入りが100円くらいで売ってるのに!? 絶対そっちの方がお得なのにぃ!?!?」
「あの」
「はい」
「伝説のお笑い芸人・サワピコさんがつけてくださった名前をバカにするのはやめてください」
「サワピコさん⋯⋯? ちょっと失礼しますね」
手元のパソコンの検索窓に『芸人 サワピコ』と打ち込む円盤焼。
「出てきませんね⋯⋯失礼ですが、名前間違えてませんか?」
「間違えてませんよ。検索しても出てこないから伝説なんじゃないですか」
「そのサワピコさんとはどういったご関係なんですか?」
「僕が生まれた時、たまたま分娩室を散歩していたそうです」
「たまたま!?」
「はい」
「分娩室を散歩していた!?」
「らしいですけど」
「じゃあ、知らない人ってことですか? それからお付き合いはあるんですか?」
「ないですね。両親もその時が最初で最後だったと言っていました。神様だったのかもしれませんね」
「その人って何歳くらいなんですか?」
「当時80歳くらいだったらしいです」
「じゃあただのボケ老人だと思います」
「僕の名付け親をボケ老人だなんて!」
「勝手に分娩室入って来て、勝手に人の子にブルボンのうす焼きとか名付けてるヤツの肩持つなよ」
「で、昨日お風呂で頭洗ってたら、誰かが背中に触れたんです」
「急に!?」
「うち、おばけとか飼ってないんですけど、アレなんだったんですか?」
「飼うとかの概念あるんだ。ボケ老人のサワさんの幽霊じゃないですか? また勝手に入ってきたんでしょ」
「ちょっと! 勝手にサワさんを殺さないでくださいよ!」
「え、でも生きてるとしたら今130歳くらいになりません?」
「なりますね」
「会ったことないんですよね? なんで生きてると思うんですか?」
「サワさんに貰ったバラがまだ枯れていないので」
「50年も!?」
「バラより絶対送り主の方が強いはずなので、生きていると言い切れます」
「送り主の方が強いって何?」
「それより背中触ったの誰だと思います? その水晶使って占ってくださいよ」
「分かりました⋯⋯う〜んう〜ん⋯⋯なるほどなるほど⋯⋯失礼ですが、お父様は今⋯⋯」
「死んでます」
「背中を触った霊、お父様ではないでしょうか」
「霊って、父はまだいきてますよ!」
「えっ!? でも今『亡くなった』って」
「亡くなってませんよ!? 死んでるだけです!」
「いやどういうことだよ」
「昨日ウイスキーを30本飲んだせいで今朝から二日酔いでずっと下痢とゲロを噴射し続けているんです」
「それは死んでますね。『死ぬ』っていう言葉にそんな意味は無いけど、確かに死んでますね」
「で、誰なんですか? 僕の背中毛抜いたの」
「背中毛抜かれたんですか?」
「全部抜かれました」
「全部!?」
「おかげで背中ツルツルですよ、ほら」
「え? それお腹じゃ⋯⋯背中だ! どういうことですか!? なんでヘソも乳首もついてないんですか!?」
「背中だからです」
「だとしたらこの顔の向きと座り方はなんなの!?」
「首は180度回転した状態で、下半身は股関節と膝と足首を真逆に90度曲げて座っています」
「へーすごい。テレビ出れるんじゃないですか?」
「いや怖がれよ」
「は?」
「怖いでしょ、こんなふうになるの」
「関節が変な人、ですよね?」
「え? いや、まぁ⋯⋯そうなるのか」
「関節が変な人って怖いですか? 関節が普通の私の方が強いと思いますけど?」
「そうですね、すいませんでした」
「良かったぁ分かってくれて。関節どころか頭もおかしいのかと思いましたよ」
「こんなこと言われるんだ」
「次の方どうぞ〜」
「ちょっと、まだ解決してませんよ!」
「なんでしたっけ」
「僕の背中毛引っこ抜いたのが誰なのか! です!」
「あーそれ私です。ありがとうございましたー、はい次の方どうぞー!」
「こんな結末って⋯⋯」
背中毛抜かれおじさんこと円盤焼はそう呟くと自らの頬をビンタし、馬に変形して空を泳いでいった。




