1.パーティ追放
「今日という今日ははっきり言わせてもらうわ、仲間とろくに協調することもなく、一人でスライム育ててニタニタ笑っているような奴は、私たちに必要ないの。ポルク、あんたももう十六歳。親父さんとお袋さんへの義理も、あんたをここまで育てたことで立てたと言わせてもらうわ。今日限りであんたはこのパーティ、“山吹色の黒蜥蜴”から追放よ。荷物をまとめて、とっとと出ていきなさい」
中規模の冒険者パーティ、“山吹色の黒蜥蜴”総本部、その会議室に呼び出された俺――ポルクは、パーティリーダーである、シゼーリェにそんな言葉を言い渡された。公国でも数少ない三スキル持ちの女性リーダーは、鮮やかな茶色の髪を窓から入る朝日に煌めかせ、依頼をこなしている最中と全く同じ真剣な、凛とした表情で俺に相対しており、そこに冗談やごまかしの入る類が一切存在しないということが俺に伝わった。それに対し、俺は、ただ口をパクパクと動かし、小さく答えるのがやっとだった。
「そ、そんな……」
違う、もっと言いたいことは山ほどある。確かに討伐依頼などの荒事にはほとんど参加しなかったが、食料調達や細かな雑用などやることはやってきた。そういった俺がこれまでパーティに対して行ってきた貢献をきちんと順番に提示し、それらに見合った待遇を受けるべきでありいきなりの追放は不当であるだとか、会話が苦手なだけで決して協調性がないわけではなく、きちんとパーティの方針には従ってきたはずだとか、何をペットにしようが周囲に実害を与えない限り文句を言われる筋合いはないはずだとか、そんなことをきちんと説明しなければならないのだが、あいにくそれができない口下手だから俺は今追放の危機に直面しているのである。案の定、頭を駆け巡ったあれこれは喉を通り口から飛び出るころにはすべて言葉が混じり潰れ、
「おー、おぶおなわけない」
なんだかわからない発音になって、シゼーリェに怪訝な顔をさせるだけだった。続けて何か言えればまだましだったのだが、俺の喉は引きつってしまったかのように動かず、痺れを切らしたリーダーは元から鋭い目をより一層キッと引き絞った。
「何よ、死んだ魚みたいな目で私を睨んでないで、言いたいことがあったらさっさと言ったらどうなの?」
だから言いたいことを言えないのが俺の問題なのだが、それが問題であることを俺は確かにこれまでうまく伝えられなかったのは事実だ。そういう意味では俺に非があるとも言えるのかもしれないし、やはりそうはいってもパーティリーダーなのだから、もっとメンバーのことは理解する努力をシゼーリェにもしっかりしていてほしかったという不満も残る。二つの思いはしばし俺の頭の中で葛藤を生んだあと――結局、俺には彼女を説得することはできないだろう、という悲しい結論に落ち着いた。
「……あぁ、さよなら」
それだけしか言えない口下手に生まれた自分が悲しい。とはいえこれまで何度も治そうと努力しては結果が実らなかったその体質である。今更どうにかなるものではない。がっくりとうなだれて、俺はシゼーリェに背を向けた。
「……せいぜい、達者でなさい」
少しだけ気迫の抜けたようなシゼーリェの言葉が、俺の背中に浴びせられる。もう何か返事をする気力もなく、俺は総本部にある自室へと足を向け、リーダーは反対方向にある、談話室へと戻って行った。
「お、姐さん、遂にポルクを追い出したのか!」
「ようやっと、わかってくれたんだね」
「――そうね、順調に成長するには、時に成長を阻害する部分を切り捨てないといけないこともあるんだわ」
なんだかんだで信頼していたパーティメンバーとリーダーの言葉が後ろから聞こえ、俺は最後にもう一度落ち込んだ。