第16話 約束の行方:美礼の場合
蓮二に誘われてお昼を三品君と3人で食べる事になったけど、果たして行っていいんだろうか。
多分三品君は、蓮二と2人きりになりたくて誘ったんだろうが、私が行ったら完全に邪魔者だ。
そりゃあ、元々の私の体に対して告白した三品君と、今の蓮二が2人きりになるなんて、少しだけ怖さもあるけど、告白して来た人に対して誠実に振る舞わなくてはならないのは、私が身を持って経験した。
多分、今すぐどうにかなるような問題じゃないから、今2人きりになるなんて事があったとしても大丈夫だろう。
いつか、3人でちゃんと話し合おう。
私はスマホを取り出して、蓮二にメッセージを送った。
『ごめん、昼休みに用事が出来たから、三品君と2人でお昼ご飯食べて』
「こんな感じでいいか」
送信ボタンを押す。
さて、昼休み、ヒマになったなぁ………でも、蓮二に見つかったりするのも良くないから、教室にいるわけにもいかないし………
多分、蓮二と三品君は、前一緒にご飯食べた場所に行くんだろうな。じゃあ、屋上でご飯食べれば、会う事はないだろうな。
そう思って、私はお昼ご飯は屋上で食べる事にした。
★☆★☆★☆★☆
4限終わりのチャイムが鳴る。
蓮二の体で生活すると、女の子の体でいる時よりもずっと空腹を感じた。でも早弁とかするのはまだ抵抗があるから、2限くらいからずっとお腹が空いていた。
一刻も早くご飯が食べたい………!
「うぉっ!蓮二どこ行くんだよ!?」
「ごめん、ちょっと用事!」
近くにいた友達に別れを告げて、今日は早起きして自分で作った弁当を持って、教室を飛び出た。
「きゃぁっ!」
教室のドアを開けて飛び出したところで、何かにぶつかった。
しかし、抵抗はほとんどなく、私がその対象を吹き飛ばしたのが分かったから、慌ててそちらを見た。
「ふ、吹池さん?大丈夫!?」
尻もちをついている吹池さんが目に入って慌てて近寄った。
「痛たた………」
「怪我とかない?」
「怪我とかはないですけど………」
「けど?」
吹池さんは、パッと顔を上げる。
「研野先輩に会えて嬉しいですー」
表情は、にこっ、と輝くような笑顔だった。
「ま、眩しいっ」
「どうしたんですか?先輩?」
「なんでもない!」
私は、吹池さんに手を差し出して、体を起こした。
立ち上がらせようとすると、彼女の体は驚くほど軽かった。
「それより、どうしたのこんな所で?」
「先輩に会いに来たんです!一緒にご飯食べましょー!」
「お昼ご飯かぁー………」
思わず頭を抱えてしまった。
いや、蓮二の誘いを断った後だしなぁ………だからといって、ここで断るのもなぁ………
「あと、そろそろ告白の返事も………えへへ、急かしてるわけじゃないんですけど……ね?」
コクハク?国博?こくはく………告白!!!!
忘れてた、全ての元凶の私の告白先延ばし事件!
血の気がサッと引いて、慌ててスマホを見た。
告白を受けたのが火曜日、ついでその日の夜に先延ばしのお願いをした。そして、今日が月曜日だから………明日じゃん!!
やばい、ここ最近色々ありすぎて、元々の私の悪行を忘れていた……そうだった、これがなければ、最初から蓮二に伝えておけば、こんな事にはならなかったんだ。
「そうだよね。告白の、返事だよね………」
やばい、ここ最近の忙しさのせいで、事態は好転していないどころか、よりややこしく拗れてしまっている。
「わ、分かった!とりあえず、ご飯一緒に食べようよ!うん、そうしよう!」
あー!また先延ばしにしてるー!
ダメだって分かってるのに、そうそう人って変われないのよね。そんな簡単に変われるなら元々先延ばしになんてしてないのよね。
「やったー!じゃあ、この前と同じ所にーーーー」
「ーーーーダメ!あそこはダメ!」
「ひっ!?ご、ごめんなさい!」
「あ、違う、違う違う!怒鳴った感じになっちゃったけど、違うの!ごめんね!?」
思わず大声で遮ってしまったせいで、怒ったみたいになっちゃったけど、そう言うわけじゃないのよ許して吹池さん。
「屋上にね、行こうと思ってたんだよ」
「屋上ですか、人いっぱい居そうですねー」
「まあね、でも、結構好きなんだ」
「分かりました。研野先輩が行きたいって言うなら、そこで!」
決定!とばかりに、吹池さんは歩き出した。
「あ、ちょっと待ってよ」
と、私が追いかけようとした、その時。
「《蓮二》?」
ぞくり、と首筋を蛇が這った。
その一言で、驚きと、悲しみと、戸惑いと、それら全てが、一気に伝わって来て、体が固まってしまったように動かなかった。
「用事って、それ?俺の代わりに、吹池さんって事?」
違うのとも、言えなかった。
全ての言い訳を許してくれないように思えた。
紛うことなく、そこに立っている蓮二の方なんて見れるわけがなく、ただ、ただ無力に、私は泣く事もできず、逃げ出す事もできず、立ち尽くすだけだった。




