第一章 ひそかな疑問
イモガラ島北部、キノコ町のメイン・ストリート。ここが僕の、もう一つの仕事場。
僕はイノシチ。普段は町外れの居酒屋でバイトをしてるんだ。仕事のない時間や、休みの日には、路上で道行く人の似顔絵を描いて暮らしてる。休みの日でにぎわう時は、僕の周りにお客さんたちの小さな群れができるし、平日なんかは何時間もヒマを持て余すこともしょっちゅうだ。だから生活は、そこそこ。
それでもお客さんの何人かは顔馴染みになって、よく遊びに来てくれるのが、ひそかに楽しみなんだ。
ある日のこと。
「イノシチさ〜ん ! こんにちは」
明るい声にふっと顔を上げると、そこには僕の常連、“お客さん第一号”の女の子が立っていた。名前はカリンちゃん。以前からひそかに僕の好みのタイプだ。
「あっ、カリンちゃん ! や、やあ、元気 ?」
あわてて僕は笑顔で応対した、んだけど…よく見ると、彼女の隣にはいかにもチャラチャラした感じのイケメンが。え、まさか…と思っていると、
「あ、まだ紹介してなかったわよね、こちらが私の彼氏よ。私たち最近付き合い始めたの」
ガーン。
「それでね、もしよかったら、ツーショットで一枚似顔絵描いてほしいんだけど」
「…えっ、あ、ああ、はい…じゃあ、どうぞここへ座ってください」
…トホホ。顔で笑って、心で泣いて。
顔を描くために二人と向かい合っていると、カリンちゃんが笑いかけてきた。
「うふふ、イノシチさんって、やっぱりすごく色白なんですね。お肌もツルツルしてるし、いいなぁ」
「えっ、そうかな ?」
ちょっとだけ僕が気を良くし始めていたところへ、今度はイケメン彼氏が言った。
「本当だ、君まるでイノシシじゃないみたいだよね !」
イノシシジャ ナイミタイ ダヨネ ?
僕がイノシシじゃないですと ? ? ?
その日の夜、ダブルにショックを受けた僕は、打ちひしがれながら風呂に入り、そのあと鏡の前に立った。
自分では見慣れたつもりの、変わり映えしない顔だって思ってたんだけど…
どこが一体変なのだろう ?
思えばこれが、僕が自分という存在に疑問を持ち始めたキッカケだったんだ。




