ep2
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「おはよう。シェリル」
お父様が私に言った。
「…おはようございます。お父様、お母様……
………姉さま」
一応家族に挨拶をして、いつもの椅子に座る。
一旦状況を整理しましょう…。ここは、あのゲームの世界。
『シンフォニエッタ~祈りの鐘~』 Ⅰ部〜Ⅲ部で構成される生前の世界で爆発的なブームを起こした乙女ゲーム。
このゲームは主人公が自分ではなく、"ティアラ"という女性の視点でプレイするタイプの乙女ゲームで、その主人公にもキャラ設定や容姿設定もあり、五人の攻略対象と恋愛するシュミレーションゲーム…だったはず。
それで私は、『シンフォニエッタ』の悪役令嬢…シェリル・ティンダルーク。Ⅲ部のメイン悪役令嬢だ。
主人公ティアラの双子の妹…。Ⅰ部からティアラにしつこく嫌がらせをして、挙げ句の果てには、ティアラを禁忌魔法で殺めようとして死刑にされるはずだ。
それだけは絶対に嫌です…!!せっかくこの世界にこれたのに…!!
せめて…せめて…リルくんをこの目で見るまでは死ねません…!!
「おはよう、シェリル」
「おはよう〜シェリル〜」
あまり話す気にもなれませんから軽く会釈をして食事を始めた。
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食事を終えてわたしはすぐに自室に戻った。
わかったことが一つある。
今のシェリルは私だけど、私の中にもシェリルがいる。
例えばこの部屋の趣味…全体的に暗い色で統一されていてゴスロリっぽい小物が多い。
生前はゴスロリとか一生無理!!って感じだったけど、今は普通に可愛いと思う。
偶然かもしれないけど…。
生前の私はリルくんリアコガチ勢で…その気持ちは変わりませんけどね!!
「シェリル様…どうされました?
悩み事ならこのディアにおまかせ、ですよ!」
しかめっ面だった私にディアが気を利かせてそう言ってくれた。
「ふふ…いつもありがとう、ディア。
…そうね、、鏡を、持ってきてくれるかしら」
「はい。只今。」
そう言ってディアはドレッサーから手鏡を持ってきてくれた。
ディアから手鏡を受け取って自分の顔を見た。
黒いふわふわの髪。ティアラの真っ直ぐでサラサラの髪もきれいだけど、私はシェリルのふわふわの髪のほうが可愛いと思う。猫みたいな濃いピンクの目。まつげはながいし、肌は白い。鼻は小さくて、アヒル口…。
「ディア。…わたくしってとてもかわいいですわよね…」
ふざけてなんかない。大真面目だ。
「ええ…!!シェリル様はたいへん可愛らしいお顔立ちをされています…!!」
「ふふ、ありがとう」
私の顔は可愛い方だと思う。でもあと数年もすれば、ゲームの容姿みたいな妖艶な見た目になるのだろう。
(いやだなあ…。リルくんは可愛らしい顔のほうが好きそうだったし)
はあ…とため息をついた。そういえば、、、
「………ねえ、ディア?。普段の私って、、」
たしかシェリルは、横暴な態度で気分屋、おまけにプライドも高い…屋敷の使用人たちには心底嫌われていたはずだ。
「もしかして性格悪い…?」
恐る恐る聞いてみた。
「ええと…そうですねえ…他の使用人共はシェリル様のことを怖がっていると思います…」
遠慮がちにディアは答えた。
「あっ!でも、ディアはシェリル様が大好きですよ!」
ニコニコと答えてくれた。
「ディアぁ…私もディアが大好きよ…
…どうして私を怖がっているかとかわかるかしら…」
いや…まあ…理由はわかりきってるんだけど…再確認…
「そうですね…シェリル様はディアにはすごく優しいですけれど、その…他の使用人を無視したり、失敗は許さない、という感じでございますので客観的に見て、ディア以外に厳しすぎると思います」
………なるほど。
これは先が思いやられますね…。