その48 〜さらに裏舞台〜
「結局、ゾークヴツォール王は祝宴のあったあの夜、十九時半にはカンタローに殺されていたって事になるわけですか」
ピクロコルが、床のクッションに腰かけ、小さい板のようなものを両手で持ち、前方のガラス板を見つめながら言った。
「そうなるな。時系列を整理すると──」
ビビアンが、同じく小さな板を両手で操作しながら、目線を上に巡らせる。
「宮廷メイドに変装したオレが、鈴木甘太郎と接触したのが十九時十分頃ってハナシ。レオライドが見ていたようだが、大して印象にも残っておるまい。この直後、オレは甘太郎に物陰で幻術をかけ、ハラニーチ四世の姿を与えた」
「当初は、サーララ姫を説得させる為、でしたね。……あ、新潟の水田もらいです」
「新潟は秋に凶作イベントがくるぞ──王家の三兄弟の中で、一番の暴走要因はあの姫ってハナシだからな。釘を差しておこう、程度の目論見だ。オレが直接やろうとも思ったが、甘太郎がやりたがった。山下正作が”魔王”であることを明かして以降、どうも対抗意識を燃やすというのか、焦れているような面がまま見られたのでな。オレとしても、少しガス抜きをさせておこうって意図もあったってハナシ──あ、次は仙台か」
「でも、カンタローは取って返してハラニーチ四世を殺害。いったい、どんなサイコパスなんですかあいつは。戦争一つない、平和な国からやってきた世界渡航者じゃなかったんですか。間違っても、お近づきになりたくないタイプの人間です。特急券使いまーす」
「その距離で特急券とか、鬼畜だなピクロコル。時系列でいえば、色直しに自室へ戻ったサーララ姫が、ナンギシュリシュマらの手回しした”魔族の声”を聴いている頃ってハナシ。姫がこのあと、銀の凶器で細工するのが奇妙に思えたが──もしかしたらこの時、王の姿をした甘太郎の殺害シーンを見ていた可能性はあるな。……仙台は捨てて、次の目的地。関西あたりにヤマをはるか」
「サーララ姫は、”魔族の声”を聴いたあと、渡り廊下でカンタローの扮する偽ハラニーチ四世とすれ違って、これが十九時四十分。五十分には、同様に偽王が、建物内でヤットール将軍とも遭遇。どう考えても、意図的に”生きている王”を見せに来てますね。殺害時間をズラす為に。あ、仙台到着。ずんだ餅屋と駄菓子屋を増資〜」
「よし、次は広島だな。これはいただくってハナシ──その後、甘太郎は、幻術の変身が解除された頃合いを見計らって、祝宴場にしれっと帰還」
「ひとつ疑問が、ビビアン様」
ピクロコルではない、もう一人の声。
やはり二人と同様、板のようなものを両手で持ち、なにやら映っているガラス板に向かっていた魔族の青年アイゼンバーグが、口を挟む。
「何かね、ボンビーくん」
「レオライド王子の行動です。なぜ、王子はハラニーチ四世に刺さっていた凶器を、わざわざ回収して持っていたのか。意味もなく危険ですし、そのせいで、殺害の事実が周知されるのも遅れてしまっています」
「お前さぁ、人間が常に合理的、整合的に動くとか本気で思ってるのぉ? それこそ”太陽が黄色かったから”とかいう意味不明な理由で、同族の他人を殺したりするような生き物でしょ。いいからお前は、そこで延々ボンビー張りつかせておいててよ」
ビビアンと対していた時とはガラッと変わる、ピクロコルの口調。
「ピクロコルの言う通り、レオライド王子のあの行動を、論理的に説明するのは難しいってハナシ。ただ、”父王の所持品だった銀の短刀”を隠した意図は──あるいは、外部犯……魔族も含めた……という風に持っていこうとしたのかも知れない。”過去視の呪文”や、それを無効化する”銀の法則”のことが意識になければ、そこまで徹底して不合理でもないってハナシ。もっとも、それなら銀の短刀は早急に隠すか破棄するかすべきだったがな。ここで六進めるカード、広島到着〜。広島風お好み焼き屋を、乗っ取らせて貰おう。こつこつ増資していたのに悪いなピクロコル」
「うう、寡占じゃなかったから問題ないです。それでビビアン様、とんでもサイコパスのカンタローは殺さないのですか? 直接手をくださないにせよ、怒り心頭に発している勇者に、真相をタレ込んでやれば、即日肉片になると思いますけれど……」
それを聞いたビビアンが、手を顎にあて、少し考えた様子を見せる。
「確かに、不確定要素という意味において、今の甘太郎は少なくともマッシュマロンと同程度には邪魔な存在ってハナシ。でも同時に、やはり奴もまた世界渡航者の一人。あの夜は怒りが勝ってつい殺しそうにもなったが──同夜、オマケだったアメリカ人の娘が思わぬ能力覚醒を見せたこともあり──結局、やはりここはキープしておこう、という判断に落ち着いた。あの御方のメッセージが、どんな形で眠っているやも知れんからな……そういう意味では、七百年前は本当に失敗だった。あれこそ、オレの短慮が引き起こした無益の戦争ってハナシ。む、次ハワイか──アイゼンバーグくん、ぶっとびカードで九州あたりに飛んでくれないか」
「コラ、お前さぁ。わたしやビビアン様に貧乏神なすりつけたらどうなるか、分かってるんでしょうね。注意深くわたし達や目的地から距離を取って、ボンビー保有維持に努めるのぉ」
「……承知しております、ピクロコル様」
げんなりした顔で、アイゼンバーグが答えた。
彼の”接待”は常にこんな調子で、長い時には半日にも及んだ。
今回は時間がなく、やや省力版となっております(´・ω・`;)
次回から、新章スタート!




