その83 〜死角〜
(”司令塔”になりえる者は──敵方にナンギシュリシュマとクソ女。こちらは、わたしミューラと、パルテオン。しかし、パルテオンは司祭ゆえに”声”の魔術は使えない。なら、わたしが司令塔に徹する前提で、作戦を立てるほかない──)
結果、魔術師ミューラは、空中より戦況観察。
”高所”という位置取りが、戦闘において有利なのはしごく当然だ。
戦場全体の流れを見極め、”声”を仲間に飛ばして臨機応変に対応。
加え、なまじの攻撃は”障壁”で防御できる。
戦局によっては適時、援護も可能。
対人間戦では”銀”の攻撃が怖いが、相手が魔族ならその率は低い。
──もっとも、かつてワフルにおいてヤマト(の仲間?)が仕掛けてきたように、『罠』による間接的手段での銀攻撃もないではない。油断は禁物である。
あらかじめトラックに『透明化』と『無音』の術をかけておく。
ほかの生物と接触したとたん解けてしまう『透明化』だが、今回の使途において、その障害は問題ではない。また、未熟者の『透明化』と違い、ミューラのそれは、術の維持に術者の集中を必要とはしない。
トラック駆動時の”振動”だけはどうしようもないが、トラックという存在の前知識もなく、姿も音も分からない魔王軍に、初見で対処することはまず不可能。
狙う相手は当然、エクステリア──
ではなく、”青鬼”ドグ。
先日のカーチコム郊外における、王国六将軍と三万の兵士を壊滅寸前にまで追いやった、ドグの広域範囲攻撃──むろん、先に”勇者”と戦った時には見せていない──の能力は、この小規模戦においても脅威だった。
ヤマトは、変身能力にいまだ未知の部分があるものの、基本は接近戦主体。ナンギシュリシュマは分身と拡縮能力が厄介である反面、戦闘力それ自体は低い。
エクステリアは火炎主体。
シンプルにして強力だが、その魔力量はおおよそミューラと同等。
魔族独特の魔術や能力を勘定に入れても、やれること、やれないことは大体にして推し量れた。
(あくまでトラックでの一撃は、”初見必殺”──戦闘の基本は”最弱の者から狩る”だけれど、その一度きりのカードは、相手の最大戦力を削ることに切るべき)
ある意味、初手からの最大攻撃。
賭けの部分があることは否めない。
が、もとより、対等に近い相手との殺し合いは、賭けの連続。
はたして、トラックは無事、ドグを直撃。
(右翼に走らせていた、ゴンドラゴンドとパルテオンの幻影は、ここで消すか)
ゾークヴツォール王国最高峰の魔術師たるミューラは、同時に複数の魔術を制御することが可能だった──が、それはあくまで”可能”というだけだ。
自らは飛行を維持し、最低限の障壁で身を護り、加えて初歩的ながらも”自律的に動いているように視える幻影”を操作しつつ、トラックの透明化と無音化というのは、とてつもない負荷がかかる。
ドグがトラックにふっ飛ばされたのと同時に、ゴンドラゴンドが素早く運転席から飛び出し、追撃。クルクルの援護もあり、追加の損傷を与えた……
ところで、充満する緑色の霧。
念のため、さらに高度をあげつつ、地上を観察するミューラ。
瞬間的に、地上の広範囲──半径五十mほど──が、緑色の煙で覆われた。
(毒? いや、ドグも中にいる。人に効き、魔族には効かない毒などという都合のいいものはない。まして、今のドグはおそらく内臓を傷めている。単純に、目くらましか)
クルクルの”矢”でも解除できるだろうが、その裏をついて、非魔術的手段で起こしたものの可能性もある。ミューラは迷わず、大風を起こして緑色の霧を吹き飛ばした。
「なにッ」
さすがに、出る。
声が出る。
十mほど上空のミューラの足元で、二十体以上のエクステリアが細剣を構えて立っていたからだ。
(幻術? ──いや、それぞれが自律的に動いている。一つ二つならさておき、これだけの数の幻影を個別に操作することはできない筈)
幻影は幻影でも、実体にかぶせて使う幻装。
魔族が人間界に潜入する時など、よく使う術だ。
考えられるのは……
(ナンギシュリシュマの”分身”、それぞれを幻術でエクステリアに偽装)
先の”緑の霧”からの”突風”までで、ダメージを負ったドグは位置を変え、ゴンドラゴンドから距離を取っている。そこへ、七人のエクステリアが迫る。
『ッ、クルクル!』
ミューラが”声”を飛ばす。
それだけで充分。
即座に放たれた七本の”銀の矢”が、それぞれの標的を襲う。
「ッ」
弾かれた。
あるいは、躱された。
(いかに練達の弓師の矢だろうと、”来る”方角とタイミングが分かっているなら、回避はさほど難しくはない。しかし、”分身”して能力劣化したナンギシュリシュマに、弾くことなどできる?)
『ゴンドラゴンド! そいつらのうち、一人はヤマトの変身よ!』
「んー、だろうな。退くぜ」
いまだ届かなくもないドグへの追撃を諦め、いさぎよく”七人のエクステリア”からトラックへ戻ろうとするゴンドラゴンド、その態勢がいきなり崩れた。
「ぎっ」
右膝をつき、勢いのまま前のめりに倒れる。
血。
地面から生え伸びる腕と、細剣。
その刀身は、赤く濡れていた。
ヤマトは確かに変身していた。
しかし、それはエクステリアへではなかった。
人間大のモグラに変身したヤマトは、緑の霧がたちこめた隙に、地面を掘り、ゴンドラゴンドとトラックの直線軌道上まで移動していたのだ。
通常のモグラは、一mの移動に一時間もかかる。
ただ、それは”新規の穴”の場合。
一度掘ったことのある土なら、人間の及びもつかぬ速度で移動可能。
(あらかじめ決戦地が決まっているのに、細工しとかねー馬鹿はいねぇッスよ)
ゴンドラゴンドの足──
左膝より少し下を切断したヤマトは、
変身を解除しつつ地中から姿をあらわした。




