Now here.
理想郷を探していた。
もうずっと、長いあいだ。
誰もが笑っている世界を、ずっとずっと探していた。
誰もが笑っていられて、しあわせな世界を、探しつづけていた。
その為に、おどけてみせたこともあった。
長くは続かなかったけど。
めでたしを探していた。
もうずっと、長いあいだ。
めでたしで終わった物語が、永遠につづく世界を探していた。
めでたしめでたしの先は、しあわせしかない世界を、探し続けていた。
その為に、何ができたんだろう。
大円団はいつだって、長くは続かなかった。
理想郷を探していた。
めでたしを探していた。
誰もが普通にしあわせで、笑っている世界を。
誰もが生まれたように、生きていける世界を。
ずっとずっと探していた。
そこにたどり着くための、正しい路を探していた。
誰もが普通にしあわせで、笑っている世界ならば。
僕がいても赦されるだろうか、と。
ずっとずっと思っていた。
消えた方が世界のためだと、何度も何度も言われたけれど。
消えた方が世界のためだと、何度も何度も思ったけれど。
消えることなどできなかった。
泉から汲んだばかりの水さえこぼしてしまう、
役立たずの手のひらに、何度も悪態をつきながら。
何かないかと思っていた。
そこに言葉があった。
そこに文字があった。
僕は読み方を覚え、書き方を、計算を覚えた。
読みはじめたことに意味はなかった。
ただ、読まずにはいられなかった。
書きはじめたことに意味はなかった。
ただ、書かずにはいられなかった。
読みながら、書きながら、気づいていた。
理想郷なんてどこにもない。
めでたしはほんの一瞬。
そんなことも知らなかった。
そんな僕だ。
そんな、僕だ。
でも、それが僕だ。
理想郷はどこにもない。
めでたしはほんの一瞬。
僕はどうしようもなく僕のまま、この場所で立ちすくんでいる。
ずっとそうしているのだろう、となんとなく思っていた。
それが、今日。
強い風が吹いて、道ばたの樹々に咲いていた花が散った。
薄紅色の花びらが、ざああっと一面に舞っていた。
僕は、美しいと思った。
これを伝えたいと思った。
伝えずにはいられなかった。
どうしようもない僕だ。
でもここに立っている。
理想郷じゃないけれど、ここに立っている。
めでたしはほんの一瞬だけど、でも心は僕のものだ。
その心で、僕は思う。
世界について語るなんて、おこがましいことなのだとしても。
今この一瞬の花吹雪がどれほど美しかったか知ってる。
その中にいられたことは、普通にしあわせだと思う。
だから。
僕はここで宣言しよう。
この一瞬を積み重ねて、生きていってもいいだろうか。
生きて、いけるのだろうか。
そんな言葉じゃなくて。
後戻りできないことは、もう知ってる
ここでやめることなんてできないことも。
だからしかたがない、なんて言葉でもなくて。
生きられるところまで生きて
行けるところまで、行って
いつか、どこかで。
ちゃんと、背筋を伸ばして。
あの花のように、笑っていられる自分に、なりたいと思う。
その為に、今ここからはじめよう。