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告白、そして葛藤


「今日は伯爵家まで送らせてくれ」


 パタン


 そう言ってクロードは王家の馬車にエルシアを押し込むと、続けて自分も乗り込み、ドアを閉めた。


 


「……殿下、ご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした」



 二人っきりになったタイミングを見計らってエルシアは頭を下げる。


 顔を隠していたと思ったら、さっきからずっと無表情のクロードに申し訳なさが募っていたのだ。



ーーお怒りなのも当然よね。


 殿下の評判に傷を付けてしまったかもしれないわ。




 エルシアが元婚約者に絡まれていた現場は、多くの貴族の目に触れただろう。



(偽装婚約すらマトモにこなせない、と呆れ返ってらっしゃるのかも)




 だが、クロードは首を横に振るとエルシアの頭を上げさせる。




「謝らなければいけないのは俺だ、エルシア。君を危ない目に合わせてしまった」



「まぁ、殿下は何も悪くありませんわ。わたくしが迂闊だったからーー」



 ギュッ


 大きく頭を振るエルシアの両手をクロードは片手で優しく覆う。


 そして真剣な眼差しで彼女を見つめた。




 トクン、トクン、トクン


(ああ、また。心臓がうるさい……)


 それでもエルシアは目を逸らす事が出来ない。




ーー例えそうだとしても。


 クロードは言う。



「俺がエルシアを守りたいんだ。人生をかけて、君を幸せにしたい。この気持ちは嘘偽りないものだから」


 誰もいない、二人だけの空間。


 誰かに演技して見せる必要性のない言葉。


 


 トクンッ トクンッ トクーーーン



(……心臓が暴れてる)



 驚きのあまりに、言葉を返す事が出来ないエルシアにクロードは続ける。


 

ーーエルシア、ずっと昔から君に憧れていた。


 偽装婚約は、エルシアの側にいたい俺のただの言い訳なんだ、と。




「俺は今カザルスが君に触れて、手放す気がないと分かって嫉妬で狂いそうな自分を抑えてる」




(こんな……言葉を聞いてしまったら)



 エルシアは自分が蓋をしていた気持ちが溢れ出してくるのを感じる。



(幸せで、嬉しくて。他に何も考えたくなくなる)



 ポロッ、ポロポロポロ


 エルシアの目からは涙がこぼれ落ちた。



ーーやっぱり、わたくしは殿下のことが好きなのね。



「エルシア?! 嫌な思いをさせてしまったか?」



 彼女の泣き顔に驚きながらも、指先で涙を拭ってくれるクロードのことが愛おしい。



「……違うんです、殿下」


 エルシアは頭を横に振る。


 本当は、今すぐその腕に身を預けたい。



(ああ、だけど……)



ーー信じるのが、こわい。



 エルシアは自分の気持ちを打ち明ける勇気が出せずにいた。



(だってまた、捨てられてしまったら?)




 初恋のカザルスだって、エルシアを捨てたじゃないか。


 今、再びカザルスがエルシアの前に現れたのは、マリーよりもエルシアが役に立つと気付いただけだ。




(……殿下の周りには、わたくしよりも相応しい方が沢山いるわ)



 地位も権力もある王太子で、おまけにイケメン。


 エルシアより、家柄も資産も、美貌も優れた女性達が列をなして彼の寵愛を欲しがっているのだ。



ーー殿下の気持ちが、今だけの気まぐれだったら。


 きっともう、わたくしの所には戻って来てはくれないわ。



 そして、恋したエルシアだけが泣きながら取り乱すのだろう。



(……そんなの耐えられない)


 

 嫌ではない、と言い決してクロードの手を振り解いたりはしないものの、涙の止まらないエルシア。



 そんな彼女が、まだカザルスを忘れられないのだと思ったクロードは優しく声をかけた。




「エルシア、俺の事が嫌いでないなら。嫌いになるまで側に居てくれないか?」


ーーその間に、アイツを忘れさせてみせるから


 クロードがエルシアの耳元で囁く。




「……殿下はズルいですわ」



 蒸気した頬を隠しながら、それでもエルシアはコクン、と頷いた。


 それを見たクロードは、嬉しそうに彼女の髪に口づけを落とした。




ーーこのまま離れたくない。



 互いに同じ思いを抱きながら。


 夜道を走る馬車が伯爵家に到着するまでの僅かな時間、二人はただ、互いに見つめ合うのであった。


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