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第6話 昼休み:蓮二と美礼の場合

 色々と話をしながらも、美礼のご飯の量ならすぐに食べれた(食べる量は変わっても食べる速さは変わらない)ので、俺はご飯の進んでなさそうな美礼に向かって、


「蓮二。ちょっといい?」


 と声をかけた。


 先程から全く喋ってなかったし、ご飯も全然食べてなかったから、少し心配になったのだ。


 が、俺に声をかけられた美礼は、より一層顔面蒼白になって、小さく頷いて弁当を片付けた。


「俺達、先帰るねー」


 俺は美礼に代わって2人に声をかけた。

 吹池さんとやらには凄い睨まれたような気がするが、三品はずっと心ここに在らずという雰囲気だった。




 美礼と無言で少しだけ歩いて、2人から十分離れたところまできてようやく俺は口を開く。


「あのさ、美礼」


「……っ!は、はい!」


「いやそんなにビビる必要はないんだけど………あの吹池さんって、どこで知り合ったの?」


「いや、その………」


「俺、見た事なかったからさ。俺の知り合いじゃなくて、美礼の知り合いかと思ったけど、今の俺を見ても何も言わなかったって事は、美礼の知り合いでもないんだろ?」


「………はい、まぁ」


「どこで知り合ったんだ?」


「うーん………その、大変話しづらい事で………」


 問い詰める気も責める気もないが、俺の質問には誰に対してでもモゴモゴと口籠もっている。


 もしかしたら、話しづらい事情なのかもしれない。


「……まさかとは思うが、あの女の子ってお前が俺と1週間入れ替わろうとしたことに関係してる?」


「え!?………いや、うん。実は」


「はぁ……やっぱりか」


 まぁそんな雰囲気はあったもんな………

 話し辛そうにする話題といえば、ここ最近はずっと俺達が入れ替わっている理由についてだったからな。


「いつになったら話してくれる?」


「………この入れ替わり期間が、終わった時に」


「その時まで待てば、全部説明してくれるんだな?」


「………勿論、必ず、そうする」


「よし、わかった」


 美礼は申し訳なさそうにしてたけど、その表情からは嘘を言っているようには見えなかった。


 別に答えを急ぐ必要はないし、部活さえ行ければ俺として特に学校生活について問題はないから、ここで答えを聞く必要はない。


 あまりにも俺に迷惑が降り掛からなければ、美礼にとやかく言う必要はないからな。気長に待てばいいんだよな。


 その後俺は、ちょっとの間美礼と適当な会話をして、自分達の教室に入るところで別れた。



 ★☆★☆★☆



 私、綾藤美礼は、どうしようもないダメ人間だ。


 どれだけ蓮二に気を遣わせてしまっている事だろうかなんてことは、考えなくたって分かった。


「おー研野!お帰りー!」


 教室に入ると、寺内らサッカー部の蓮二の友人達が手を振ってお出迎えしてくれた。


 ちょいちょいと手招きされたので、それに逆らうわけにもいかず、私はその中に飛び入った。


「ただいま」


「1人ってことは………フラれたんか!?」


「は?」


 フラれた?何の話?


「とぼけんなよ!お前さっき、ちっちゃくて可愛い女の子とどっか行ってたじゃんかよー!」


「お、おい!何、言ってんだよ」


 面倒な事になった。いや、元々私が撒いた種だから仕方がないんだけど、それにしても厄介な事になった。


 全力で逃げたところで見られた事に変わりはないんだから、どうにもならないんだった。


「フラれたんじゃないし。クラスで階が違うから階段で分かれただけだし」


 ムキになって思わず否定してしまった。どうせならフラれた事にして………ていうのも、ダメか。ちゃんと、向き合わなくてはいけない。


「嘘つけ!お前がさっき綾藤さんと一緒に歩いてるところ見たって報告があったんだからな!」


「うげぇ」


 な、なんでそんな事まで………ていうか、見られてたんだ。


「そ、そんなの………偶然会っただけで……」


「ふーん、なら、綾藤さんとは何もないんだな?」


「…………おう」


 言いながら、心がずっしり重くなった。

 自分の好きな人が、自分の事を何も思ってない事を改めて認識し、自分の口でそれを言わなくてはならないという不快感が、罪の意識と共に私を責めた。


「そうか。なんかつまんねーな」


「おい、つまんねーってどう言う事だよ」


「いやな?なんかこう、お前がこれまで付き合ってきた人とか見ても、どーもお前は楽しそうじゃなかったし、今度こそお前の本命なのかなーって期待したんだがなぁ………」


 そうだったのか。

 蓮二は、これまで付き合った人とは、楽しそうにしてなかったのか。


 初めて知った。そして同時に、その事実に少しだけ喜びを感じている自分に気がついた。


 私なんかが喜んで良い事じゃない。

 たとえどんな心持ちで蓮二に告白したとしても、こんな所で蓮二にずっと迷惑をかけている私と比べれば、断然前に進んでいる。


 本気で付き合う気がなかったから、蓮二に告白できたんだろうか。


 なら私は、いつになったら告白できるんだろうか………



「…………んじ、蓮二?なんだ?ぼーっとして」


「ん?あぁ、いや、なんでもない」


 とりあえず、今の私に出来る事。

 それは、一刻も早く蓮二に真実を伝えて、たとえ嫌われたとしても蓮二に謝罪する事だ。


 でも今の私には、覚悟と呼べるものは無いに等しかった。


 私は蓮二の体で、漠然と()()()を待つのだった。

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