dichotomy
「世界のすべてを、毒と薬に分けてみたいわ」
レィディ・グロウが言った。
特に観光地というわけでもない町のはずれの小さなホテルのベッドの上で。
たたき起こされたばかりのダンディ・ギャギィは、目を白黒させた。
時計はまだ、朝を指してはいない。
レィディ・グロウはいつもそうだ。
思いつきで動く。それもとびっきりワガママに。
つきあわされるダンディ・ギャギィはたまったものではなかったけれど、もう慣れっこになっていた。あきらめたともいう。
だから今夜も、何も言わずに布団にもう一度もぐり込もうとして、そうしてレィディ・グロウにベッドから蹴り落とされた。
「まずは、そう」
何事も無かったかのような涼やかな顔でレィディ・グロウが呟くのを、ダンディ・ギャギィはぼんやりとした頭で見つめる。
レィディ・グロウは綺麗だ。一流の庭師が温室で育てた薔薇にたまった朝露のきらめきも、彼女の瞳の輝きにはかなわない。もっとも、レィディ・グロウの瞳が輝いて、ダンディ・ギャギィがやっかいなことに巻き込まれなかった試しはないのだけれど。
「明日は?」
毒かしら。薬かしら。
いたずらっけ満載の微笑みを浮かべるレィディ・グロウに、ダンディ・ギャギィは途方に暮れた。
毒ってなんだっけ、薬ってなんだっけ。
そもそも明日ってなんだっけ。
一応考えてみたものの、頭がこんがらがりそうになってため息をひとつ。
レィディ・グロウがあきらめて、ベッドに戻らせてくれたらいいのに。
ちょっと期待してみたものの、きらきら光る瞳にあきらめた。
うん。答えるまで無理だ。
「ねえ。ギャギィは、どっちだと思う?」
にっこりと笑う薔薇色の頬をちょっと恨めしく思いながら、ダンディ・ギャギィはレディ・グロウの金色の巻き毛に手をやった。
「薬だったらいいと思うよ」
君のその、突拍子も無い思考回路を直してくれるような、とは、賢明なダンディ・ギャギィは言わなかった。代わりに、そうしたら、ずっと一緒にいられるかもしれない、と笑ってみた。