第3話 お願いその2
次の日の朝。
俺はいつも通り学校に向かっていた。
だが、道中でいつもとは違う事があった。
美礼が通学路で待っていたのである。
「あれ?どうしたんだ?いつもよりずっと遅い時間だろ?」
美礼は毎日、遅刻ギリギリで来る俺とは違って、だいぶ早くに学校に行っているから、いつも通学路で会う事はない。
「ちょっと、一緒に学校に行きたくて……」
「ふーん、そっか。じゃあ一緒に行くか」
俺がそう言うと、美礼は「うん」と言って俺の少し後ろについてくる形で歩き出した。
「いやぁ、なんか懐かしいな。一緒に登校だなんて」
「う、うん……そうだね」
「元々登校班も違ったしなぁ。中学の時も、特に時間合わせて登校したりしてなかったしな」
「う、うん………」
「………なんだよ、反応悪いな?どうした?具合でも悪いか?」
「いや、そう言うわけじゃ………」
「じゃあなんだよ?言いづらいなら無理に言わなくてもいいけどさ」
俺がそこまで言うと、美礼は後ろで足を止めた。
それに合わせて、俺も止まる。
「あの、ね?実は、私が朝蓮二に合わせたのには理由があるんだ」
「理由?どんな?」
「えぇっと、その、言う事があって………」
美礼は言い淀んでいるようだ。別に時間には焦ってない(別に遅刻してもいい)から、美礼が言うまで待つ事にした。
そして数分、ともすれば1分にも満たなかったかもしれないが、よくわからない時間待った後。
「ここから1週間、学校が終わるまでずっと入れ替わっていて欲しいの!」
「えぇ!?」
内容は、とんでもないものだった。
なぜなら俺たちは今までは、入れ替わるのは多くても週に2、3回、それも1、2時間程度のものだったからだ。
何時間も体が返ってこなかった昨日が異常なくらいで、1日活動してる内の半分くらいずっと入れ替わるのを毎日だなんて、やった事がなかった。
「ちょ、ちょっと待てよ。流石に無茶じゃないか?」
流石に1週間授業全部入れ替わってるとなれば、俺も美礼も周りから怪しまれる可能性が増えてくる。
それに、この入れ替わりの現象だって分かってない事が多すぎるから、ずっと入れ替わっていることへの危険性があるのだ。
「無茶なのは、分かってるし、蓮二に一杯迷惑がかかるのも分かってるの。それでも、お願いします」
美礼は深々と頭を下げた。
「な、なんだよそれ……?美礼、なんか最近おかしくないか?今までそっちから積極的に入れ替わろうなんて言ったこと、あんまり無かったじゃんか?だけど最近は、毎日のように入れ替わってるし……」
こう言ってみても、美礼は何も言わないし頭も上げない。
うーん、どうするべきか………
別に入れ替わっていても、俺が美礼になる分には、優等生の美礼の評価が下がる事以外になにも悪い事はないしなぁ………
「……俺は別に対して先生からの評価も高くないし、お前に悪いことしかないんだよ?」
「………それは、大丈夫。なるべく蓮二には迷惑かからないようにする」
「いや、俺の事はいいんだけど……てか、サッカー部は行っていいんだよな?」
「うん、それは、多分………?」
「何でそこは曖昧なんだよ………?」
怪しい、ますます怪しい……けど、強く断るような理由もないし……
「………まぁいいよ。じゃあ、もう入れ替わって行こうか」
「本当にありがとう……本当に!」
「はは、大袈裟だよ」
俺は美礼と向かい合って、いつも通りビンタし合った。
★☆★☆★☆
「それで?アンタ達は入れ替わったってワケ?」
「そうだけど、あんま大声で言うなよ」
というわけで、俺は早速協力者として悠花に事情を説明した。
「………はぁ、ホントに美礼は……」
「ごめん、なんて言った?」
「何でもないわよ!ったく、毎度毎度迷惑かけられるこっちの身にもなってよ、ホント!」
「ご、ごめん、ごめんなさい!ホントにごめんなさい!」
「もう、もう!………美礼のためで、アンタのためじゃないからね」
「はい、はい、心得ております」
そんなに協力してくれないくせに………と思ったけどそんなことを今の悠花に言ったら確実な死が訪れるのが分かった。
「真面目に授業受けなさいよ?アンタ、今は美礼なんだから」
「はい………出来るだけ頑張ります」
「後、そのアホっぽい雰囲気もやめなさい。誰かと話す時も、常に気をつけてよね?」
「うぅ、それは………どうかな、ちょっと不安だけど……」
「ガニ股!気をつけなさい?」
「はい!教官!」
「………はぁ、なんで美礼は、こんな奴………」
「え?なんて?」
「アホ面!」
「あぅっ!」
こ、怖ぇ……
けど、やっぱりどうしても聞きたい事があるんだよな。
「あのさ、なんで美礼にはあんなに優しいのに、俺にはそんなに冷たいんだよ?」
「何、急に?アンタがアタシに迷惑ばっかりかけるからでしょ?」
「いやホント、それは申し訳ないんだけど、それだったら美礼のせいみたいなところもあるし………」
「まぁ………そうね」
「でも、美礼には優しいだろ?なんでかなぁって」
「………これでも、優しくしてる方なのよ?アタシ、あんまり男子と話す事とかないし、ちょっと苦手だし………」
「苦手?」
意外だった。
でも確かに、思い返してみれば悠花が男子と話してる所を見たことがないな………結構モテるみたいで、俺に紹介してくれって奴がこれまで何人かいたしな。全部断ってるけど。
「てか、美礼のせいって言ってるけど、アンタのせいでもあるんだからね?だから、協力して欲しければアタシの言う事を聞きなさい。いい?」
「そう言う事なら……はい」
どうやら俺は、悠花の言うことを聞くしかなさそうだった。