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モヤモヤと、弟とのお茶会

 

 その日の夜。


 はぁ~~。


 エルシアは大きく息を吐くと、自分の家のベッドにゴロン、と飛び込び伸びをする。


 誰かに見られたら、はしたないと叱られる動作だが今日くらいはいいだろう。


 彼女は左手に嵌まった婚約指輪をシャンデリアの光に照らす。


(キラキラして綺麗……)




 両陛下への謁見の後、改めて決まったことがあった。


 それは、正式な婚約はお披露目パーティーの直前に結びそれまで二人の関係は外部に秘密にする、と言う事だ。


 そして、婚約後は忙しくなるからとか、しばらくはゆっくり休んでとか言われ自宅に帰されたエルシア。


(何だかモヤモヤするわ……)


 エルシアは再び大きく息を吐く。


 すると、コンコンと扉を叩く音がした。


 バッ


 エルシアは飛び上がり、急いで身なりを整え、ドアを開ける。

 少し髪が乱れているのはご愛嬌だ。


「夜分にごめんね、姉上」


「カイン?」


 そこには、お茶とお菓子を持った弟の姿があった。


 ★



「ふ~~ん。それでモヤモヤするんだ?」


 ルイボスティーに、小さなクッキー。

 夜のお茶会にピッタリなそれをエルシアは口にし、頷いた。


「それって殿下は仕事なのに、姉上だけしばらくお休みだから?」


 エルシアは小さく頭を振る。


「違うと思うわ。だって、今までもお手伝いしか出来てなかったもの」


 そう答えたエルシアに、カインは笑いを含んだ声で聞く。


「もしかしたら、殿下にしばらく会えない、から?」


(……え?)


 エルシアは数秒固まる。


「ち、違うわ」


「そうなの? 婚約者同士だし、会えなくて寂しいなんて普通の感情だと思うけど」


 エルシアを優しく見守るカイン。


 だが、動揺した彼女は言葉が出て来ない。



 (違う、違うわ。それじゃまるで、わたくしが殿下に恋してるみたいじゃないっ)


 何も答えないエルシアを見て、カインは続ける。


「そうなの? じゃあ、もっと早く婚約を世間に知らせたかった? 姉上って意外に独占欲もあるんだね」


 クスクスとからかうように言うカインに、赤くなりながらもエルシアはハッとする。


 世間に知れ渡れば、当然カザルスやマリーの耳にも入るだろうということに改めて気づいたのだ。


(わたくし……この婚約で頭が一杯で、あの二人のことを忘れていたわ)


ーー殿下のおかげ、ね。




「そう、そうね。カインの言う通りかもしれないわ」


 エルシアは思い出したかの様に頷く。


 今は得体の知れないモヤモヤの事よりも。


 偽装婚約の事は弟にも秘密なのだから、彼に余計な心配までかけたくないと彼女は思う。


「なら、よかった。姉上ずっと心ここにあらずって感じだったよ。殿下は令嬢の憧れだし、姉上の安全のためにも婚約発表はギリギリがいいよ」


 そう言って笑うカインに合わせて、エルシアも微笑んだ。


「ええ、そうね」


「だけど殿下は心配だなぁ。ケインさんから聞いたんだけど、更に仕事量、増えたらしいよ」


 言わずもがな、婚約指輪の代金分の働きである。


 それをコッソリ聞いたカインは、姉上愛されてるなぁ、と嬉しそうだ。


 だが理由を知らないエルシアは、と言うと。


「あれ以上の仕事!? わたくし、やっぱり明日からまたお手伝いに行ってくるわ」


 再び、城へ通うことを心に決めたのであった。

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