21.チェタとベアル
「ふっふふふーん、ふふふっふー」
マノクマとも会えると聞いて、上機嫌で鼻歌まで歌いながら、チェタは俺の隣を歩く。
「領主様のところ、マノクマもいるんですよねー会えるの楽しみだなー」
心底楽しみな様子のチェタの言葉に、俺は黙って首を縦に振る。会話が続かないことに、拍子抜けしたような顔を見せるチェタだったが、やがておずおずと一つの質問をしてきた。
「……さっきから思ってたんですけど、――間違ってたらすみません――、領主様、もしかして口下手?」
チェタの質問に、やっぱり俺は黙って首を縦に振る。
「そーなんですね!まあ、うちはやるべき指示さえいただければテキパキ働きますんで!」
魔物関係の仕事だとは理解してもらってるので、チェタのモチベーションはすごく高い。それは非常にありがたいのだが、果たして、指示を俺は出せるのだろうか……領地内でのトラブルとかだもんな……いろいろな状況が考えられるぞ……
『あるじ様、魔物とは意思疎通できるんだから、人間とも会話できるようになったら最強の通訳なのにね……』
そうなんだよな……
『きっと、世界中からいろんな人があるじ様に通訳のお願いに来るよ!!喋るのがだめなら、文字?だっけ、あれを頑張ったら?』
うん、頑張る……
俺は屋敷で働いている書記官の一人から、読み書きを習い始めた。これまでいたパーティには読み書きができる者もほとんどおらず、たまにいたとしても教え方がうまくなかったり忙しかったりで、パーティ内で教えあう余裕はなかったのだ。俺もこんな口下手だから、空いた時間になんとか勉強しようと思ったのだが、小さいころから学校に通うか、家庭教師を雇える貴族の子供ならいざ知らず、先生もいないし教材にできるようなものもほとんどなく、更になんやかんや雑用で忙しい中で、文字を勉強するのは不可能に近かったのだ。
だいたい、スペルってのは本当に難しいと思う。発音と必ず一対一に対応した文字があるわけでもないし……いや、だめだ、泣き言を言っても始まらない。今の書記官は教え方もうまいし、屋敷には本もある。もっと頭の柔らかい小さいころからできなかったのは残念だが、今からでも勉強したら読み書きができるようになるだろう。そうなれば、人間とも意思疎通ができるようになる。
そんなことを考えながら、俺はチェタを連れて屋敷に帰ってきた。使用人の人たちにも紹介しないといけないが、まず第一はやはり友達だろう。
おーい、ベアル、帰ったぞー。
『ああ~ 何も心配しないで寝てられる~ 幸せ~』
コの字型になっている屋敷の中庭で、ベアルはごろごろと惰眠をむさぼっていた。あれほどの巨体であるにも関わらず、可愛らしく見えるほどのだらけっぷりである。
おおい、ベアル、起きろー
『ふぇ?ああ、ポルク、帰ってたんだ――うへぇっ?』
突然タックルするかのようにチェタに抱き着かれ、ベアルは目を白黒させた。一方のチェタは、目をキラキラさせて興奮している。
「すごい!本当にマノクマ!もふもふしてる!!マノクマの毛めっちゃ気持ちいい!!体もやっぱめっちゃ大きいし!!」
『えっと……ポルク……何が起こってるの……?』
困惑しているベアルだったが、飛びついてきたチェタを邪険に扱うことはせず、なすがままに任せていた。
ベアル、その子はチェタ。これから、屋敷の仕事を手伝ってもらうことになったから、よろしく頼む。魔物が好きなんだってさ。迷惑なら、離れさせるけど?
『う、ううん……人間って、いつも僕を見ると怖がるか逃げ出すかだったから、ちょっと慣れないけど……僕は別に気にしないよ』
そう言いながらチェタに抱き着かれるベアルの目は、なんだかとても嬉しそうだった。




