4.スキル獲得
『告知。冒険者ポルクは、スキル“疎通”を獲得しました。任意の魔物と、意思の疎通が行えるようになります』
中性的な声が、耳ではなく頭の中に直接響く。前提知識がなかったら、いよいよ頭がおかしくなってしまったと思うかもしれない。しかし、俺はこの現象について知っていた。いや、俺だけではなく、“スキル持ち”と話したことがある人間ならば、たいていは知っているだろうそれは――スキル獲得音声。
神の声とも、天使の声とも、世界を支配する歯車の声とも言われているその声は、人がスキルを獲得したときに脳の中に響く。
スキルとは、特殊技能のことだ。普通の技術のように、日々の鍛錬で徐々に上達するのではなく、ある日ある時ある瞬間の、“スキル獲得”によって一気にそれまでなかったものが花開く特殊技能。神の奇跡とも称されるそれは、人々に魔物と戦う力を与え、日々の生活を豊かにする技を与えていた。
――って、今はそんなことはどうでもいい。大事なことは、さっき告げられたスキルの内容だ。任意の魔物と、意思の疎通が行えるようになるだって!?
――イムちゃん、俺の考えていることがわかるか?
『わわっ!あるじ様の考えてることがわかるよ!!』
イムちゃんはびっくりしたようにぴょんぴょんと跳ねた。お、俺もイムちゃんの考えていることがわかる!!
『嬉しい!嬉しいねぇあるじ様!!』
うん、嬉しいよイムちゃん!!
俺は両手でイムちゃんをつかむと、ぶんぶんと上下した。イムちゃんもそのリズムに乗ってぴょこぴょこと跳ねる。その間もイムちゃんと意思疎通ができる。しかも、言葉を使って会話している感触ではなく、直接脳内の概念がやり取りされているような感覚だ!なんだこれ!?なんだかわからないが、脳でやり取りを行っているおかげで、口下手の弊害が起こっていない!
すごいスキルを身に着けた!!これでもっとイムちゃんと仲良くなることができる!!やったぜ――と思ったところで、俺はもはやそれが手遅れであることを思い出した。
今や手持ちの財産はほぼなし。もはや路頭に迷うのも時間の問題であり、イムちゃんを巻き添えにしないためにも、お別れしないといけないところだったのだ。ああ、せっかくこのスキルに目覚めたのに……
そういう思いもまた、イムちゃんにダイレクトに伝わり、イムちゃんは嫌がるようにぷるぷると体を左右に動かした。
『やだ!!やだよ!イム、あるじ様とお別れしたくない!!』
嬉しいことを言ってくれるぜイムちゃん。だけど、俺は口下手な上に、何も取り柄がなくてこのままじゃあ文無しなんだ。そんな俺に付き合わせることはできない。
『あるじ様!まだ諦めちゃだめだよ!!せっかく新しいスキルに目覚めたんでしょう!?だったら、そのスキルでどこまで頑張れるか、試してみようよ!!』
た、試すったって……
『山に行くんだったら、イムだけじゃなくてあるじ様も一緒に行くの!!それで、スキルを使って魔物たちとお友達になればいいんだよ!!そしたらきっと、ご飯も分けてもらえるよ!もしだめでも、イムがあるじ様のご飯見つけるお手伝いするから大丈夫!!』
イムちゃんはそうやって必死に、俺に諦めるなと訴えかけてくる。まさかそこまでイムちゃんに慕われているとは思っていなくて、俺は不覚にも目頭が熱くなった。
そうだな、世の中には、スキルを身に着けて一発逆転に成功した人だってたくさんいる。俺が自分のスキルでそれをできるかどうかは分からないが、そもそも俺はたった今、スキルを獲得したばかりなのだ。自分がどれだけできるかだって全く分からない。どうせ一度は諦めた身の上なのだから、せめて一度自分の力で何ができるのか、試してみたっていいだろう。
『そうだよあるじ様!そうこなくっちゃ!!』
イムちゃんも嬉しそうにぴょんぴょん跳ねる、それを見ただけで、俺はなんだか気分が軽くなった。