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魔王おじさん50  作者: クリントン大西
--奥垣内 学と和平編--
84/93

その81 〜激突〜

 山下正作は、カイアンフェルド領に仮設された”魔王軍前線基地”、その中央天幕の中で、本を読んでいた。A3版ほどの分厚い書物なので、手に持っては読めない。必然、持ち込んだ卓上に載せて、である。


 その付近では、ガブリエラが敷布に寝転がって所在無げにしている一方、青竜カイアンフェルドは、虚空をジィーっと睨んでいた。”千里眼”で、すでに決戦地へ向かった”四天王”の映像を追っているのだ。


(ページがごつくて分厚い……これが”羊皮紙”ってやつかな?)


 本の表題は”アルガスヴェルド抄録(しょうろく)”。


 ナンギシュリシュマから借りた、先代魔王の手記であった。


 彼──アルガスヴェルドこと有賀 統(ありが すべる)が、この世界に来た当初の記録。その内容は、正作の興味を引いた。


(……なるほど。やっぱり有賀さんは、ぼくと違って最初から魔王っぽい”チート”持ちだったんだね。というか、今の魔王軍の制度の半分ぐらいは、この人が考えていたのか。チート以前に、もともとのスペック──人間力(・・・)で、勝てる気がしないや)


 今、正作が手にしているのはオリジナルを元にした写本だが、ところどころ、ナンギシュリシュマが追記したと思われる注釈があった。半分研究、半分崇拝といったような風情だ。


 少なくとも前半部は、あまり人間との戦争といった描写はない。

 むしろ、魔族のコロニーを発展させていくのに没頭しているように読めた。


 一人目の勇者を仕留(・・・・・・・・・)めたあたり(・・・・・)から、少しずつおかしくなっていく。


(詳しくは、書いていないけど──この辺で、たぶん何かあったんだろうな)


「ぬふふん、陛下! エクステリア(マイ・ラヴ)達が、現場に到着したそうですぞ!」


 カイアンフェルドの言葉に、ガブリエラの身体が少しだけ震えた。


「あ、はい。じゃあ、カイアンフェルドさん。映像、出してくれますか?」


   ***


 六本腕に巨躯、二本角。

 四天王最強、”青鬼”ドグ。


 変幻自在の青年剣士。

 ”一本角”のヤマト。


 ひときわの異形。四天王の最長老。

 ”深緑の悪魔”ナンギシュリシュマ。

 

 ──そして赤髪赤眼に赤ドレス、三本の角。

 ”煉獄の”エクステリア。


 魔王軍の四天王が、決闘の地に居並んでいた。


「勇者の仲間どもは、まだ! 来ておらんようだな」


 上から二つ目の右手で顎をさすり、ドグが不敵に笑った。


「真っ先に警戒すべきは、”銀の矢”──卓越した弓師が扱う”銀”は、下手な魔術より百倍厄介ッス」


 ヤマトが、腰の細剣をすらり抜き払う。


「左様。銀は人間世界でも貴重な金属ゆえ、通常はそれほどの乱発はできぬものだがの──勇者の一味は、ゾークヴツォール王国を後ろ盾をしておる。予算的制約なく”乱発できる”……そう決めてかかった方が良かろうヒヒヒヒヒ」


 緑色のタコ、ナンギシュリシュマが片眼鏡に触腕をそえる。


「人間どもは、正面からは来ないでしょう。必ず、奸策を仕掛けてきます」


 エクステリアは、静かに言った。


「”勇者パーティ以外の人間が混じっていた時点で、即時撤退”ッスね?」

「……ええ。あくまでこの”決闘”とやら(・・・)は、制約戦。約束破りの卑劣は、それだけ陛下のお心を揺さぶることでしょう。わたくしとしては、それはそれで悪くない展開です」


 昨夜、カイアンフェルド領に到着したエクステリアとほかの三人は、話し合いの末、いくつかの”勝利条件”を設定した。


 一つは、言うまでもなく”決闘”での勝利。


 一つは、外交的勝利。


 ”四天王と、勇者の仲間のみで戦う”──

 それが反故にされた時点で、継戦するメリットが魔王軍側には(・・・・・・)あまりない。

 相手の不正が発覚したら、その場で退却し、戦力温存。


 外交的勝利とはいっても、別に、人間達に何を望むというわけでもない。

 エクステリアが望むのは、己が主の心変わり(・・・・)だ。


「陛下と同じ”獄界”からやってきたという”人間”スズキ カンタロー。さらに増えたという、もう一人。王国軍の将軍級──あるいは、パルテオンの弟子? それらが、伏兵として潜んでいる可能性は低くありません。その場合は、戦術的にいっても、退いたほうが賢明です」


「その不正に参加した人間が”勇者”! としたら、ワシら、いきなり詰むがな」


それゆえ(・・・・)のカイアンフェルドよ。出かける時にも”確認”してもらったが、勇者リアン・スーンは、現在も王都の城内にいるようだの。今からでは、たとえ魔術で飛行したとしても絶対に間に合わんわヒヒヒヒヒ」


「おっと、お出ましのようッスよ」


 ヤマトの言葉に、ほかの三人がすっと口を閉ざす。


 彼らの正面から向かって三百mほど。


 向かって右側。

 すでに矢を構えた弓師クルクル。


 向かって左側。

 メイスを構えた戦士ゴンドラゴンド、老司祭パルテオン。


 中央で、やや宙に浮かんでいるのは魔術師ミューラだった。


(……わたくしと、空中戦をするとでも?)


 エクステリアは、牽制の火球をいくつか投げつける。

 それを避け、戦士と司祭は右翼側へ、クルクルは左翼後方へ移動。


 ミューラは、障壁で火炎を防ぎ、そのままの高度で飛来した。


「? なんか、地面、震えてないッスか」

「う、むぅ! 地震──いや、おかしいぞ、これは」


 ドグは、首をかしげる。


『カイアンフェルド! そちらからは、何かおかしなものは見えますか。何か、地響きのような感覚があるのですが』


 即座に、エクステリアは”声”を、後方の青竜へ飛ばした。


 今の状況は、カイアンフェルドも”千里眼”で眺めている。

 彼女達とは違った視点から、得られることもあるか知れない。

 

『ぬふん、無論だともマイ・ラヴ! 今まさに、勇者のオマケ共が突っ込んできておるな──いや、地中も今ざっと”視た”ものの、何かが潜んでいる、埋まっているというようなことはないぞ』


 向こうから”声”が、四天王全員に返ってきた。


「何もないわけはないッス。音こそしないものの、この身体に伝わる振動は、むしろどんどん強くなってるッスよ!」


 そう言って、ヤマトはほかの仲間たちから距離を取る。


「幻術? いえ、音と光以外の幻術など、聞いたこともない。対象に擬似的な”触覚”を与える術、そんなものは存在しません。ミューラが、何らかの大魔術を行おうとしている、その予兆でしょうか」


「ううむ、分からん。ともあれ、連中も近づいてきた。打ち合わせ通り、散るぞいヒヒヒヒヒ」


 ヤマトに遅れ、ほか三名もまた、左右に散開する。


 振動は、さらに大きく──


 ある程度近づいた地点で、ミューラの高度が上昇した。


 それを狙ったエクステリアの火炎は、すばやくクルクルが放った”矢”で、即座に無効化される。

 ナンギシュリシュマは立ち止まり、何かしている。

 ヤマトが、剣を構えつつ”変身”の予備動作。


「ごぶッ」


 突然。

 ものすごい音とともに、”青鬼”ドグの巨躯が後方にフッ飛ばされた。

 衝突する瞬間、それ(・・)は、音と姿をあらわした。


 異世界人・奥垣内(おくがいと)が持ち込んだ、10トントラックだった。

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