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婚約指輪が目に入らぬか?


「……何の冗談だ?」


 そんな訳ないだろう、とカザルスは思う。


 大した家柄でもない、資産家でもない伯爵家と王家が政略を結ぶ意味がないからだ。



「魅力のないエルシアなんか、殿下が選ぶ訳ないじゃないっ」


 マリーも同感だった様だ。

 こちらは、自分の方が若くて美人だと思っているだけだが。




「お二人ともパーティーには遅れていらしたの? だから、婚約発表をご存知ないだけでしょ?」


 エルシアは不敵に笑う。


 その姿があまりに自信あり気でカザルスは不安になった。



 事実、彼はマリーとの別れ話が拗れ、いつも付き纏わられるため、わざとお披露目パーティーには遅れてきたのだ。


 残念ながら、待ち構えていたマリーに捕まったのだが。




「これが証拠でしてよ?」


 エルシア掲げた左手の薬指。

 そこには、見たこともない様な輝きを放つダイヤが納まっていた。


 公爵家子息として、それなりの教養を与えられて来たカザルスはサーーと血の気が引くのを感じる。



ーーあれは、間違いなく超がつく高級品だ。



 思わず、掴んでいたエルシアの右手を離すカザルス。



 だが、宝石に詳しくないマリーは果敢にも言い放った。


「そ、そんなの大きいだけよ! どうせ安物のイミテーションでしょっ」


「お、おい!」


 カザルスはマリーを止めに入るが、エルシアはそんな物を介したりしない。



「まぁ! マリー様ったら本物のダイヤモンドをお持ちになったことがないのね。お可哀想……」


(わたくしも、この指輪が初めてだけどね)


 エルシアは心の中で舌を出す。



 そのうちに、わざとらしく哀れみの目で見られたマリーの怒りは爆発したようであった。


「……本当に本物なの?! 何であんたばっかり! やっとカザルスに振られたと思ってせいせいしたのに!!」


 手を振りかぶり、エルシアを打とうとするマリー。

 至近距離からのその勢いに、避けるのは無理だと感じたエルシアは目をつぶる。


 だが、想像した痛みは襲って来なかった。



 バタンッ


 扉を開けて、飛び出して来たクロードがマリーの手を叩き落したからだ。



 パシッ



「エルシア!! 遅くなってすまなかった」


 クロードがエルシアを両腕で抱き締める。


 ほのかな香水の匂いが彼女を包み込んだ。



(……この匂い、安心するわ)




 二人に対峙していた緊張が解けていく。


 反対に、クロードはカザルスとマリーを睨み付けていた。




「それで? 公爵子息とその恋人が、俺の婚約者に何か用か?」



(……俺の婚約者)



 迷惑をかけたくなかったはずなのに、クロードに婚約者だと言われ、庇って貰えたことが嬉しい。




「ク、クロード殿下!!」


「え、うそ。クロード殿下?」

 

 ますます血の気が引き、真っ青な顔で立ち尽くすカザルスと、憧れの王太子を至近距離で見ることが出来て浮かれ出すマリー。



 場の空気を読まない彼女は、クロードに挨拶をしだした。


 


「殿下、はじめましてぇ。マリーと申しますっ♡」


 キュルルン♡


 分かりやすくシナを作り、クロードに近づくと媚媚の表情を隠しもしないマリー。


 そんな物は見飽きたクロードは嫌気が差す。



「……挨拶は不要だ。覚える気もないからな。それよりもカザルス、お前の恋人がエルシアに手を挙げていた理由を聞かせて貰おうか」



「そ、それは……悪いのは全部マリーなんです!」



 しどろもどろに、もう恋人ではなくて、とか僕の方が被害者なんです、とか言い訳を始めるカザルス。


 この仕打ちには、さすがのマリーの表情も強張ったようだ。



 はぁ。


(この人は、本当にどこまでも自分のことだけなのね)



ーーこんな男とスッパリ別れられたことだけには、二人に感謝しなきゃいけないわね



「……もういいですわ、殿下。痴話喧嘩に巻き込まれただけですの。行きましょう?」


「ああ。だが、いいのか? 俺の気はすまないが」


 尋問を続けようとするクロードの腕に掴まるようにしてエルシアは、いいんです、と頷く。


 そして、会場の方を振り向いてみせた。


 そこには騒ぎを聞きつけた貴族たちのヒソヒソ声が溢れ出している。


 クロードも渋々、頷いてその場を去ることにする。



(助け舟を出すのは一度だけ。次はなくてよ)



 去り際、エルシアはそんな思いを目に込めて二人を見据えると、カザルスはアワアワと首を立てに振る。



 だが、マリーはと言うと。



ーー怒りの籠もった目でこちらを睨み返して来たのだった。



(……大した根性だこと)



 エルシアは見せつけるように、クロードの腕にもたれ掛かる。


 マリーが更に怒りで真っ赤になったのは勿論のこと。




 それに負けないくらいに、真っ赤っ赤になったクロードは反対の手で顔を隠しながら歩くことになったのである。

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