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魔王おじさん50  作者: クリントン大西
--ガブリエラと王都騒乱編--
48/93

その47 〜真相の断片〜

「結局さぁ、王様を殺したのは誰だったんだろう」


 近衛控室から戻ったクルクルが、リアンのベッドに寝転がった。シーツから半身を起こしたリアンは、沈黙したまま。


 ここは城内、貴賓室。

 それも、勇者であるリアンにあてがわれた、特別室だ。


「状況的には、あの魔族がだんぜん怪しいけど、でも王様は”銀の凶器”でやられてたんだよね。で、レオライド王子が、その凶器を持ってた……でも王子は、殺してないって言ってる──言ってるだけだよね、コレ」

「レオライド王子に、陛下を殺す理由がないでしょ」


 リアンは言った。

 彼女なりに、いろいろ考えていたようだ。

 

「どっちにしても、王子の王位継承は確実。下手なことをして、疑いをかけられるだけ損。むしろリアンは、サーララ姫があやしいと思う」

「え、なんで?」


 クルクルが、少し驚いたように訊ねる。


「ミューラの”過去視の呪文”のことに真っ先に触れたのは、サーララ姫。銀の武器での殺害を、印象づけようとしていたっぽくない? ”銀の法則”で物の記憶が消えるなんて、リアンも初めて知ったし、かなりマニアックな知識だと思う。なんか、あやしいよ」


「えー……どーだろう。単純に犯人を探ろうとしただけかも知れないし、物の記憶が消えていたのも、あくまで結果じゃん? それに動機だけど、姫にだって王様を殺す動機、たいしてなくない? それで、姫にも王位継承のチャンスが巡ってくるとかならアレだけど」


 リアンは、それをきいて頭をかいた。

 そう、サーララ姫にも大した動機はない。


 レオライドとサーララが”容疑者”としてあがっているのは、ひとえに犯行可能時間帯にアリバイがない、という点。


 それも、あくまであの夜なんとなく話の流れ(・・・・)でそういう事になっただけ。ほかの参加者にしても、厳密に調べていけば──現在、近衛兵達が精査しているが──ちらほらボロの出る者もいるだろう。十九時半から二十時半──常に誰からも(・・・・・・)見られている(・・・・・・)、なんていう方が不自然だ。


「あやしいって言ったらさー、これも結果的にだけど、今メッチャあやしくなっている人、いるけどね」


 寝転がって、足をパタパタさせながら、クルクルが言う。


「だれ?」

ヤマシタさんだよ(・・・・・・・・)ヤマシタさん(・・・・・・)。あの夜から、失踪してるらしいじゃん。ミューラによれば、あの人もカンタローと同じ”異世界人”? だったって言うじゃない。”異世界人”て、いまいち意味わからんけど……」

「どうかな。あの人、誰かを殺せるようには見えなかったけど……」


 あの日以来、姿を見なくなった中年男のことを、リアンは思い出す。

 少し頼りなげだが、善良な人物だった。暴力沙汰はもとより、陰謀めいた事柄から、もっとも縁遠い存在に思われた。


「まぁ──誰でもいいよ。陛下が殺されたのは確かなんだし」


 リアンの青い瞳が、(くら)(かげ)った。


「それが誰だろうと、リアンが絶対殺す」


   ***


 サーララは夢を見ていた。


 父王が、二人、立っている。

 二人、同時に立っている。


 片方の父王が、もう片方を殺した。

 これは、どういう暗喩なのか。


 己の影を見たものは死ぬ、という昔話があった。

 

 これは、そういうことか。

 そういう類の、不吉か。


 ハラニーチ四世。

 王であり、父。


 別に好きではないが、嫌いでもなかった。


 賢王というと贔屓の引き倒しという気もするが、何にせよ、少なくとも暗君ではなかった。勇者という”兵器”を適切に管理し、それなりに国家を運営していた。


 王とは言え、しょせんは個人。


 その成果は、結局のところ、周囲のリソースに左右される。王国の平和も、経済成長も、元の土台に依るところ大である。


 あるいは歴史ある官僚機構。

 あるいは豊富な人材プール──それを支える教育制度。

 高度な文明。行き届いたインフラ。

 祖先が営々と積み重ねてきた、努力の上澄み。

 

 その頂点に、なりゆき(・・・・)で座るのが王。


 ならそれが、自分では駄目な理由もない。

 ゾークヴツォール王朝以前には、女王の台頭もそれほど珍しくなかったそうだ。

 なら自分がなっても、さほど不思議はない。


 愚鈍な兄、やる気のない弟。

 それなら自分が、もっともふさわしい。


 だから、父が今死んだのは、結局”よいこと”なのだ。


 意図せぬこと(・・・・・・)ではあったが、結果として疑惑の種は蒔かれた。運命の車輪なるものは、このように偶然回り始めるのが常らしい。


 その偶然を、必然に変えるのが人の意志。

 

 ここでもの(・・)にできなければ、ただの道化だ。

 周囲の、自分に対する評価はおおむね承知している。


 姿形に多少すぐれる程度の、貴種。

 せいぜいが、ルベルベラ王妃の劣化コピー。


 サリオンあたりにそう言われるのはまだ納得がいくが──あの弟は怪物だ──、その他の有象無象にそう侮られるのは、やはり少々癪に障る。

 侮られるのは好都合、と百も承知ながら、やはり癪には障る。


 父が二人、立っている。

 片方が、もう片方を殺した。


 だから(・・・)わたしは、銀で刺した。


 父王の刃物を使った。

 夢のような犯人はいらない。

 ただ、疑惑が残れば良い。


 歴史は、承認された物語という。

 なら、わたしが承認してやる。


 確定した観測はすべて消し去り、

 曖昧な憶測だけが残ればいい。


   ***


 レオライドが、無残に銀の短刀を突き立てられた父王の遺体を見つけたとき、大時計は二十時十分を回っていた。


 彼は、迷うことなく短刀を抜き払い、その血をハンカチでふきとり、そして懐に入れた。


 そうすると、何事も無かったかのように(・・・・・)なった。

 暗がりで、服地の血糊はよく見えない。


 だから、なにも問題ない。

 何も報告の必要はない。


 なにしろ、まだ準備ができていない。

 継承など早すぎる。

 だから(・・・)、父王は何ともない。


 酔っていたのか。そうかも知れない。


 現実逃避か。さもありなん。


 それを「さも当然」と受け止める、弱冠二十三歳の青年。その心に掛かる重圧の程など、実際のところ、どこの誰にも分からない。


 あるいは、祝宴が終わってから──ゲゾスが見つけなければ──ごく普通に伝えるつもりだったのかも知れない。


 凶器を抜き取り、ほんの十数分ほど、逡巡していただけかも分からない。


 結果は、ゆえなき不合理と、ほのかな嫌疑。


 はっきりしない。

 サッパリもしない。


 まだ、魔族に操られていた云々の「説明」があった方が、納得があるだけマシ──そんな見方もあるだろう。


 しかし、不合理な行動、フワフワとした感情が歴史を紡ぐことは、衆人が思うよりずっと多い。四六時中、理路整然と生きている者などまずいない。


 鈴木甘太郎さえいなければ、おそらく露見さえしなかった『気まぐれ』。


 言語化されない動機。

 レオライドの、釈明を潔しとしない性格。


 その結果、無益な謎だけが残った。


   *** 


 王城敷地内──

 第三庭園に一人、静かに腰掛ける男がいた。

 

 男は、王と呼ばれている。

 実際にも、王かも知れない。

 

(王、か)


 祝宴場から離れた静かな、お気に入りの庭園で、ハラニーチ四世は一人自問する。自分は単純に、その生まれから王になった。


 自分も”そう”だし、先もそうだろう。

 あとは、天の命を受ける器の問題だ。


 サーララでは足りない。

 レオライドは、現状では足りない。

 消去法で、サリオンが残る。


 ルベルベラや大貴族達の意向など、関係ない。

 権力の本質が何か、彼ら彼女らは忘れている。


(これを機に思い出させるのも、国益に通じるか)


 つまり、暴力。


 あらゆるコネも、財も、利権も、声望も、単純にして究極的な暴れる力(・・・・)の前には、何人たりとも屈服せざるを得ない。


 軍部の力すら、物の数ではない。

 超常の絶対戦力。

 それが勇者(・・・・・)


 もちろん「それがため」の勇者ではない。

 ──ないが、だからといって「そう」使ってはならぬという法もない。むしろ、魔王討伐の役に立つなら、率先して「そう」使うべきだろう。 


 ふと、王は気配を感じた。

 そのほうを覗くと、人影があった。


 それは、見慣れた顔──

 俗に、ハラニーチ四世と呼ばれている男だ。

 王と呼ばれた男た。


 それを見て、王は少し笑った。


「なるほど。そなたが、わたしの死か」

「さすが王様、話がはやい」


鈴木甘太郎が言った。

直後、王の頚椎が捻転した。

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