その78 〜銀の法則〜
「前から思っていたんだけどね。あれ、銀貨って、”銀の法則”の範囲外なの?」
「ぬふふふふん、さすがは陛下。おみごとな洞察眼ですぞぉ」
正作の問いに、青竜カイアンフェルドが大げさなりアクションを取る。
魔王軍側は、魔王・山下正作を筆頭に、エクステリアを除く四天王、幹部、ほか五千の精兵が、カイアンフェルド領で陣を構えていた。
カイアンフェルド領民のうち、戦闘員一万は在留し周辺警備。
非戦闘員は、念の為、魔王軍領へ疎開している。
正作は、屋外で兵達の調練を見学しつつ、魔王軍の幹部達と雑談を交わしていた。
「ぬふん。たとえばですな、我が宝物窟には、銀の彫像やアクセサリの類もいくらがございます。これらは、触れるとさすがに”法則”が発動し、我ら魔族の力を弱めてしまいますが、所持しているだけでは、何ともないのです」
「俺と陛下が一緒にワフルへ行った時も──”銀貨”の入った袋を携帯していたにもかかわらず、俺の変身が解けなかったッスよね? 極力、銀貨には触れないように注意してたッス。革袋に入れたり、手袋越しに触るぐらいなら問題ないッス」
カイアンフェルドを押しのけるようにして、ヤマトが解説に加わった。
「あー、なるほどね。──あれ。でも、”弓矢”とかはどうなるの? 銀の矢を使う時、別に”銀”には直接触れないけど、”銀の法則”の範囲に入るって、聴いた覚えがあるんだけど」
「ぬふーん、それ」
「それはッスね、武具の類は”装備”の範疇に入るから、らしいッスよ」
ヤマトの解説によれば、こうだ。
基本、銀の法則は”接触”により発動。
それとは別に、接触せずとも”武具として装備”の範疇に入ったら発動。
「王都での一件で、拙僧らがビビアンの配下、ピクロコルの手によって地中に封じられた時などは、”銀粉”が、武具としてカウントされておった例ですな。これは半ば裏技のような使い方で、魔族でも知る者は少ない知識ですがな。武具扱いゆえ、あの時、銀粉をつめた袋を持たされておったアイゼンバーグは、”銀の法則”の効力下であった筈ヒヒヒヒヒ」
ナンギシュリシュマが、さらに補足説明。
(そんな、格ゲーの当たり判定みたいな基準があるのか……)
今更ながら、知れば知るほど作為的な世界である。
何者かに殺害されたゾークヴツォール国王、ハラニーチ四世の場合は、どうか。魔術師ミューラは、魔力の痕跡を利用して過去を視ようとしたが、その痕跡が散ってしまっていた、と言っていた。
貴人なら、どこかに銀の品を身に着けていただろう。
生前は”装備カウント”により、銀の法則の影響範囲内。
ただし死亡した時点で、その肉体はただの物質であるから、”装備”も何もない。だからこそ、過去が視える(死体になった直後の記録が確認できる)──そう、ミューラは考えたわけだ。
(犯人は、それを知っていたので、銀の凶器で”死後”に”死体”を刺したって──あれ、ん?)
正作は、妙なことに気づいた。
殺人者と、死体に細工をした者は、別人ということもあり得る。
今頃になって、とんでもないことに気づいたものだ。
素直に考えれば、殺害者は”銀の法則”のそうした用途を知らず、細工した者はそれを庇って……という事、だろうか?
(えっ、と……”過去視の呪文”だっけ。その存在と、”ミューラさんがその呪文を使えること”を示唆したのは、確か──あ、そうそう、サーララ姫だ。これは、細工する余地があった人間=サーララ姫ということに、なってしまわないか? 仮に、姫が”死体の偽装者”とすれば、誰を庇って? いや、庇ったとは限らないのかな。あえて誰が犯人か不明瞭にするため、とか? ──え、なにそれ。意味不明)
姫が庇うとすれば、母親だろうか。
しかし、その母ルベルベラ王妃には、犯行当時のアリバイがあった筈。
シンプルに、サーララ姫が殺害犯および偽装者?
彼女は、自分にアリバイがないと明言していた。
(でも、動機が思いつかない。そこまで危ない橋を渡って、彼女が得るものが何もない、気がする。なんというか、すごく──ものすごく不自然だ。やっぱり、あるとしても、”銀での偽装”のみかな……)
「陛下? どうなされましたかな」
ドグの声で、正作は我に返った。
「あ、ごめんごめん。ドグさん。ちょっと、考え事をしてしまって」
「なるほど。まぁここ半月ほど! 大変でしたからな──」
確かに大変だった。
”和平”──
からの”エクステリアの事件”。
そして王国側からの”決闘”の申し入れと、その細部調整。
ビビアンが魔王城に怒鳴り込んできた為、その対応。
ガブリエラの、消極的な職務ボイコット。
カイアンフェルドへの事情説明と、その領土民の疎開計画立案・実行。
謹慎を言い渡した手前もあり、エクステリアは、決闘の直前まで魔王城に居残りだ。留守中の管理の都合もあるので、ちょうど良いといえばちょうど良い。
「パルテオンのジジィから、右腕を奪ってやった伏線が、ここで活きるッス。こちらは”四天王”の誰もが特にダメージなしッスから、かなり有利ッスよ」
「油断は大敵! 人間どものことだ、何か思わぬ罠を仕掛けて! くるやも知れん」
「ふむ、それはいえるの。カイアンフェルドめの”千里眼”にて適時、見張って貰ってはおるが……今、話題にあがった”銀の法則”を併用すれば、思わぬ死角を作ることも、あるいはできるか知れんしのヒヒヒヒヒ」
「ぬふふふふーん、心配無用! 俺様の”千里眼”は──まぁかなり疲れるけれども、本気を出せば、地中でさえ見通すことができるのだ! 細工の余地など与えぬ! ……そう、かなり疲れるけれども!」
「う、うん。お願いしますカイアンフェルドさん」
青竜がやたらチラ見してくるので、正作がそのように言った。
後ろで、無言のヤマトが指をポキっと鳴らしたようだが、空耳かも知れない。
(決闘なんて──どうして、こんな話に)
期日まで、あと少し。




