11.作戦会議(上)
『あるじ様―イム、お腹いっぱい~』
ああ、俺もだよイムちゃん。腹がパンパンだ。
ベアルが十匹食べてもけろっとしている魚だが、俺とイムちゃんにとっては分け合ってもかなりの量になった。満腹で動けないから、ごろりと地面に寝っ転がる。草がくすぐったく、思わず頬がにやけてしまった。日差しもぽかぽかとあったかくて気持ちいい。
このまま寝てしまいたくなるが、これからのことを色々考えなくては。一番の重要事項は、やはりベアルのことである。
ベアルの安全を確保したいのだが、いったいどうすればいいだろうか?
ベアルと一緒に街に出て、慌てふためく人々の前で堂々と、
「はぁいそこのみなさん、どうか落ち着いて聞いてくださいね!このマノクマ、一見とても凶暴そうに見えますが、実は人間を襲わない、とてもいい奴なんです!なんで分かるかって?実は私、魔物と喋るスキルを持ってるんですよ~」
――無理だ。
「はぁい」まですら言えない。「は」で止まる。賭けてもいい。そんな風に喋って周囲を説得する力があれば、俺は今苦労をしていない。
どうしようか。俺は頭を抱えてぐるぐると転がる。しかし、何もいいアイデアが出てこない。気が付けば、ベアルが俺のことを心配そうに見ていた。
『やっぱり、僕は人間に受け入れてもらえないのかな……』
ベアルの考えていることだけでなく、心配、不安といった気持ちそのものがスキルの力により、俺の中に伝わってくる。俺は胸が苦しくなった。
まだ考え始めたばっかりだ!諦めずに色々な方法を模索してみようぜ!!
『うん、そうだね……ありがとう、ポルク』
――しばらくして。
じゃあ、悪漢に襲われている人を、ベアルが助けるっていう筋書きならどうだ?
『あるじ様~それじゃあ、駆け付けた騎士団に悪漢ごとベアルも殺されちゃう未来が見えるよ……』
な、ならベアルがここ掘れガウガウって言うと、金銀財宝が出てきて……
『そんなのが埋まってる場所、僕知らないよ!!』
『あるじ様……いくらなんでも、それはないかなぁ……』
うーん……
俺たちは知恵を絞るが、なかなかベアルを受け入れてもらえるような案が出てこない。気づけば結構な時間が経っていた。
あまり同じ場所で議論していてもいいアイデアは出ない気がする。気分転換に場所を変えないか?
『いいけど、人間が襲って来ない?』
いや、どちらかというと山の奥の方に行こう。ベアルがいるなら、そんなに大変な脅威はないだろう。ベアルを追い出したというマノクマの群れが出たら……まあ、ベアル、なんとかしてくれ。俺が人間からベアルを守るよりは、ベアルがマノクマから俺たちを守る方が成功しそうだ。
『それじゃ困るんだけど……』
そう言いながらも、ベアルはゆっくりと立ち上がる。やはりそうやって見ると、本当に巨大な魔物だなあと思った。
ベアルの不満はもっともだが、それを打開するためのアイデア探しなのである。もしもの時は頑張ってもらうとして、俺たちは移動の準備を始めた。
『あるじ様―、どの山の方に行くの?』
うーん、そうだな……
せっかくベアルという強力な助っ人を得たことだし、俺のスキルを活用するためにも、もう少し魔物の多い山に行くのはどうだろうか。なぁベアル、マノクマの群れがあまり通らないようなところで、他の――もう少し平和的な――魔物が多いところ、心当たりあるかい?
『あるけど……マノクマの群れが通らないったって、絶対はないからね?』




