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Epilogue.

『その為に、今ここからはじめよう』


 具体性がない独白に苦笑しながら、最後の一文を読み終えた。

 内ポケットから取り出したミントガムを口に放り込んで、なんとなく空を見上げる。


 青い。


 平凡なサラリーマンの感想なんて、そんなものだ。

 膝の上で開いたまんまのノートの中身ほど繊細なわけがないし、そうであってはやっていけないのではないかとも思う。

 奥歯で噛みつぶしたガムの、爽やかな香りが鼻につく。

 ニコチンをキシリトールに切り替えて数ヶ月。

 まだ慣れないが、手持ちぶさたでもない。

 禁煙をはじめたのは、喫煙室が会社になかったからだ。ただでさえ仕事を知らない新入社員。自分から肩身の狭い思いをするほど、煙草に心酔してはいなかった。

 代わりに噛み始めたガムが癖になって、こんな休日にまで持ち歩いてしまうあたり、コストパフォーマンスはどっこいどっこいといったところだが、少なくとも周りの視線は気にしなくてすむ。

 くちゃくちゃとガムを噛みながら、苦笑した。

 日曜とはいえ、昼間っから公園のベンチで暇そうにノートをめくってて、何が周りの視線だ。

 せめて喫茶店にでも行くんだったと内省しつつ、もう一度ぱらぱらとノートをめくる。

 なんの変哲もない大学ノートだ。

 存在自体、6年ほど忘れていた。

 思いだしたのはついこの間、といってももう遠くかすんだ気がする3月。

 内定をもらった勤務先が県外だったから、引っ越しをすることになった。その少し前のことだ。

 押入れにつめこみっぱなしだった、段ボール箱をあけた。

 幼稚園、小学校、中学校、高校、いったいいつから取ってあるんだかよく分からない代物がわんさか出てきていっそ笑った。

 最初に手をつけたのは、一番上に乗っていた高校の頃の。

 数I、英語、国語……捨てなかった理由が分からないほど大量のノートがつまっている。

 引っ越しの期日は迫っているし、目の前のがらくたは膨大な量だしで少々焦っていた。

 とにかく片っ端から紐でくくっていった、その時だ。


 題名のないノートを見つけた。


 中身がろくなもんじゃないことは想像がついた。

 それでも開いてみたのは、好奇心がめんどくささに勝ったからだ。


 一通り目を通して、馬鹿馬鹿しくなった。

 単なる読書メモだった。

 読んだ本の抜粋が主で、たまに読後の感想なのだろう、稚拙な文章が書き留められている。

 今考えると頭痛がするくらい青臭く、偽善に満ちて、そして具体性もない。

 だが。

 何の変哲もない大学ノートを一冊まるごと埋め尽くしてなお、あまりあるほどの言葉を書きとめずにはいられなかったあの頃が、少し羨ましくなって。

 俺は結局。

 そのノートを捨てられないまま、こんな昼下がりに読み返してしまうのだった。

 誰もが一度はしたように、表紙を開いて。


 



 

 fin.                                                           

 この冗長で散文めいた実験的な作品を、最後まで読んでくださってありがとうございます。

 あなたがそこにいてくださることが嬉しいです。

 作中にタイトルと著者名つきで引用した書籍の半数は実在します。どれも興味深い作品ですので機会があればご高覧ください。

 作品の形、内容、気に入った一言など、感想をいただけると、飛び上がって喜びます。

(執筆の活力になります)

 どうぞよろしくお願いします。

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