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魔王おじさん50  作者: クリントン大西
--奥垣内 学と和平編--
74/93

その71 〜被害者〜

 弓師クルクルの故郷──


 ハンナのいた村から、北東へ二十km。

 ゲゾス・ベンベンの直轄地。


 その外れ、王国軍により設置された仮設キャンプ前に、クルクルはやって来た。戦士ゴンドラゴンド、ワフルの大隊長ジョッシュも一緒だ。


「んー……なんだ、あのガキどもは」


 テントの中やその陰から、多数の視線を受け、ゴンドラゴンドは眉をひそめた。


「ハンナの村の、子どもたちだよ」

 

 クルクルが言った。

 刺すような目線。

 まるで、親の仇でも見るかのような。


「──ちっ、逆恨みもたいがいにしろっつぅの」


 ジョッシュが吐き捨てた。

 これだけあからさまに睨まれたら、誰でも分かる。


 今回の事件が、クルクルのせい(・・・・・・・)で起こったと思っているのだ。


「それは、しかたないよ。実際、ここに来るまでの街でも言われたじゃん。あたし達が、もっと早く魔王を倒していれば、とか」


「それは正味、無茶言うなって感じだけどな。無責任に煽るのも、庶民の特権(・・・・・)か。新聞も、好き勝手、書いてくれるしな。そんなに言うなら、お前らが行けっつーの」


 愚痴りつつも、クルクル達は、駐屯地の兵士に案内され、ハンナがいるというテントへ歩いていった。”被害者”の村人は、大半がテントの中に入っているようだが、時折、外で座り込んでいる姿も見かけた。


 目や両手首には包帯が巻かれ、ほぼ例外なく放心している。


「……クルクルが?」


 駐屯兵の取り次ぎを経て、テントの中からハンナが出てきた。


「──ッ」


 クルクルは、言葉を失った。

 最初にかけようと思っていた声が、どこかへ消えたようになる。


 彼女の顔は痣だからで、切れた唇から今もかすかに血が滲んでいた。


「エクステリアに、じゃねぇな。その傷は新しい(・・・)


 低い声で、そう言ったのはゴンドラゴンド。


「ち、違います、そうじゃないんです。これは、ちょっと──転んで」


「は、ハンナ……わ、ワフルに来なよ。ここは、辛いよ」


 絞り出すような声で、クルクルが言う。

 先程から俯いて、ハンナの顔を見れないようだ。


「う、うん。ありがとう。でも、夫の世話をしないといけない、から」

「じゃあ、その旦那さんも一緒に連れてきたらいいや、姉ちゃん。あんまり依怙贔屓するのも何だけどよぉ、俺、ワフルじゃそこそこ顔が利くから、仕事先ぐらい紹介できるぜ」


 とジョッシュ。


「ありがとうございます。そうですね、先のことも、考えないといけない……」


 ハンナの目が、どこか遠いところを見ていた。


「そ、そうしなよハンナ。あ、あたしも、その、いろいろ助けられると思うから」

「何が助けるだ、この疫病神め!」


 近くに座っていた、村民──大人の(・・・)男が、突然叫んだ。


「そうだ、お前がいたから、こんなことになったんだ!」

「わかっているのか!」

「俺たちの手を返せ! 目を返せ!」

「あなた、勇者の仲間なんでしょ! 勇者の力でわたしを治してもらえないの?」

「助けてくれよぉっ、できるもんならな!」

「じゃなきゃ、詫びにお前も俺たちと同じになってみろ」


「き、貴様ら! 静まれっ」


 道案内の駐屯兵が、槍を構えて威嚇するが、まったく効果がない。

 いつしか、テント陰にいた子供達も、罵声に混じっている。

 ハンナは自分の両肩を抱えて蹲り、クルクルは顔を青くしてぶるぶる震えていた。


「んー。自分じゃなにもしないくせに、言うことだけは立派ってやつだな」


 ことさら聞こえよがしに、ゴンドラゴンドが言う。

 ごく平静な口調で

 

「な、なんだと!」

「わたっ、わたし達は、被害者なのよ!」


「だーから何だっていうんだ。んー? 有史以来、魔族との戦いでの犠牲者が、いったいどれだけいると思ってんだよ。自分たちだけが”特別”とか思ってるのか。つい最近でも、カーチコムのほうでは万単位で、死んだり、手足なくしたりしてるっつーの。だいたいよぉー」


 大男が、あくび混じりに伸びをする。


「クルクルの奴は、わずか十二歳の頃に、故郷の村を出されて(・・・・)、魔族との戦いの中に巻き込まれた──それは、何でだ? ゲゾス伯爵の野郎が、おめーらの村に難癖つけてきて、それをやめてもらう身代わり(・・・・)として、じゃなかったか。いわばこいつは、おめーらの”恩人”ってわけだな」


「ゴンドラゴンド、やめて、よ」


 苦しそうにクルクルが言うも、ゴンドラゴンドは止まらない。


「んー。そんなガキンチョを人身御供に出しておいて、だ。殺し合いの渦に叩き込んでおいてだ。おめーらは、のうのう(・・・・)と、平和な日常を享受してきたんだろ? でぇ、たまたま(・・・・)魔族の襲撃を受けて、それでも命は(・・)助かって──勇者パーティの後援者(・・・)である王国、その軍に保護されて、その王国軍が用意した糧食を()んで、王国軍が仮設したテントで雨露をしのいでいるわけだ。良かったな、勇者を絶大に(・・・・・・)支持している(・・・・・・)ゾークヴツォール王国が、文明的かつ豊かな国で。これが東方連合の片隅にあるような貧乏国なら、速攻で見捨てられてたかも、だ」


 ジョッシュは、思わず口笛を吹く。


 ゴンドラゴンドとの付き合いは長いほうだが、かつてこの大男が──ジョッシュの知る限り──ここまで饒舌に、何かを語ったことはなかった。


「……んー、ミューラの”理屈病”が、感染(うつ)っちまったかな。まぁいいか。で、改めて聞くけどよぉ。そんな慈悲深く素晴らしい王国、に支持された勇者──の仲間として、日夜、命を危険に晒しながらも魔族を狩り、世界平和に大貢献している英雄で、しかも! 元はと言えば、おめーらの恩人でもあるクルクルに対して、えっとぉ──何だって?」


「だ、だって、あの魔族が」

「そう、そうだ。村を襲ったのは、クルクルの出身地だからって……」

「狙われたのは、そのせい(・・)だって」


 黙ってしまった大人達にかわり、今度は子どもたちが口々に言いだした。


「お前ら、ほんと、ガキな。村をメチャクチャにした悪魔みてーな奴の言うことを、どうして鵜呑みにしちまうんだ?」


 呆れたように、ジョッシュ。


「だれの”せい”かって言ったら、その魔族の”せい”に決まってるじゃねーか。それこそ、ガキでも分かる理屈だぜ、そんなの」


「んー。それぐらいは分かってるんだろうさ。でも、怖くて口に出せないんだな。ビビっちまって。だから、その鬱憤を、ぶつけやすい、言いやすい相手にぶつけて、憂さを晴らしているだけの卑怯者……」


「もうやめて!」


 弾けるような、クルクルの絶叫。

 

 ゴンドラゴンドが口をつぐむと、周囲は極端な静寂に包まれた。

 

「もう、やめて……」


 繰り返す。

 そして、嗚咽をあげるハンナに背を向け、クルクルはその場から歩き去った。


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