10.ピクニック
翌日。朝早くから俺は昨日の山に向かう。まさか一日であの洞窟が発見されることもないと思うが。ベアルのことがやはり気になった。せっかく俺たちの仲間になってくれたのに、もしも人間に討伐されるようなことがあれば、悔やんでも悔やみきれない。
『あ、ポルクだ。おーい!』
果たして、俺の心配は杞憂に終わり、ベアルは元気に待っていた。ご飯は食べたのか?
『半日くらいなら食べなくても大丈夫だよ!洞窟の外で人間に襲われるのが怖かったから、ずっとここで待ってたんだ』
そうか、じゃあまずは腹ごしらえをしないとな。
俺たちは連れ立って洞窟を出る。近くの小川に向かうと、腹をすかせたベアルはさっそく、川魚を狩っていった。
『いつもは人間に見つかるかもしれないって思って不安だったけど、今日はポルクがいるから、力いっぱい狩りができるよ!』
あんまり期待しないでくれよ、俺は口下手なんだ。まあ、俺が傍にいれば、ベアルが危険な魔物と間違われることはないとは思うけど……
そうこうしているうちに、ベアルは活きのいい魚を十匹ほど、両腕に抱えて戻ってきた。狩人としても優秀らしい。敵じゃなくてよかったぜ。
『はい、一匹おすそ分け』
ベアルがひょいっと投げてくれた魚は、一匹だけでも十分大きかった。ベアルはそのままがつがつと食べだすが、俺はそういうわけにもいかない。焚火を焚いて、昼ごはんとして焼くことにした。
これでも冒険者として最低限のことは出来るので、調理に取り掛かる。あたりに散らばっている木切れを集めるのは、イムちゃんが手伝ってくれた。
『あるじ様!この魚、これから食べるの?』
そうだよーイムちゃんにも分けてあげるからねー
『わぁい!!イム、焼き魚大好き!!』
そういえば、いつも俺の食事の残りを食べさせてるけど、何か嫌いなものとかある?
『ないよー?あるじ様がくれる食べ物、全部おいしーから!』
それならよかった。
さて、イムちゃんに焚火の準備を手伝ってもらいながら、俺はベアルから分けてもらった魚を調理する。川魚は寄生虫の心配があるので、料理のときには気をつけなければならない。串に刺してじっくりと焼き、ときおり火がしっかりと通っているか確かめながら、十分に加熱されるのを待った。香ばしい匂いが漂ってきて、思わず腹がぐうと鳴る。
『人間は面倒なことをするねー』
既にベアルは自分の分を食べ終えていた。そんなこと言って、お前も焼き魚を食べたら気に入るんじゃないのか?
『前に、僕の姿を見てびっくりして逃げて行った人間が、お弁当を忘れて行ったんだ。焼き魚の。もったいないからもらっちゃったけど、別になんとも思わなかったなあ』
そうなのか、どうやら味覚が違うのかもしれないな。
『あるじ様―もうよさそうだよ?食べようよー』
イムちゃんがぷるぷるの体でつんつん、と俺をつつく。確かに、魚はもう十分に火が通っているようだった。
ようし、それではいただくとするか!
がぶり、と噛みつくと、しっかり火が通った魚の旨味が、口の中に広がる。一緒に食べるイムちゃんも、美味しそうに俺が切り分けた魚をぬるりと飲み込んだ。最初はイムちゃんの体内に透けて見えた切り身は、やがて小さな泡を立てつつ溶けて消えていく。イムちゃんのいつもの消化姿である。
『美味しいねーあるじ様』
ああ、美味しいねぇ。
『なんだか見てるとお腹が空いてきたな……もう一匹取ってくる!』
そう言うが早いが、ベアルは川に向かい、あっという間に一匹仕留めてきた。その場でほおばる。
『いつもより美味しい気がする……なんでだろう……』
誰かと一緒に食べると美味しいって言うよな。そういうことじゃないだろうか。
そのまま俺たちは、しばらくのどかな昼食を楽しんだ。




