Lily Doly,
リリィ・ドリィが住んでいるのは、小さな白い家だ。
海に浮かぶ小さな島のまんなかにちょこんと建っている。
白い家のほかには草原しかない島だ。
ドリィはいつも、草原のはしっこに座って、海と空を見ていた。
小さな家の小さなベッドに座って、小さな窓から眺めるより、その方がずっと楽しかった。
さびしい時、ドリィはいつも眼を閉じる。
たゆたう波音は、ドリィを見知らぬ場所に誘ってくれた。
水底の砂場、天空の花園、それからドキドキするような木の迷路。
眼を閉じるだけのこの遊びが、ドリィはとても好きだった。
おだやかに、過ぎたことすら気づかせないような足取りの時が流れて、ドリィの髪は肩をこえた。
海が荒れることもなく、草が枯れることもなく。
変わらずにそこにある世界に、退屈ながらもドリィは満足していた。
そんなある夜。
珍しく、空に満月がかかっていて、ドリィはわくわくしながら海をみつめた。
何か、特別なことが起きる予感がした。
そうして、昇りきった満月の下で、海が静かに割れたのだった。
はじめて見る水底は、なんだか光輝いていた。
おそるおそるおろした足元で、シャラン、シャラン、と音がする。
眼を閉じて聞いてみれば、それはドリィを呼ぶ声だった。
眼を閉じたまま、ドリィは歩いた。
白い家と緑の島が霞んで消えたことも知らないまま、ただただ真っ直ぐ。
そうして、次にドリィが眼を開けたとき、そこには世界がまっていた。