Life.
「ちゃんと生きたこともないのに、生きる意味なんて分かるわけないじゃない」
目がさめる瞬間に聴こえたのは、そんな言葉だった。
テレビつけっぱなしだっけ。
心の中で首をかしげたわたしの耳に、もうすこし低い声が届く。
「手厳しいね、シィナは」
かすかな苦笑とともに紡がれた青年の声に、聴いてはいけないものを盗み聞きしてしまっているような後ろめたさを覚えて、わたしはとりあえず目を開けた。
それから。
まっしろな視界に、びっくりしてとび起きた。
「さてさて、如何したものかな」
ここはどこなんだろう、とか思う間もなく響いた声は、さっきの声よりはずいぶんと歳をとった……たとえばおじいさんが話すときのような調子をにじませている。
そのやわらかさにちょっとだけ安心して、すごくがっかりした。
まだ、終わらなかったんだなぁ、となんとなく思う。
それから、何が終わらなかったのかが分からなくて、今度はほんとうに、自分の首をかしげた。
「K? 何だって言うのよ」
その間にも、会話は続いているらしかった。
どこから聞こえるんだろう、と見回してみても、人の姿は見えない。
気づいたことといえば、見渡す限り真っ白だと思っていた空間のそこかしこに、本の山がタケノコのように高く高く積み上げられていることくらいだ。
どうやら眼鏡をかけわすれてしまっているらしいわたしの目では、タイトルを読み取ることすらできそうになかったけれど。
「見えぬのか?あの姿が。聴こえぬか?あの息遣いが」
「だから、何」
ざわめきのようなものが少しづつ大きくなるのを感じて、わたしは息を殺した。
いったいどこから聞こえるんだろう。
というか、ここはどこだろう。
「まって!何か聴こえる!!」
静まりこんだ空間に、一際高い声が響いた。
「・・・下だ」
低い、初めて聞く声が言った。
「あぁ。今、吐息が響いた」
「然様。時の刻み手じゃ」
どこからともなくあがった声が次々に言葉を続ける。意味が全くと言っていいほど分からなかった。耳を澄ましてみても、吐息なんか聞こえない。
「そこに、いるのかしら」
「ここに、いるのか」
「そうじゃ、ここにおる」
誰が、いると言うのだろう。だって、誰もいないのに。
「紅き流れを秘めしもの」
「すべてのはじまりと終わりをもつ」
「穏やかで激しく」
「健やかに病みゆく」
「輝きくすむ」
「あのいのちが」
視線を感じた体が、勝手に竦んだ。其の瞬間には、もう気づいていた。
視線も、声も。目の前に広がる本が発したものなのだということに。