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イノシチ【2009年発行版】  作者: 宮本小鳩
9/9

物語の後のお話

 こうして、似顔絵描きの青年・イノシチは、一躍時の人となりました。

 彼の望むと望まざるにかかわらず、彼を取り巻く世界は、こうして鮮やかに変わっていったのです。

 彼が“イノシシじゃありません”カミングアウトをしたことにより、イモガラ島の住民からは大きな反響がありました。実は私もそうなんです、とテレビ番組で告白する芸能人が現れたり、今やイノシチのトレードマークとなった、着ぐるみの皮が爆発的にヒットし、それを着て“コスプレ”をするイノシシたちが出てきたり…

 おかげでイノシチも、ちょっとだけ自分のありのままを認められるようになったみたいです。

 ただひとつ、今もまだ悩んでいることは、お風呂に入る時いまだにイノシシの皮を脱ぐのが恥ずかしい、ということだそうです。


 他の仲間たちについてもお話ししたいと思います。

 ご存知イノシチの親友シシゾーは、相変わらず勤務先では怒られてばかりですが、例のキノコの発見に協力したということで一目置かれるようになりました。そしてウリ山博士にはたいそう気に入られて、今も時々博士の研究所でお手伝いをしています。

 ウリ山博士は、姪のうり子とシシゾーをひそかに引き合わせたいと画策しているようですが、シシゾーはああ見えて意外と奥手なところもあり、一方のうり子はあまり関心がない様子なので、なかなか前途多難のようです。

 ワール=ボイドは、ほぼ半年ぶりくらいに故郷のワイル島へ帰り、当然のことながら、両親である王と王妃にこっぴどくお叱りを受けました。けれども奔放な彼女のこと、そのうちまたこっそり脱走するかもしれません。なぜならば、お隣の島に新しい友達がたくさんできたからです !

 街のおまわりさん、イノガタ夫妻のところには、待望の赤ちゃんができました。日に日に大きくなっていく奥さんのお腹を見ながら、「シシヤマみたいな体になっていくなぁ」とからかうイノガタに、奥さんは笑いながら「いやだわあなた、あそこまで大きいなりじゃありませんよ」と明るく切り返すのでした。

 そんなことを言われているとも知らないシシヤマは、賢者ブームのおかげですっかり売れっ子コメンテーターになり、大忙しの日々を送っています。基本的にはフリーライターですが、最近の肩書はもっぱら「賢者評論家」というわけのわからないものが多いようです。


 そうそう、一つ忘れていました。イノシチがずっと気にかけていた未払いの似顔絵代のことです。

 本当のことを言うと、実はいまだに支払われていません。

 イノシチ本人が、そのことをすっかり忘れてしまったわけではありません。むしろしっかりと覚え続けています。

 持ち前の気の弱さに加えて、ワール=ボイドが故郷へ帰ってしまったために、単純に言い出す機会を失っているだけなのです。

 でもまあそれはまた、別の機会にということで。





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