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魔王おじさん50  作者: クリントン大西
--奥垣内 学と和平編--
86/93

その83 〜死角〜

(”司令塔”になりえる者は──敵方にナンギシュリシュマとクソ女(エクステリア)。こちらは、わたしミューラと、パルテオン。しかし、パルテオンは司祭ゆえに”声”の魔術は使えない。なら、わたしが司令塔に徹する前提で、作戦を立てるほかない──)


 結果、魔術師ミューラは、空中より戦況観察。


 ”高所”という位置取りが、戦闘において有利なのはしごく当然だ。

 戦場全体の流れを見極め、”声”を仲間に飛ばして臨機応変に対応。


 加え、なまじの攻撃は”障壁”で防御できる。

 戦局によっては適時、援護も可能。


 対人間戦では”銀”の攻撃が怖いが、相手が魔族ならその率は低い。


 ──もっとも、かつてワフルにおいてヤマト(の仲間?)が仕掛けてきたように、『()』による間接的手段での銀攻撃もないではない。油断は禁物である。


 あらかじめトラックに『透明化』と『無音』の術をかけておく。


 ほかの生物と接触したとたん解けてしまう『透明化』だが、今回の使途において、その障害は問題ではない。また、未熟者の『透明化』と違い、ミューラのそれ(・・)は、術の維持に術者の集中を必要とはしない。


 トラック駆動時の”振動”だけはどうしようもないが、トラックという存在の前知識もなく、姿も音も分からない魔王軍に、初見で対処することはまず不可能。


 狙う相手は当然、エクステリア──

 ではなく(・・・・)、”青鬼”ドグ。


 先日のカーチコム郊外における、王国六将軍と三万の兵士を壊滅寸前にまで追いやった、ドグの広域範囲攻撃──むろん、先に”勇者”と戦った時には見せていない──の能力は、この小規模戦においても脅威だった。


 ヤマトは、変身能力にいまだ未知の部分があるものの、基本は接近戦主体。ナンギシュリシュマは分身と拡縮能力が厄介である反面、戦闘力それ自体は低い。


 エクステリアは火炎主体。

 シンプルにして強力だが、その魔力量はおおよそミューラと同等。

 魔族独特の魔術や能力を勘定に入れても、やれること、やれないことは大体にして推し量れた。


(あくまでトラックでの一撃は、”初見必殺”──戦闘の基本は”最弱の者から狩る”だけれど、その一度きりのカードは、相手の最大戦力を削ることに切るべき)


 ある意味、初手からの最大攻撃。

 賭けの部分があることは否めない。

 が、もとより、対等に近い相手との殺し合いは、賭けの連続。


 はたして、トラックは無事、ドグを直撃。


(右翼に走らせていた、ゴンドラゴンドとパルテオンの幻影(・・)は、ここで消すか)


 ゾークヴツォール王国最高峰の魔術師たるミューラは、同時に複数の魔術を制御することが可能だった──が、それはあくまで”可能”というだけだ。


 自らは飛行を維持し、最低限の障壁で身を護り、加えて初歩的ながらも”自律的に動いているように視える幻影”を操作しつつ、トラックの透明化と無音化というのは、とてつもない負荷がかかる。


 ドグがトラックにふっ飛ばされたのと同時に、ゴンドラゴンドが素早く運転席から飛び出し、追撃。クルクルの援護もあり、追加の損傷を与えた……

 

 ところで、充満する緑色の霧。


 念のため、さらに高度をあげつつ、地上を観察するミューラ。

 瞬間的に、地上の広範囲──半径五十mほど──が、緑色の煙で覆われた。


(毒? いや、ドグも中にいる。人に効き、魔族には効かない毒などという都合のいいものはない。まして、今のドグはおそらく内臓を傷めている。単純に、目くらましか)


 クルクルの”矢”でも解除できるだろうが、その裏をついて、非魔術的手段で起こしたものの可能性もある。ミューラは迷わず、大風を起こして緑色の霧を吹き飛ばした。


「なにッ」


 さすがに、出る。

 声が出る。


 十mほど上空のミューラの足元で、二十体以上のエクステ(・・・・・・・・・)リアが細剣を構えて(・・・・・・・・・)立っていたからだ(・・・・・・・・)


(幻術? ──いや、それぞれが自律的に動いている。一つ二つならさておき、これだけの数の幻影を個別に操作することはできない筈)


 幻影は幻影でも、実体にかぶせて(・・・・)使う幻装。

 魔族が人間界に潜入する時など、よく使う術だ。


 考えられるのは……


(ナンギシュリシュマの”分身”、それぞれを幻術でエクステリアに偽装)


 先の”緑の霧”からの”突風”までで、ダメージを負ったドグは位置を変え、ゴンドラゴンドから距離を取っている。そこへ、七人の(・・・)エクステリアが迫る。


『ッ、クルクル!』


 ミューラが”声”を飛ばす。

 それだけで充分。


 即座に放たれた七本の”銀の矢”が、それぞれの標的を襲う。


「ッ」


 弾かれた(・・・・)

 あるいは、(かわ)された。 


(いかに練達の弓師の矢だろうと、”来る”方角とタイミングが分かっているなら、回避はさほど難しくはない。しかし、”分身”して能力劣化したナンギシュリシュマに、弾くことなどできる?)


『ゴンドラゴンド! そいつらのうち、一人はヤマトの変身(・・・・・・)よ!』

「んー、だろうな。退くぜ」


 いまだ届かなくもないドグへの追撃を諦め、いさぎよく”七人のエクステリア”からトラックへ戻ろうとするゴンドラゴンド、その態勢がいきなり崩れた。


「ぎっ」


 右膝をつき、勢いのまま前のめりに倒れる。

 血。

 地面から生え伸びる腕(・・・・・・・・)と、細剣。


 その刀身は、赤く濡れていた。


 ヤマトは確かに変身していた。

 しかし、それはエクステリアへではなかった。


 人間大のモグラに変身したヤマトは、緑の霧がたちこめた隙に、地面を掘り、ゴンドラゴンドとトラックの直線軌道上まで移動していたのだ。


 通常のモグラは、一mの移動に一時間もかかる。

 ただ、それは”新規の穴”の場合。

 一度掘ったことのある土なら、人間の及びもつかぬ速度で移動可能。

 

(あらかじめ決戦地が決まっているのに、細工しとかねー馬鹿はいねぇッスよ)


 ゴンドラゴンドの足──

 左膝より少し下を切断したヤマトは、

 変身を解除しつつ地中から姿をあらわした。

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