記憶(3)
「あと10分くらいしたら行くから、いつものコンビニでね。」
「了解しました。すぐ準備して向かいます。」
18時19分か。歩いて5分くらいだから少し急いだ方がいいかもなぁ。そう考えて読みかけの漫画を閉じた。開きっぱなしのトランクの中から薄手のコートを取り出し、何も考えずに羽織った。左ポケットをおもむろに叩くと違和感を覚えた。
「あれ、どこだっけ。」
独り言を言いながら部屋を見渡すとさっきまで自分がいた場所に落ちていた。いつのまに落としたんだろうかと少しヒビの入った画面を見ながら考えたが、時間がなかったことを思い出し左ポケットに突っ込んだ。右ポケットに財布があることを確認して玄関のドアを開けた。5月にしては冷えるなと感じながら家の鍵を閉め、早足で歩きだした。
1月末。珍しく一瀬さんの方から誘いがきた。いつもは僕からご飯行きましょうと誘うのに。待ち合わせ場所のコンビニに5分前に着くとやることもないのですでに読んだ漫画雑誌を立ち読みする。二度目なので目が滑るのを感じた。左ポケットから大音量で音が鳴り、マナーモードにし忘れていたことに気づく。周りの目が冷めてて急いで外に出てスマホを確認すると「着いた」と3文字だけ書かれていた。助手席に乗り込むと
「お待たせー!」
と半笑いで言われた。すでに暗くなった景色を見ながら
「今日めっちゃ寒いっすね!」
とたわいもないことを口にする。続けて
「どこ行きましょうか?」
と言うと、少し考えて
「いつものとこでいんじゃない?」
と笑いながら言ってきた。僕は頷くと同時に車が発進し始めた。一瀬さんといつも行く回転寿司店は小食な僕と割と大食いな一瀬さんが行ける店の数少ない選択肢の一つだった。車を走らせて20分ほどで目的地に着き、5分ほど待って席に案内された。とりあえず2皿ずつ頼むと
「有給全部使い切った?」
一瀬さんが突然口を開いた。
「今年はもう使い切りましたよ。仮免一回落ちたのでその分でちょうどですね。」
笑いながらそう言うと、一瀬さんは
「あー、マジか。やばいねー。」
何がやばいんだろうかと思い
「何かやばいですか。」
と聞いてみた。一瀬さんのどこか神妙なような半笑いのような表情が読めなくて困惑した。