7.洞窟
スライムたちはもう少しあそこに残るそうで、いくつか教えられた場所を俺とイムちゃんだけで巡っていく。言葉だけではなく、イメージを伝えてもらったことで、難なくそれぞれの場所を探し当てることができた。あまり多く採りすぎないように、それぞれの群生地から慎重に採取していく。しばらく作業を続けると、いつの間にか随分と時間が過ぎていた。
次で最後にしようか、イムちゃん。
『次で最後?イム、まだまだ元気だよ?』
それは心強い。けれど、あまりぼやぼやしていると日が暮れてしまう。勝手知ったる安全な山とはいえ、夜になっては何かと危険だ。
『ふーん、確かにあるじ様の言う通りだね!!でも危なくなったらイムがあるじ様を守るよ!!』
イムちゃんはそんな風に言いながら、俺を先導してくれる。本当にいい子だ。しばらくイムちゃんについて歩くと、小さな洞窟にたどり着いた。
『ここだね、さっきあのスライムたちが言っていたのは!!奥が広場になってるらしいけど……』
教えてもらったイメージでは、この洞窟でしか外界と繋がっていない、ピンリノクサの生い茂る幻想的な空間が広がっていた。はたしてその通りになっているのか、荷物から明かりを取り出し、俺とイムちゃんはどきどきしながら洞窟の中に進む。随分と大きな洞窟で、俺やイムちゃんは余裕で中を動くことができた。コウモリのような動物がいるが、魔物はどうやらいないらしい。ひんやりとした洞窟の中をしばらく進むと、やがて光が見えてきた。
俺とイムちゃんは少し急ぎ気味になる。暗い洞窟を早く抜けたいという思いと、あの空間を見てみたいと思いが、俺たちをせかす。そして、遂に俺たちは洞窟を抜けきり、その先には、イメージで教えられたとおり、数えきれないほどのピンリノクサが生い茂っていて、さらには――
熊がいた。
ただの熊ではない。体の長さは俺三人分ほど、基本的に二足歩行を行い、性格は獰猛でしばしば人を襲うこともあるという魔物――マノクマ!!
――勝手知ったる安全な山とは、いったいなんだったのか。今更自問しても仕方ないのであるが。
「あ、……あ、……」
俺は声にならない声を出す。なんでマノクマがこんなところに。せめてイムちゃんだけでも逃がさないと、どうやったら気を逸らすことができるだろう、などなどすべて混ざってパニック状態になり、腰を抜かして動くこともできない――と、その時、
『あるじ様、逃げて!!イムが守る!!』
なんとイムちゃんが俺を守るかのように前に出た。何を言うんだ!イムちゃんこそ逃げるんだ!!
『だめ!!あるじ様、逃げて!!』
などと、俺とイムちゃんが言いあっている最中、マノクマがぎょろり、とこちらに視線を向けた。巨大な瞳から出る刺すような眼光に、俺もイムちゃんも金縛りにあったかのように動けない。そして、次の瞬間、
『うああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!なんで人間がいるんだよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!!!!!!』
もう一つの思念が、俺の思考の中に入ってきた。
心底怯えきったようなその声は――目の前のマノクマから出ているものに違いなく、俺とイムちゃんはかばいあうのも忘れて、ぽかんとマノクマのことを見ていたのだった。