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第12話 お泊まり:蓮二の場合

 美礼の家に帰ると美礼の母親が居たが、早帰りに関して特に詮索される事はなかった。担任や誰かから、事情を説明されたんだろうか。


 なら丁度いいと思って、俺は美礼の部屋に入った。

 勿論準備をする為で、俺はあまり見ないようにしながら、美礼の部屋のクローゼットからパジャマっぽいのと下着っぽいのを取り、部屋に置いてあった大きめのリュックに詰めた。


 プラス、更に大事な物として、水着があった。

 今日は2人で風呂に入る事になるので、なんとなく、水着を着て風呂に入ろうと言う事になったのだ。


 互いの裸を見合うだけなら、自分の体同士だし関係ないような気もするが、恥ずかしくはあるのだ。


 ちょっと後に母親から昼ご飯がいるかと聞かれたが、美礼が学校に持って行っていたお弁当があったので、遠慮しておいた。


 昼ご飯で弁当を食べた後、俺は少し眠った。

 本当は保健室で寝るつもりだったが、色々あって結局寝れなかったし、肉体的にも精神的にも限界が来ていた。


 だからか、次に目が覚めた時には外が暗くなっているほどで、時計を見れば18時半だった。


 恐らく俺の母親はもう家にはいないだろう。

 夜勤の日は、18時より前に家を出てる気がする。


 準備をしてリュックを背負って、俺はリビングに向かった。



「あら?そんな荷物でどこに行くの?」


 リビングには、美礼の母親が居た。

 まだ父親は帰ってきていないようだった。


 というか、美礼の母親を見たのはいつ振りだろうか?

 前美礼として家に帰ってきた時も、顔を合わせなかった気がする。


「えっと、今日は、友達の家に泊まりに行ってくる」


「そっか…………あのね、美礼?」


「うん?どうしたの?」


 やっぱり流石に急すぎて怒られるんだろうか?と俺が身構えたのも束の間、彼女の顔を見れば怒られるわけではない事が自ずと分かった。


「……最近貴女、何か思い詰めてるみたいだから、辛い事があったらお母さんに話してね?」


 美礼の母親は、ただただ心配しているようだった。

 確かに美礼はここの所何か思い詰めてる様に俺ですら思えたのだから、実の母親なら心配しているのが当然だ。


 この人の目の前に突っ立っている俺が、真の娘の美礼でない事が心苦しく思えた。



「………うん、ありがとう」



 だから、俺が美礼の体にいる内は、なるべく美礼として過ごして、楽しそうに日々を過ごして、母親を安心させてあげたいと心から思えた。



「いってきます」


 大丈夫だから、とばかりにニコッと笑って、俺は美礼の家を出た。




 ★☆★☆★☆




 俺の家に着いてインターホンを押すと、家の中からドタドタ聞こえて、すぐに玄関のドアが開いた。


「母さん、仕事行った?」


「うん、蓮二のお母さんなら、1時間くらい前に家出たよ」


 安心する返答が得られたので、俺は遠慮なく家に入った。

 そりゃそうだ。本来、俺の家なんだから。



「蓮二の家、私久しぶりかも。最近入れ替わっても、私蓮二の家に帰った事なかったし」


「確かにな。俺も、久しぶりに美礼のお母さんに会ったよ………なんか、騙してるみたいで申し訳なかった」


「あ、私もそうだった。蓮二のお母さんの事騙してるみたいで、申し訳ない気持ちになったなぁ」


 やっぱり美礼も俺の母親に会ったんだ。



「とりあえず、夜ご飯食べようよ。蓮二まだ食べてないんでしょ?」


「そうだな。食べに行くか?」


「いや、せっかくお泊りするんだし、私に作らせてよ」


「いいのか?」


「うん………こんな事になった原因は、私が大きいからさ」


「美礼…………」


 1人で責任を感じてるんだろうが、こうして俺達2人の間で起こった事件なんだから、2人で責任を共有したい。


 なので。


「よしわかった、俺も手伝うぞ。野菜切るぐらいならできるからな」


「おー、じゃあ一緒に料理しちゃおう!」


 どうやら、美礼は少しだけウキウキしてる様だった。

 人の家泊まるのなんて、久しぶりだもんな…………楽しくなる気持ちも分かるし、ずっと落ち込んでるよりずっと良い。


 緊張感なんて無くして、今だけは『俺達が元に戻れなくなった事』を忘れてしまおうと、俺は思えた。




 ★☆★☆★☆




 俺は適当に荷物を置いて、早速キッチンに立った。


 生まれてこの方ずっとこの家に住んでいるが、キッチンに立った回数なんて両手で数えれるほどだから、キッチンから見える景色は割と新鮮だった。


 俺の母親も、こう言う景色を見て、お母さんになって行ったんだろうか………って、違う違う、俺がなるのはお父さんだろ。たとえ料理するにしても、お父さんになるんだろうが。



「蓮二?どうしたの?」


「………ん?いや、何でもない、何でもない!」


「どうしたの慌てて………?まぁいっか、じゃあ今日は、明日の朝も食べれる様に、カレーを作っていこう。蓮二は、人参切ってね」


 人参を切ると言う事なので、俺はまず皮剥きをしなくてはならない。

 と言っても包丁で出来るほど器用ではないのでしっかりとピーラーを使って安全に剥くことにしよう。




「蓮二、上手いじゃん」


「え?ホントか?てかピーラーに上手いも下手もあるの?」


「いやいや、あるよ。下手な人はピーラーでも皮を剥けなかったりするもんだよホント」


「そ、そうか?」


 なんか嬉しいなぁ………とか思ってる間にも美礼はスイスイ野菜を切っていて、人参に時間をかけてる俺が恥ずかしくなる。


 よし次!さっさと切ろう!じゃないと、足引っ張っちゃうからな!


 えーっと、野菜を切る時は猫の手だって、小学校か中学校の家庭科の授業でやったぞ?


 左手をグーにして人参を抑えて、右手で包丁を持って………



「………って、固っ!」


「え、うそ?……って、そんな力任せに包丁を押し込もうとするからだよ。蓮二の体格ならそれでも切れたかもだけど、今は私の体で非力なんだからさ」


「そ、そう言う物なのか………?」


「そう言う物。ほら、私も手伝ってあげるから」


 美礼はそう言うと、じゃがいもを切っていたのを中断し、包丁を置いて手を洗った。


 ん?何するんだ?別に俺が美礼に人参を渡してそれを切ってもらえれば解決する問題なんだが…………


 と思った矢先、美礼は俺の後ろに立った。


 ………あれ?なんで背後取られてるの?



「ほら、こうやって手を握ってさ」



 美礼はそう言って、俺の体を包み込む様に腕を回して、俺の両手に美礼の両手を合わせた。


 俺の華奢な両手は美礼のゴツい手にほとんど包まれる。



「ちょ、ちょ、え?」


「ほら、こうやってさ、包丁を押し込むんじゃなくて…………」



 え?今どう言う状況?

 後ろから抱きしめられてるみたいになってない?


 美礼の両手はしっかりと俺の手を握っている。あれ、こいつの手ってこんなに大きかったっけ………じゃないわ俺の手を包んでるのが俺の手で包まれてるのが俺の手じゃなくて………ってわけわからん事になってるぞオイ!?



「………んじ、蓮二?」


「ッは!?み、美礼?なんだよ」


 と振り向けば、そこにあるのは美礼の顔。

 いまいち状況が理解できなくて、数秒間見つめ合ってしまった。




「………ちょ、ちょぉぉぉ!?ま、待って!一旦待って!!」



 正気を取り戻した時、俺はとりあえず美礼を振り解いた。



「危ない!危ないよ蓮二!?包丁を振り回さないで!」


「あぁ、それはごめん………じゃなくて!」



 あれ?あれ?あれ?なんで俺こんなに慌ててるんだ?

 ていうか、なんで俺、こんなにドキドキしてんだ!?


 美礼の顔ったって、俺の顔だぞ!?鏡で何回も見ただろ!?それにドキドキするとか、やばいって………



「蓮二?」


「ちょまて、一回こっち見んな!」


 あれ?なんでか直視できない!?

 ……….違う、赤かなんかなってないし、照れてもない!



「顔なんか隠して、どうしたの?」


「うるさい!ちょ黙ってろよ!」


 呑気な顔しやがって!俺の顔、ムカつく!



 どうやら料理に手がつきそうになさそうなので、謝りながらも美礼に全部任せて、俺は一旦落ち着く事にするのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] あ゛っ "異性"を意識しちゃうのほんと好きです……
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