全部、ダンジョンマスターが悪い。
ダメだった。
意志は強い方だと思っていた。
しかし、それを上回る欲求に負けた。
目の前の、空になったジョッキグラス。
微かに残る泡の後を見ると、もぞもぞとあの欲求が鎌首をもたげる。
あの不思議な細工が施された缶は、情報秘匿のために回収する、と代わりに渡されたのが、あのジョッキグラスだ。
歪みなく、片寄りなく、真っ直ぐそびえ立ち、取っ手は頑強。
それでいてガラスの儚さは残している。
かなりの芸術品だと、そっち方面に疎い俺でも判る。
ゴクリ。
思い出して、思わず喉が鳴ってしまった。
ダメだ。
もう、俺は、呪いにかかってしまった。
今まで飲んでいたエールが、しばらく飲めないだろう。
いや、下手に飲めば、あの至福ともいえる余韻が霞んでしまう。
気付けば、あのしたたかなダンジョンマスターの提案を受け入れてしまっていた。
言われるがままに、鉱脈の要望リストを作成し、所属する冒険者のリスト(名前は匿名を死守した)を作成し、その他、諸々の情報を流してしまった。
完膚なきまでにやられてしまった。
なんだ、あの煽りは!
ごちそうさまが聞こえない?だと!?
知るか、そんなの!
カッコいいとこ見てみたい!だと!?
見せてやるわ!見てろ!
ちょい残し?
ほんの1滴2滴を、お残しって、悪魔か!?
まんまと乗せられ、俺は飲んだ。
これでもかって位、飲んだ。
多分、人生初めて、とも言っていい程、飲んだ。
気がついた時には、あのダンジョンマスターもユーキも居なかった。
机には、解毒のスクロールと、羊皮紙が一枚残されていた。
『頭痛かったら、使ってね。7日後にまた伺うね。
同じマスター同士、仲良くしましょ♪
ダンジョンマスターより』
ズキズキと痛む頭を抱え、ダンジョンとの繋がりの証拠は、早々にデスクの奥へ隠す。
スクロールは何かの為に取っておく。
ていうか、スクロールなんて貴重品を使えるわけないじゃないか!
この頭痛は、罰だ。
あの黄金に輝く、魔性の、俺を狂わしてやまない、アレに負けた、俺への罰だ。
潔く受け入れ、職務を全うするのが、贖罪なのだ。
俺は、衣服の乱れを直し、襟元を正し、職員連絡用の呼び鈴を鳴らす。
程なくして現れた職員に、日が高い内から飲んでるんじゃない、とお叱りを受けた。
執務室のドアには、『酔っぱらい在中』と札をかけられ、打ち合わせにきた大臣(悪友)に指差されて笑われた。
ちくしょう。