5.山へ
えっちらおっちら、草が少し生えた山道を俺は歩く。
首の後ろに乗るイムちゃんが、俺に対して心配そうに聞いてくる。
『ねーねー、あるじ様―。いつも気になってたんだけど、あるじ様、イムのこと重くない?』
重くないよー
『そうなんだ、よかったー、えへへ』
なんだこの可愛らしさは。意思疎通ができるようになってイムちゃんの可愛さが倍増しているような気がした。
今の俺はイムちゃんを首の後ろに乗せて、近くの山まで来ている。ここいらは人里にも近く、めったなことでは危険な魔物が現れることはない。せいぜいが、イムちゃんみたいな無害な魔物くらいなので、俺はここで出会った魔物に、自分のスキルを試してみようかと考えてた。ただし、ここに来るまで、今のところ一匹たりとも魔物とは出会っていない。動物は何匹か遭遇したのだが、魔物とは扱いが異なるらしく、意思疎通できることはなかった。大した高さの山であるわけでもなく、イムちゃんと一緒にあっという間に中腹まで俺は辿り着く。鬱蒼と木々が生い茂る中、ここまで細い道を辿ってきたが、ようやく開けた場所に辿り着いた。
木々のカーテンを抜けると、ぽかぽかと暖かい日の光が降り注ぐなだらかな斜面が広がっている。何らかの理由で生えていた木が切り倒された場所らしく、今は背の低い草しか茂っていなかった。ちょうどいい大きさの切り株を見つけた俺はそこに腰掛ける。イムちゃんは俺の横にぴょこんと降りた。そして、さながら小首をかしげるかのように、少し体を揺すって俺に聞いてくる。
『ねーねーあるじ様、これからどうするー?あるじ様のご飯見つけるの、お手伝いしようかー?』
優しいなあイムちゃんは。そうだねえ、それもいいかもしれないけど、やっぱり俺にはずっと山に籠って過ごすのは大変な気がするなぁ。だから、この辺りに住む魔物に、薬草の生えている場所なんかを教えてもらえないかと思ってるんだ。
『やくそう?』
そう、薬草である。高熱に効くヒノシや鎮痛作用のあるピンリノクサは、希少価値が高く常時誰かが求めている。俺はそれらの草が生えている場所を、魔物に教えてもらうことができないかと考えていた。タイヨウソウ……は、さすがに珍しすぎて無理だろうが。
『ふぅん……ねーねー、ヒノシやピンリノクサって、どんな草?』
どんなって、言われても、ヒノシは少し赤い線が入っていて、ちょっと苦みがある雑草みたいな草で、ピンリノクサは割と背が高めの、独特の刺激臭がある草で、両方ともわりとまとまって生えてるから、見つかるときは見つかるんだけど、なかなかそう簡単にはいかないような草で、ちなみにタイヨウソウは、鮮やかな真っ黄色の花を咲かせる草で、万薬の長になれるとも……って、こんな風にいちいち、言葉で説明しなくてもいいのか。俺はできるだけ鮮明にヒノシやピンリノクサ、タイヨウソウの姿を思い出すと、それはイムちゃんにもそのままイメージとして伝わった。このスキル、本当に便利である。イムちゃんは俺から薬草のイメージを受け取ると、ぴょこぴょこと跳ねた。
『あるじ様!!最後のやつ以外だったら見つけられるかもしれないよ!!』
本当!?
イムちゃんの思念に、俺は思わず飛び上がりそうになるほど喜んでしまう。今までは苦労に苦労を重ねて見つけてきた薬草たちが、イムちゃんのニュアンス的にはかなり容易く発見できそうなのだ。
『あるじ様、ついてきて!!』
イムちゃんは切り株から地面に飛び降りて、うにゅうにゅと動き出す。俺はその後をついて行った。