第4話 入れ替わりの生活:美礼の場合
………まだ蓮二に迷惑をかけてしまった。
私は蓮二の体で登校した後、うつ伏せになって後悔していた。
流石に蓮二も怪しむのは分かってたし、こんなに迷惑をかけて嫌われたっておかしくない。
自分でやった事で自分の首を絞めてるんだから、しょうがないのだろうか。
「おいおいなんだなんだ?蓮二お前、腹でも痛いのか?」
「え?あぁ……いや、うん、そんなところ」
「うわぁ、こりゃ重症だな。保健室行ってこいよ」
「いや、いいよ別に。お腹が痛い訳じゃないから」
「ふーん。まぁ体調悪いなら早めに休めよ。お前が静かだとなんかキモいわ」
「うーん………ごめんね」
「いやいや冗談だって………ツッコんでくれよ」
「え?あー……」
「うはぁ………調子狂うな、コレ……」
ごめんなさい寺内君!でも、私は蓮二みたいに明るくできないし、今元気よくツッコめる気分じゃないんです!
………て、これじゃあ蓮二まで嫌われるかもしれないじゃん。
それじゃダメだ。もうこれ以上は流石に蓮二に迷惑かけちゃいけない。
だから、蓮二が嫌われるなんて、もっての外だ!
「うそ、うそうそ!元気になったぜ!」
「うおっ!?なんだなんだ!?急に元気になったなお前!」
「お、おう!バッチリだぜ!いやぁ、うん!優雅な朝だなぁ!」
「そうこなくっちゃ!」
と、こうしてなんとか蓮二の体裁を保つ為に、私は蓮二のいつもの様子を演じる事になった。
蓮二は明るくて友達も多いから、あまり友達の多くない私は蓮二のフリをするのは本当に大変であった。
★☆★☆★☆
「よぉし、弁当じゃぁぁぁ!」
私の近くで寺内君が叫んだ。
「べ、弁当じゃー……」
ちなみにまだ私はこのテンションに乗り切れないでいる。
でもやっぱり、蓮二の体に他の女が入っているなんて思わないから、あまり怪しまれてはないようだった。
「蓮二は今日も弁当か?」
「え?あ、おう、そりゃあもちろんな」
今朝、鞄の中に弁当が入っていることを確認した。
恐らく蓮二も私が持ってきた弁当を食べているだろうから、蓮二の弁当を食べる事を許してほしい。
でもなにより面白いのは、この体が蓮二のものだからか、ちゃんと代謝が蓮二のものになっているということで、食べる量も蓮二と同じになるのだ。
だから、動こうと思えば蓮二と同じように動けると思うのだが、蓮二が私の体でサッカーができるのと同じように、私は蓮二の体でサッカーをしたりはできない。
不思議だよね。
「蓮二、何ぼーっとしてんだ?」
「ん?あーいや、なんでもない」
「じゃあ早速、皆んなでご飯をーーーー」
と、寺内がはしゃいでいる時。私は気づいた。
教室のドアの辺りで控えめにぴょこぴょこ動いているもふもふの頭がある事に。プラス、手に持っている弁当に。
「………ごめん、ちょっと行ってくるわ」
「え?どこに?」
「……………すぐそこに?」
と私は一言言って弁当を持って席を立った。
そして向かうは、教室の入り口の小さな女の子の元。
「………吹池さん?」
「あ、あ!と、研野先輩」
「えっと、弁当………だよね」
「研野先輩もですか!?」
「うん、そうなんだけど………」
私は周りをキョロキョロ見回した。
やっぱり教室の入り口でこんな会話してるからか、色々な人に見られていた。
なんなら、寺内らサッカー部の人間たちも、ざわついていた。
「…………一緒に食べよっか」
「良いんですか!?」
「うん、どっか、全く別の所で」
とにかく逃げよう。ここから逃げよう。
そんな気持ちだけで、吹池さんの手をとって私は走りだした。
「て、手が!」
「強かったらごめんね!?」
私は、私の体に入っている蓮二に見つからないように全力で逃げた。
逃げ先は決まっていた。学校の端っこにある花壇とかがある所。
昼放課は園芸委員くらいしか来ることがないだろうし、その園芸委員も毎日来る訳じゃないから、、人の目から逃れるにはもってこいだった。
飛ぶように軽く走って、内心楽しみながら、吹池さんを連れて全力で花壇へ向かった。
「……ふぅ、ごめんね?着いたよ?」
「はぁ、はぁ……ちょ、ちょっと……速すぎです………」
「わぁ!!ご、ごめん、ごめんね!?そっか、吹池さんのペースを考えてなかった………本当にごめん!」
あまりにも蓮二の体が速く走れるものだから、思わず全速力で走ってしまったけど、彼女は小さな体の女の子なんだ。それを忘れてしまっていた。
「はぁ、はぁ、大丈夫、です………ちょっと休憩させて下さい……」
「ごめんね?」
吹池さんは肩で息をしながら、台みたいになっている校舎のよく分からない所に座った。
私もその横に座る。
「ふぅ………やっぱり研野先輩は、サッカー部だから足が速いですね」
「あー………まぁ、そうかも。毎日走ってるしね」
私は蓮二が必死にサッカーをしている姿を何年も見ているんだ。蓮二がどれだけ練習をしてるかは知っていた。
「サッカー部は大変ですか?」
「大変か。まぁ、そうかも。でも、楽しそうだよ?」
「楽しそう?」
「あいや!違う違う、楽しいよ!ホント」
危ない、勢いで美礼として喋っちゃった。
少し怪訝そうな顔をしているが、すぐに話が変わった。
「お弁当食べましょ?お腹空いちゃいました!」
「そうだね。お腹空いたね」
私は手に持っていた弁当の包みを外す。
中に、見知った弁当箱を見つけて、『そういえば蓮二は中学からこの弁当使ってたな』と思い出した。
「わぁ、おっきい弁当ですね」
「そう、だね……」
私も大きいと思う。けど、食べれちゃうんだなコレが。
「じゃあ、いただきます」
「あ、いただきまーーーー」
「あれ?何してんの?」
背筋が凍った。
全身の身の毛がよだった。
なぜって、その声があまりにも聴いたことのある声だったからだ。
いや、聴いた事はあったけど、いつも聴いている声とは少し違った声。
「みれ………んじ、と、誰?」
私は体が動かなかった。
耳では聞こえていても、口は開かない。
「研野先輩?お知り合いですか?」
吹池さんは私に聴いてくるけど、私は硬直していた。
と、その時。その人物の後ろから、もう1人出てきた。
「綾藤先輩?どうかしたんですか?」
「お?いや、なんか知り合いがいてさ」
………え?誰?
綾藤先輩は………うん、私じゃないよね。
勿論それは………
「………美礼、こんな所で、奇遇だな」
美礼。その読み方は、『蓮二』である。
「奇遇………確かに、蓮二」
この蓮二の読み方は、『美礼』なんだろう。
私の後ろから声をかけたのは、蓮二であった。
そしてその後ろには、見知らぬ男子。
「あ!永遠君!?なんで!?」
だが、吹池さんは知っている様だった。
永遠君?私、知り合いじゃないよ?
「あれ?桜ちゃん?」
「へぇ、知り合いなの?」
「はい、綾藤先輩。僕の中学からの友人です」
「おー、これまた偶然」
えっと、私以外の3人で会話が弾んでいる様子で。
私だけが冷や汗をかいているというわけで。
………何この状況?