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魔王おじさん50  作者: クリントン大西
--奥垣内 学と和平編--
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その77 〜意趣返し〜

「……で、ここ(・・)が決戦の地に選ばれたと」

「はい、そうですわ。お父さん(・・・・)


 事件記者アイリーンと見知らぬ青年が、カーチコムの町外れの荒野に並んで佇んでいるのをヤットールは見つけた。


 くだんの記者が、次の待ち合わせ場所を、よりにもよってここ(・・)に設定した為だ。


「あら、遅かったですわね、将軍」


 アイリーンがヤットールの姿を認め、声をかけてきた。


「すまん、少し軍議が長引いてな。──そちらの彼は?」


 ヤットールは、少しく気分を害していた。


 一応”同盟関係”のようにはなっているものの、彼女との会合は、基本的には内密に行いたい、というのが本音だったからだ。


(こちらに断りもなく、第三者を引き合わせるなど、配慮に欠くだろう)


 それでなくとも、利用する筈だったゲゾスの件が、思わぬ形で表出し、使えなくなってしまった。これからどう攻めるべきか、考えただけで頭痛がする。


「──あ、こちらは、あちしのお父さんですわ」

「よろしく。君が、ヤットール・デイホンムーア将軍だね。噂はかねがね」


 アイリーンの紹介を受け、その青年は、ゆるやかに一礼してみせた。


「お、父さん?」


 見た感じ、アイリーンの父親というほど老けては見えない。

 いうほど若くもないが──おおよそ、ヤットールと同じぐらいの歳か。


 立ち居振る舞いはそれなりに洗練されている一方で、貴人というには服装が奇妙過ぎた。明らかに、王国の風俗ではない。顔つきは細面で、整っている方だが、やはり違和感がある。


(外国人、東方連合出身か)


「──遠国の方かな?」


(名乗りをあげないのは無礼だが、こちらから訊ねるのも癪に障る。態度、物腰、ここで引き合わされる事実から推察するに……彼女の情報網、その一旦を担う、遠国の貴族か富商。もしくはその関係者)


「うん、遠い国だね。おそらく、君は知るまい」


 ヤットールの探り入れを、穏やかな笑みで受け流す”お父さん”。


「お父さんは、時々、お役立ち情報を教えに来てくれるのですわ」


(……”和平”のことを知っていたのも、この情報源から?)


 それなら、他国のスパイということになる。


 そのあたりを踏まえ、本来なら真っ先にそれを取り締まるべき立場のヤットールに、この場この時に引き合わせるとは、なんとも底意地が悪い。


「心配ご無用。わたしは、君の国の宰相や外務大臣とも、王族とも、そしてもちろん魔王軍とも(・・・・・・・・・)何の繋がりもないよ。少し、ゲゾス伯爵の二の舞を踏むのではないかと、心配しなかったかね?」


 ごく誠実そうに語りかけてくる青年の言葉。

 ヤットールは、背筋に怖気(おぞけ)がはしるのを感じた。


(アイリーンとは違い、立ち居振る舞いに隙がないな。武の心得はある、ということか)


 ただ、この程度の振る舞いは、王国軍でも大隊長クラスになれば身につく水準であるし、実力者であればあるほど、それを隠すのにも長ける。この程度では、『少なくとも雑魚ではない』という判断しかできない。


 何にせよ、油断しないほうが良いだろう。

 一瞬後に戦闘、ということさえありえる。


「──話の通り、慎重派だな。いかにも、危なげなく出世しそうだ。君なら当然、この地にて”決闘”が行なわれるに至った経緯なども、知っているのだろうね?」


 ヤットールは否定も肯定もしなかったが、もちろん知っていた。



 勇者を除く(・・・・・)勇者パーティと、魔王を除く(・・・・・)魔王軍”四強”の決闘。



 彼が知る限り、最初にこの話を持ち出したのは王国側らしい。

 発案者は王弟サリオンであるとも、王妹サーララであるとも言われているが、その辺りは噂の域を出ない。


 それを受け、魔王軍側は当初、魔族領内にある”円形闘技場”なる地で、問題となっている”煉獄の”エクステリアと、勇者パーティの誰か一名で決闘させてはどうか? と打診してきたものの、さすがにそれを飲むわけには行かない。


 幾多もの交渉を経て、参加者は勇者と魔王を除いた双方同数の精鋭。

 場所は、人間領と魔族領の中間──

 王国側でいえば、軍事都市カーチコムから少し離れた荒野に決まった。


 先日、ヤットール達の軍が、”青鬼”ドグとぶつかった場所よりも、ずっと街から離れたところにある。見渡す限りの平野部で、見晴らしが良い。草木はろくに生えず荒涼としており、野生動物も殆ど見かけない。


 魔王軍、王国軍ともに、決戦地より二km以内の接近が禁じられている。

 今、ヤットール達がいるのも、正確にはだから決戦地そのものではない。


 王国側では、その二kmぎりぎりの場所に現在、二万の兵士が野営地を構えていた。恐らく、魔王軍側でも同様の動きを見せていることだろう。


 当日まで、そして決戦時にも余計な茶々入れや、罠の敷設などをさせないよう、こうして双方で見張っているというわけだ。


「将軍、君としては、今回の”決闘”──判断の難しいところだろうね。いかに勇者の名を貶めたいと願ってはいても、ボロ負けされては国家の存亡に関わる。といって、ここで鮮やかに魔王軍の”四天王(・・・)”を倒し尽くしてしまっても、それは勇者の名声の後押しとなり、やはり好ましくない」

 

「何が、言いたいのかな」


 この持って回って言い方が、なんとも気に食わない。

 アイリーンもアイリーンだ。

 どういう了見で、こんな得体の知れない不敬者を連れてきたのか。


「独断で魔族領に踏み込んだ将軍二人が、行方不明だそうですわね」


 その彼女が、話の間に割って入った。


「もう出立してだいぶん経つのに、いまだ帰還していないとか──」

「それがどうした」


 ヤットールの苛立ちが、いよいよ加速した。

 ヨザウィングと、クリシュラティアナについては、内心、すでに死亡していると考えている。魔族領内で、魔族──間違いなく”四強”の誰か──とぶつかり、返り討ちにあったのだろう。


(あのクソ女はさておき、ヨザウィングの、王国に対する忠誠心は高い。生きていれば、果ては処刑と分かっていても、必ず帰還するはずだからな)


(さと)いようで、鈍いな君も。つまりだ、その死者が”決戦”に乱入可能(・・・・)ということだよ。将軍」


 その言葉を聞いて、ヤットールの脳髄に痺れが放たれた。

 刺激が、後頭部から頚椎、心臓、周辺神経へ、ジワッと伝わっていく。


 幻術? 変装?

 クリシュラティアナか、ヨザウィングに?

 その姿で介入──

 こちらの意に沿う形に、戦局を適時コントロール?


 カーチコム郊外軍の指揮は?

 ──前線における最高軍権者は、今や、自分一人。

 短時間、口実を作って抜け出すのは造作もない。


(”青鬼”ドグとの戦闘で、”四強”の戦闘力水準はだいたい把握した。勇者パーティほどの強者達が相手をしている間なら、かならず隙をつける!)


「よろしければ、足のつかない魔術師を用意しましょうか?」

「……話を勝手に進めるな」


 不機嫌そうに、アイリーンの言葉を遮って、ヤットール。


(待て待て。こいつらが、こんな話を持ち込む目的は何だ? 遠回しな表現に始終して、言質を取らせないところなど、非常に怪しい。わたしを貶めようという企みか?)


「仮に、幻影の魔術でどこかの誰か(・・・・・・)に変装したとすれば、魔術の痕跡が残る。それを、どこかの魔術師に鑑定されたら、そこで”その人物”はおしまいだ」


「君、”銀の法則”を忘れていないかな?」


 青年が、やれやれといった様子で言った。


(銀……? ぬ、そうか。幻術を使って変装し、目的を果たした後、”銀”を装備すれば、その魔術の痕跡を洗い流せる──)


 現場を押さえられず、事後検証されなければ、いくらでも言い抜けは利く。

 考慮する価値のある作戦、ではある。


(あとは、こいつらか)


 アイリーンといい、この胡散臭い男といい、のこのこ前に出てくる以上、更に”背景”が──ほかの仲間がいることを示唆していた。


 ヤットールの本能が「さっさとこの二人を始末しろ」といい、

 理性は、「少し待て」と言っている。


 結果、判断保留。

 保身に長けるとは、つまり、そういう決断が常ということでもある。


「何が目的だ」


 いっそ、単刀直入に訊いてみた。


「あちしは、記者ですわ。読者を惹き付ける、魅力的な特ダネを拾うのが目的。それからすれば、今回の”決闘”は、ネタとしては難しいですわね。どうせ決戦当日は、この周辺一帯、軍関係者以外立ち入り禁止でしょうし、巻き込まれて死んだら、スクープどころではありませんもの」


 アイリーンが、両手を軽く上に開いて答える。


「つまり、彼女はただの仲介者だよ。で、わたしの目的? ふむ……──まぁ、一種の意趣返しだよ。魔王に対するね(・・・・・・・)


 青年は、そういってヤットールを見つめた。

 ヤットールは、ゾッとした。


 その青い瞳は、うつろで、何も映してはいなかった。

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