第7話 下校:美礼の場合
私と蓮二は昼休みの後、つつがなく午後の授業を終えて、屋上で元の体に戻った。
「俺、部活は行っていいんだよな?」
「うん、流石にそこまでは迷惑かけられないから」
「そっか。まぁ俺はぶっちゃけ部活さえ行けりゃいいからな」
そう言って蓮二はグラウンドの方へ向かって行った。
一応、吹池さんには部活があるからとりあえず先に帰って欲しいとだけ言っておいた。
ていうか、昼ご飯も一緒に食べて、帰りも一緒に帰る感じになってるって、殆ど付き合ってるも同義じゃん。
なんて思ったが、告白を断らずに返答を1週間延期させた時点で私が全て悪いので、吹池さんを責めることなんて出来ない。
私はいつも通り、1人で下駄箱に来て、1人で帰る。
そんな中で、ふと、私が蓮二と付き合って、一緒に下校している所を想像してみる。
まあ蓮二はサッカー部があるから一緒に帰るなんて出来ないけれど、もし出来たなら、きっと私達はどうしようもなくどうでもいいような浅い話をして帰るんだろうな。
でもきっとそれが楽しいんだろうな。
蓮二も私も、笑顔で帰る事が出来たなら…………
「綾藤先輩!」
突然、後ろから呼ばれた。
振り向くとそこには、可愛い系男子みたいな男が立っていた。
「先輩、1人ですか?」
「え………?あ、はい………」
あれ?なんだこの人、どこかで見たような………
「じゃあ、一緒に帰りましょ!」
「は?……なんで急に?」
なぜ初対面の人と一緒に帰らなきゃーーー
って、あ!思い出した!この人、バスケ部の貴公子みたいに呼ばれてた人だ!クラスの女の子達がカッコいい後輩がいるとか言って教えてくれた様な気がする………
というか、よく考えたら昼休みの時私の体に入った蓮二と一緒にいなかった?
「あれ?なんか凄いよそよそしく無いですか?」
「あー………うん、なんかごめん」
だって、私は初対面なんだもん!許してください!
っていうか、私がこの人と知り合った記憶はないから、もしかしたら蓮二は今日知り合ったりしたのかな?
それで一緒に帰ろうって言って来るって、凄いメンタルだけど。
イケメンはそれで失敗したことないのかな?
「一緒に帰ってくれませんか?」
「え?あ………はい?」
「やったー!じゃあ帰りましょ!家まで送って行きますよ」
「いや、別に良いです」
「うわ、凄い速さで断られた!?」
なんだこの人無駄にテンション高いな………やだな………
あと、名前が全然思い出せない。何回か聞いた記憶があるんだけどな………
えっと、えーっと…………
「あ、三品君!」
「はい?なんですか?」
やば、口に出ちゃったみたい。
思い出しただけなんだけど、どうやら返事してくれて、申し訳ない。
「いや、なんでもないよ、うん、ごめんね、呼んでみただけだから」
私はそう言って先に歩いて行くことにした。
これ以上追及されたらどうしようも無くなってしまうから、私は逃げることにしたのです。
「あ、待ってくださいよ」
と三品君は急ぎめで歩いて来るが、女子の歩幅と男子の歩幅は違いすぎるので、すぐに追いつかれてしまう。
「先輩の家って、どの辺なんですか?」
「………そう言う事をいきなり聞くのは失礼だと思わないの?」
「あ!ごめんなさい………近かったら、休みの日とか、一緒に遊びに行きやすいかなーって」
「いや、貴方と休みの日に遊びに行く予定は無いので大丈夫だと思います」
「あ、さりげに振られた。まぁそうですよねー、先輩、連絡先すら教えてくれないんだもん」
「………まぁ、そうだよね」
と口で言いながら、蓮二が勝手に私の連絡先を教えようとしてなくて、内心喜んだ。
私は蓮二に無理を言って体を交換してもらっているから、ある程度何をされても怒る事はできないが、蓮二が私の体を丁重に扱ってくれているのが分かって、嬉しかった。
まぁそれとプラスで申し訳ない気持ちも膨れ上がったんだけど。
そんな事を考えていると、横に三品君がいなくなっている事に気がついた。
急にいなくなられては流石にびっくりするので、私は周りを見渡すと、三品君が後ろに止まっているのを見つけた。
私は、彼に近づいて行く。
三品君は、1歩目を出した時少し大きな声で、
「やっぱり、変ですよ」
と言った。
私も、それに少し大きな声で返す。
「変?何が?」
私の返事を聞くや、三品君は急に近づいて来る。
少し離れていた2人の距離は一度に殆どゼロになった。
そして三品君は、私の顔に息がかかるほど近づいた。
「な、何!?」
私は咄嗟に勢いよく後退りして離れる。
三品君は、無理に追って来たりはしなかった。
「やっぱり、変です」
「だから何が………」
「昼までの綾藤先輩なら、何をしても照れたりしませんでした」
昼までの私?
………つまりそれって、蓮二の事?
「だけど、今の先輩は顔を近づけただけで、いやそれが普通なんですが、照れて離れて行きましたよね?」
そりゃそうだよ。いくら私が蓮二を好きだからって、一応イケメンなんだし、そんな人に顔を近づけられたら好きにならなくたって照れたりはする。
だけど蓮二なら。男ならしないだろう。ただ嫌な顔をするだろう。
「綾藤先輩は、僕と貴女が出会った時のこと、覚えてますか?」
三品君は、背後にまだ降り切ってない太陽の光を得て、陰にいる私を照らして責めているようだった。