表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王おじさん50  作者: クリントン大西
--奥垣内 学と和平編--
93/93

その90 〜帰還〜

 山下正作が目を開くと、見知った天井が見えた。


 古めかしい蛍光灯。

 古ぼけた天井板。


 既に見慣れた、築三十年1DKマンションの自室。


「……まぁ、そりゃ、夢だよなぁ」


 よりによって魔王になるとは、変わった夢だった。

 しかも、無能力。


 どうせ夢なのだから、もう少しその辺、融通を利かてほしかった。妙なところで現実路線というのでは、困るだろう。平たくいえば、展開が詰まった時など。


 床で寝ていたのか。

 昨日、そんなに酔っ払ったのか。憶えがない。


 テレビ横の置き時計は、午前十時十二分。

 二〇十六年二月六日土曜日となっていた。


(もう、週末だったっけ。まぁ、無職だから関係ないけど)


 顔を洗おうと立ち上がろうとしたところで、正作は室内の異常に気づく。


「え」


 女の子が(うつむ)せになって寝ていた。

 夢の──”異世界”のままの服装。


 穴が開けられたズボンの臀部から、爬虫類のような尻尾が生えている。


「ガブリエラ、さん?」


「あ、起きました? 山下さん」


 洗面所の向こうから、少年の声がした。


「すみません、予備の歯ブラシお借りしてました。あと奥垣内(おくがいと)さん、勝手にお風呂使いだしちゃって──」


「かん、たろう君……」


 そこで正作は、自分もまた”魔王っぽい”黒ローブをまだ着ていることに気づいた。


   ***


「で、これからどうするの?」


 風呂上がりのガブリエラが、上気した面持ちで、誰とはなしに訊ねる。


 上は正作のTシャツとセーターを借り、下はだぶだぶのジャージ。ウェスト部分を無理やり上からベルトで締め、セーターの裾で隠してある。


 甘太郎もだいたい同様。奥垣内は、上も下もジャージだ。

 正作だけ──自分でもどういう心境なのか──背広姿になっている。


 この四人が、正作の自室でコタツを囲い、集っていた。

 卓上の菓子入れにあるのは、ミカン。


「俺たちが異世界に飛ばされたのは、”今”から三日前、二月三日の水曜日だった。これは皆さん、間違いありませんね?」


 と甘太郎。


「ええ。旅行の日程はちゃんと覚えてる。二月二日に日本入りして、その次の日だったから」

「確か節分やったよな」

「……た、たぶん」


 正作だけ、いやに自信なげである。


「山下さん、あの日、子供を助けたでしょ。トラックから」

「あッ──そうか。確か、甘太郎くん見てたんだよね」

「それ、わたしも見てた」

「……そ、それ、もしかして、神戸駅ちょい先の大通りの?」

「そうですね」

「すんまへん!」


 いきなり、奥垣内がコタツの天板に手をついて勢いよく頭を下げた。額が、がつんと卓上にぶつかる。


「えっ? なんですか、いきなり……」


 正作がたじろぐ。


「お、俺、そのトラック運転してたんですわ。ちょっと野暮用で、知り合いからトラック借りて……なんか、急にエアブレーキ効かんくなってもうて。”白っぽい子供”あやうく轢き殺しそうになったところを割って入ったのって、山下さんやったんですね。いやホンマ、申し訳ない!」


「いや、そんな。いいですよ。不可抗力だったんだし」


「それと、さっき(・・・)のこともですわ。いやまさか、山下さんが魔王(・・・・・・・)やったとか思いもよらんかって。こっちも殺る気満々でぶっ飛ばしてまいまして……」


「それはしょうがないよ、オクガイト。わたしとヤマシタさんは魔族で、そっちは人間側だったんだもの。こうして全部もとに戻ったんだから、細かいことは言いっこなし」


 ガブリエラは、いやにサッパリした面持ちで微笑んだ。

 まさに”悪夢”から解放された、といったような風情である。


「お二人とも、まだ(・・)”魔族”でしょう?」


 甘太郎は呪文を唱え(・・・・・)、コタツの上に光る球体を創り出した。


「うおおっ、こっちでも呪文使えるんけ? なんや、お前、これだけで食っていけるで。……そういえばガブリエラ? おたく、アメリカ人って話やけど、めっちゃ日本語うまない? バイリンガルなん?」


「……うん。こっちは『みんな、英語うまいなー』って、ずっとそんな感覚だったけど。これ(・・)も、たぶん本来は、日本語で書いてあるんでしょうね」


 ガブリエラは、手近なティッシュペーパーの箱を取り、説明書きの文面を指した。


「えっと、どういうこと? 甘太郎くん」


 正作が尋ねた。


「俺、山下さん、ガブリエラは、あちらの世界へ行く直前、何者かに襲われ、銃で撃たれた記憶があります。もし山下さんがあそこで実際に死んでいたなら、そしてそれが”周知”されていたなら、山下さんの部屋がここまで普通に使えるのはおかしい」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ