Right.
明日に見えるは闇ばかり
さういつて尻尾を巻いたと云うのに
わたくしは囚われてしまつたのです
それはヒカリの檻でした
それはヒカリの澱でした
四方八方から睨まれて
身動き一つできないのです
言葉ばかりは優しいのです
未だ終わつていないでせう
そればかりが響くのです
それでいて
嗚呼 それでいて
生まれたての嬰児にするやうに
微笑みさえも交えながら
ヒカリはわたくしを見透かして
今日を昨日をその前を
知つた顔で云うのです
未だ終わつていないでせうと
わたくしの顔で云うのです
前を後ろを右を左を
上を下を内を外を
万華鏡のやうにきらきらと
わたくしがめぐっているのです
なんて絶望的な視界でせう
びいどろ硝子を覗いたように
幾重にわたくしがゐるのです
その喧しいことと云つたら!
ヒカリの澱はよどむばかり
ヒカリの檻は歪むばかり
昨日のお道化もそのまた前も
悔ひた事実も嫌つたものも
このささやかな憐憫でさえ
すべてが露わにされてしまつて
どうして生きていけるでせう
どうして息ができるでせう
それだというのに
嗚呼
わたくしは息を止めないのです
はじめてしまつた以上
続けてゐくしかないのです
檻の向かうのわたくしに
そつと手を伸ばしてみました
澱の内のわたくしは
そつと手を縮めました
奇異なことはなにひとつ
ここにはなかつたのです
ただヒカリがあるだけで
ただヒカリがあるだけで!
未だ終わつていないでせう
ヒカリはやはり云うのです
わたくしの外で云うのです
闇一つない澱のなか
逃げ場のひとつも呉れないのです
残酷なまでに優しいかいなで
わたくしを放して呉れないのです
嗚呼なんてことでせう
わたくしはヒカリなど要らないといふのに
檻のなかに居るのです
澱のなかにいるのです
それはまるで万華鏡のやうに
それはまるで万華鏡のやうに!
わたくしの外に在るのです
ですからわたくしは諦めました
だつてヒカリが云うのですから
未だ終わつていないでせう と
さういつて放さないのですから
ですからわたくしも諦めました
明日はおそらく明るいのでせう
暗いのはわたくしの内だけで
明日はヒカリにあふれるのでせう
わたくしから闇があふれても
ですからわたくしも諦めました
わたくしはもう 諦めました
ヒカリは確かに在るのですから
わたくしの外に在るのですから