表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王おじさん50  作者: クリントン大西
--奥垣内 学と和平編--
53/93

その52 〜青鬼ドグの実力〜

 ゾークヴツォール王国西端。

 軍事都市カーチコムの外れ。


 その市街壁が遠目に見える場所にぽつんと自立した『扉』。

 ガブリエラはそこからチョコンと半分顔を出し……三万もの人間の軍隊が、青鬼ドグただ一人(・・・・・・・・)に殺到するさまを、不安げに眺めていた。


 事後の検証により、彼女の能力が創造する”小部屋”──に至る扉は、それ単体で持ち運んでも問題ないらしいことが分かった。


 また、扉として開閉できさえすれば、さらに折りたたむ(・・・・・)などするのもOK(ただし分解は不可)。

 これにより、今回の作戦が実行可能となったのだ。


 まず、青鬼ドグとガブリエラが、その携帯可能な扉から”小部屋”に入る。

 そして外から扉を折りたたみ、大鳥に変身したヤマトが運ぶ。目的地に到着し、ヤマトがその扉をたてて開けば、”小部屋”ごとドグ達も移動完了というわけだ。


 幻影でのフォローが比較的容易なエクステリア、小型化し、ほかの生物内に潜伏できるナンギシュリシュマ、変身能力を持つヤマトに比べると、巨躯で腕が六本あるドグが人間世界に近づくのは簡単ではない。


 どうしても十分近づく前、接近に気づかれ、対策──

 勇者を呼ぶなど──されてしまう。


 その問題が、これでクリアされた。


 ガブリエラの”小部屋”は、異次元に構築される一辺二mの立方型空間。

 巨漢のドグでも、首を屈めれば問題なく入れる。


「しかし、世話になっといてこんなことを言うのも! なんだが……どうもこう、落ち着かん! な……」


 ”小部屋”での移動中、大きな青鬼は始終、挙動不審だった。

 ごついおっさんのモジモジは、率直に気色が悪い。


「まるで、おなごの部屋にでも! いるかのような……」

「いや、わたしの部屋なんだから、それであってるけど」


 元は殺風景な白い壁しかない”小部屋”は、ガブリエラの手によって大幅リフォームされていた。小卓、本棚、壁飾り、コピ・ルアクから貰ったぬいぐるみ各種、各種アロマ、化粧鏡──


 青鬼ドグ。

 魔王軍四天王、最強の男。


 ゾークヴツォール王国の西側にあるカーチコムという街に、人間達の軍勢が集いつつあるとの報を受け、急遽出陣と相成った。


「でも、なんで一人? 魔王軍は? いるんでしょ、軍勢」

「大軍を運用するとなると、準備に時間がかかりすぎるッス。人間どものあれ(・・)は、おそらく魔王陛下討伐のためのもの。つまり、チンタラしてる間に勇者ども(・・・・)も来るって事ッス。それより先に叩かないと、意味ないッス」


 ”扉”を運ぶ──という大任を終えたヤマトが、ヒト型に戻り、ドグと入れ替わりに”小部屋”内で休憩中だ。


「ガブリエラのおかげで、こういう大駒のフレキシ(・・・・・・・)ブル運用(・・・・)ができるようになって助かるッス」

「いやいやいや、にしても一人はないでしょ。じ、地響き、してるんだけど!」


 三万の軍勢。


 古代の戦争を扱った映画などでよく見る風景だが──

 実際に現場視点で見ると、凄まじい迫力だ。

 ハイスクールの弁論大会で、ガブリエラが壇上に立った時も、視界に広がる大勢の人間に気圧されたものだが、あれでさえ、せいぜい千人と少々。


 その五倍で、五千。

 それをさらに六倍して、三万。


 それが、全員こちらを殺す気(・・・・・・・)で、奇声をあげながら突っ込んでくるのだ。地響き、砂埃、変な臭い──

 

(もし自分が、今のドグの位置に立っていたなら、確実に下着が悲惨なことに……)


「せせ、せめて、ヤマトも助けに……?」

「真面目にヤバくなったらそうするッスけど、基本的に今日の俺の仕事は、ガブリエラの護衛ッス。流れ矢に当たって怪我しないよう、気をつけるッスよ。銀の矢はそうそう来ないと思うッスけど、”銀の法則”は、”小部屋”も無効化するッスから」


 実は、”銀の法則”が及んだ場合のテストも、既に終わっていた。


 ”小部屋”の中や、”小部屋”につながる扉に”銀”が作用した場合、即座に能力が解除され、中にあったものは全てその場に現れる。中の生き物も、無機物も、全てだ。


 先々月の王城の一件で、ガブリエラが”銀の法則”の影響下で能力を使ったらしい(・・・)ことから、もしかしたら──という念のための実験だったが、結果はどこまでも想定内。

 ”法則”は、やはり絶対だ。


 彼女の能力それ自体は消えず、別の扉で即座に”小部屋”は再現可能。


 なので、異空間に閉じ込められる的な危機には陥らないが、隠れる用途で使っていた場合などは、けっこう面倒なことになるだろう。


「む、接触するッス」


 ガブリエラが”小部屋”の奥に引っ込み、ヤマトは扉を少しだけあけて外の様子を観察。


 三万 VS 一人の戦闘が、始まった。


   ***


 戦況は、おおむね”七将軍”らの予想通りに展開した。


 王国の精兵が織りなす堅陣を、青鬼ドグが、麻衣を裂くかのように突っ切ってくる。飛来した矢はドグの表皮で弾かれ、打ち込まれた剣の刃は逆に欠けたり、折れたりした。


 それでいて、凡庸な攻撃に混ぜて時折放たれる”銀の矢”や、”銀の槍先”などは、確実に見切られ、ただの一撃も当てられない。


 六本の腕はそれぞれの可動域が広く、背後の敵であっても問題なく対処していた。

 今のところ、特に何がある、というわけでもない。


 ただ、強い。


 頑強、俊敏、怪力、的確。

 攻撃は基本、素手。


 とはいえ、相手から奪った槍や剣も、それなり以上に使う。

 ”銀の攻撃”対策だろうか。

 常に六本の腕のどれかに、奪った武器をキープしているようだ。

 

 獰猛そうな外見とは裏腹に、無駄な破壊をしない。

 兵士たちは、その殆どが、急所の一撃による即死。


 例外は、持ち上げた兵士を飛び道具(・・・・)に使う場合。

 投擲された兵も、その軌道上にいた者達も、無残な肉片と化している。

 

 三万の兵数による包囲圧迫も、これでは殆ど意味をなさない。

 脆い砂塊に落ちた一滴の水雫が、みるみる内部を穿(うが)ち崩すよう。


「よしよし。奴が、陣の中央に至った瞬間、我ら六人で仕留める」


 やや歪曲した大剣をシュラリと抜き、”金玉(きんぎょく)の星”ブランブランが宣言した。ほかの五将軍も、黙ったまま頷く。


(……ヨザウィングあたりは、もしかしたら死ぬかもな)


 ヤットールは、青鬼ドグの暴れぶりを見て、冷静にそう判断した。


 ”四強”の一角、ドグ。

 魔王が現れるまでは、魔王軍最強だったとされる者。

 

 なるほど、これは評判に違わぬ強敵だ。


 勇者には敗北したとあるが、それは仕方がない。

 あれは、正真正銘の怪物である。

 ノーカンでいい。

 ノーカンだとも。


(青鬼ドグ、か。わたしでも、一対一では危ない。陣の中央──もっとも大軍の”圧”が強い地点に誘い込んでの、六将軍同時攻撃。できれば最後のトドメはいただきたいが……いや、やめておくか。変に色気を出して、それで死んでいては世話はない。万事、抜かりなく。ここは一つ、安全居士(こじ)を決め込もう) 


 各人、散る。

 

 合図の必要はない。

 ”その時”が来たら判る。

 全員、その程度のことは判る実力者である。

 

 最初に飛び出したのは、”秒速”のヨザウィング。


 武器は、両手に装備した鉄手甲。

 拳部分には銀が混ぜられている。


「ケぇっ」


 閃。

 閃。

 閃。

 閃。


 右の七撃が残らず受けられ(かわ)され、左は掴まれた。


 そこに大鎌。

 ”妖艶”クリシュラティアナの一撃。

 ドグ、左腕の一本を犠牲にして貫通、止める。


 ブランブランは、(はや)った。


 目先の功に()いたか、ここを好機と見てしまった(・・・・・・)

 クリシュラティアナが鎌を捨て、跳んだ瞬間、


 ブランブランは、その剣を落とすよりも早く、

 引きちぎられたヨザウィングの左腕を顔面に喰らう。


 脳漿混じりの血飛沫。

 小砂利のように散る前歯。

 二個の目玉は、視神経つきで飛んだ。


「シッ」


 ヤットール、ここで”黒竜槍”の連突。

 見舞う。

 浅めに、数優先。


 切っ先を掴ませない。

 ヨザウィングの二の舞は踏まない。

 数、とにかく数。

 腕で防御させる為に。


(ち、なりゆき(・・・・)でヒーウェイか!)

 

 位置関係、タイミング。

 受けも回避も不可能。

 おいしい(・・・・)役どころ。


 ヒーウェイによる一撃。


 これで詰む──筈だった。


「ッにぃ?」

 

 ”銀髪の貴公子”ヒーウェイは、会心の笑みを浮かべたまま、固まっていた。

 必殺の構えのまま。

 白い、彫像のような。


(まずい)


 ヤットールが、そう考えるよりも先に後ろへ跳んでいたのは、僥倖というほかなかった。

 刹那、遅れた”凶器”コルが喉を、クリシュラティアナが顔面を、それぞれドグに掴まれた。


「撃て!」


 兵に紛れ、ヤットールが即座に叫ぶ。

 万一のため待機していた銀の矢のみを(・・・・・・)持つ弓兵小隊が、ドグめがけて銀を放つ。

 すぐさま青鬼はコルを盾にして、全弾を受けた。

 その拍子に、クリシュラティアナが遠心力で、ドグの手から剥がれた(・・・・)


 ばりぃっ。

 いやな音と、鮮血。


「ぎぁああぃいいぎひぃいぇえええいいぎぃっ」

 

 顔面の皮を剥がされた状態で、彼女は獣じみた絶叫をあげた。 

 その美貌の鼻から下全部は、ドグの上から二番目の左手のひらに貼り付いたままだ。


(凍っ──そういう能力か)


 青鬼が、全ての腕を丸めて、力んでいる。


 来る。

 何か。

 距離。

 連れて──


「じゃ、そろそろ! はじめるかな(・・・・・・)


 いち早くその場から離脱していたヤットールが、そのセリフを聞くことはなかった。それ(・・)を耳にした兵士達数千は全員、氷の彫像と化したヒーウェイと同じ運命を辿ったからだ。


   ***


 『カーチコム街外 青鬼ドグ襲来』


 戦闘結果。


 ブランブラン将軍:戦死。

 ヒーウェイ将軍:戦死。

 ヤットール将軍:軽傷。

 ヨザウィング将軍:重傷。左腕を上腕部より喪失。

 クリシュラティアナ将軍:重傷。顔面下部破損。

 コル将軍:戦死。

 

 魔王討伐軍(三万):六割死亡。三割が重軽傷。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ