表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王おじさん50  作者: クリントン大西
--ガブリエラと王都騒乱編--
42/93

その41 〜王城激震〜

 甘太郎は、咄嗟に右へ三mほど移動した。

 

 一瞬後、たまたまその軌道上にいた警備兵三名が、身体に複数の穴を穿たれ、血肉を散らせた。おそらく即死。

 夜で、何にやられたかは、よく分からない。


「パルテオン」

「承知」


 ミューラの声に即応し、老司祭は呪文を唱える。

 王族・貴族たちの周囲が、ドーム状の障壁で覆われた。


「リアン、魔族きた!」

 クルクルの言葉に、リアンは、掴んでいたレオライドの首を離した。


「ッと」

 五十七撃目が躱しきれず、甘太郎は”肉紐”の一つに右足首を捕らえられる。

 見る間に絡まる”紐”の本数は増え、少年は、地面から生えのびた”巨大な手”に掴まれたような格好となった。肉紐の、集合体だ。


 ”声”が響き渡る。


『いい加減にしろってハナシだぁっ、このクソガキ! 寛大なオレの忍耐も、無限じゃぁないってことを教えてやろうか? 好き放題やらかし(・・・・)やがって、計画が台無しだ』


「い、意外と……短気です、ね。まさか、今、即、出てくる、とは……」

 締めつけられ、苦痛に顔を歪める甘太郎。


「甘太郎くん!」

 正作は、無意識に駆け出していた。


『どうせ君は単なる世界渡航者(・・・・・・・・)──余裕があればキープしたいが、という程度の存在ってハナシ。不確定要素という理由でマッシュマロンを除いておいて、君を放置する理由はない。ここで──おい、邪魔をするな”まがいもの”』


 鳩尾に一撃。


(っ──ぐふ)

 

 正作はその場で膝をつき、続いて地面に手をついた。

 致命傷ではない。血も出ていない。

 しかし、呼吸ができない。


 高校の時、不良に絡まれて腹を殴られた時よりも痛い。熱い。

 意思と関係なく、指が震える。

 訳も分からず、涙が出てきた。

 

「──お、り、リアンさん?」

 

 涙で霞む視界の向こうで正作は、甘太郎を掴む巨大な手が、勇者の剣によって粉々に切り刻まれているさまを見た。


『ちっ、勇者か』

「お前が、陛下を」


 リアン・スーンを中心に、数百数千の”肉紐”が繁茂する。

 ──も数秒後、その一角が一文字に切り裂かれた。


 ミューラの放った雷撃がほとばしり、さらにその一部を焦がす。ゴンドラゴンドは、近衛兵から借りたらしい剣を振るっている


「おおお、王都に魔族が……」

「な、なんなんだこの化け物」

「肉の蔦──これこそ、史書にある(いにしえ)の魔族ビビアン」

「こやつが、陛下を!」

「おのれ!」

「……いや、”魔族(・・)()銀の武器を使って?」

「何か、おかしくないか」


「おーい、カンタロー。生きてるかー!」


 弓がないクルクルは待機要員。リアンの剣で助けられた少年を、素早く担いでパルテオンの障壁内へと連れ入った。


「や……ば。これ、肋にヒビ、入ってるかも」


 青い顔で、甘太郎が苦笑する。

 わりと余裕があるようだ。


「しかし、あいつ──ビビアン、想像以上に強い」


「うーん、それはあたしも思ったー。前にワフルでちょっとやった時は、もっともっと弱かったんだけどなぁ」

 腕組みして、クルクルも同意する。


「実力を隠しておったのか。あるいは、短期間で”何か”したのか──予測、困難、予断、混乱」

 障壁を維持しつつ、パルテオン。


 片腕となって結界の質は多少下がったという事だったが、今のところ膨大な数の肉紐の攻撃は、すべて問題なく防がれていた。


「とはいえ、リアン・スーンの敵ではない」


   ***


 一方、その様子を水晶球を通して見守る三人。

 エクステリア、ナンギシュリシュマ、ガブリエラ組。

 魔王軍の城内潜伏隊だ、


「ビビアン! あやつも王都に来ておったのかヒヒヒヒヒ」


「ナンギシュリシュマ、奴が国王を始末したと思いますか?」

 エクステリアが訊ねる。


「いや、思わん。魔族が”銀の法則”によって弱体化するリスクを冒してまでして、銀の武器にこだわるなど、よっぽどだぞい。どこまで関与しておるかは不明だが、少なくともビビアンの奴は、王の殺害には関わっておらんだろうの。……むしろ、それを怒っている(・・・・・・・・)ようにさえ見えたがヒヒヒヒヒ」


「あの、ヤマシタさん、大丈夫なの?」

 ガブリエラが、心配そうに言った。


 水晶球ごしの映像は、ビビアンのものとおぼしき無数の”肉紐”が巻き起こす粉塵で、視界が不鮮明となっている。正作の姿は、確認できない。


 エクステリアとナンギシュリシュマは、少し虚を衝かれたといった具合で、互いの顔を見た。


「──おそらく、あなたは純粋に心配しているのでしょうが、さすがにそれは、陛下に対して失礼というものでしょう」

「然り、ガブリエラ。おぬしも幾度となる”視て”おるであろう。あの、いっそ破壊的とさえいえる、陛下の莫大な魔力をヒヒヒヒヒ」


 魔力。


 ナンギシュリシュマ直々のトレーニングにより、ガブリエラもまた”魔力”を視えるようになっていた。正作は「紫色の湯気」と表現していたが、まさにそんな感じである。なお魔力を隠蔽する方は、彼女の場合、まだ完全ではない。


 ガブリエラ自身は、体表から十インチほどの幅の魔力が出る。

 エクステリアら”四天王”は、それのおよそ倍。


 そして(魔力隠蔽モードを解除した)正作は、四天王らの更に十倍──実に、五ヤード強もの魔力が出ているのが確認された。確かに、桁違いだ。


 ──それが本当に”強さ”をあらわすならば。


(魔族の中でも、かなり強い部類の”四天王”、その半分もの魔力を持っている自分だけど……正直、そこまで強くなっているとはどうしても思えない。ヤマシタさんだって、その辺は同じことなんじゃないのかな)


 そうだとすれば、ほぼ普通の”人間”が、あんな修羅場の只中にいる事になる。それは、明らかに大丈夫ではない。


(もしかしてヤマシタさんは、ずっとネガティブな意味(・・・・・・・・)で、その真の実力を”魔王軍”の魔族達に伏せ、ギリギリの綱渡りで魔王を演じ続けていた、なんてことは──)


 そう考えると、状況がおおむね整理できてしまう。

 いや、さすがにそれは、ないか。

 いや、もしそうだとすれば……


「皆さん、ここはヤマシタさんと合流すべきです」

 ガブリエラがきっぱりと言った。


「……陛下が心配、という以外の理由でですか?」

 先とは違う気配を感じた様子で、エクステリアが問う。


「ええ。あのビビアンの、登場、乱入── 一見、貴族たちやリアンちゃ……勇者らを標的としているように見えますが、でもどうしてあのタイミングでわざわざ? という疑問はありませんか。それも、魔王であるヤマシタさんがいる状態で、わざわざです」


「む……」

 ナンギシュリシュマが、触腕を片眼鏡にあてて、少し唸る。

「──ビビアンは酔狂な遊びを好む者だが、あれは遊びではないな。明らかに怒っておった。計画がどうのと……その要因があの場にある、もしくは”いる”ということかヒヒヒヒヒ」


「陛下がいる場であえて突撃したのは、勇者対策? どさくさで陛下の戦力を利用しようと?」

 重ねて、エクステリアが問うた。


「それに乗る陛下ではあるまい。こちらは”四天王”が、待機している拙僧とエクステリアの二名。向こうは、勇者ならびにその仲間フルキャスト。よほど有利な戦局ならさておき、今、決戦に挑むのは明らかな愚策。それはビビアンも分かっていようヒヒヒヒヒ」


「ビビアンは、その”彼女の怒りの要因となった何か”を消す──という目的のほか、ヤマシタさんの目から隠す目的で、あえて(・・・)派手な大立ち回りをしているのかも。そこにわたし達が行くことで、その”何か”が見つけられるかも。今なら、間に合うかも」


 ──我ながら「何じゃそりゃ?」とガブリエラは思った。

 いったい何個『かも』をつける気だ。


 しかし、多少無理やりにでも、この二人に”静観”以外のオプションを選択させなければ始まらない。なんとか近くに行ければ、自分の”小部屋”に入れて救える目も出てくる。


「行く理由としては、弱いですね。推論に推論を重ね過ぎです」


 あっさり、痛いところをつかれた。


「……ですが、まぁ、いいでしょう。これだけの大混乱、何かつけ入る隙ができるやも知れません。ビビアン達と戦っている以上、勇者パーティのミューラ、パルテオンがわたくし達に気づく率も普段よりは低い」

「それに、穴熊を決め込むばかりでは芸がないしのヒヒヒヒヒ」


 緑のタコがひゅっと飛び上がり、見る間に縮小してガブリエラの口にスポンと入った。すっかり慣れっことなり、さして抵抗感もなくなった自分が少し怖い、と彼女は思った。


『ガブリエラの容姿は勇者どもに割れておるでの、彼女も幻影で別人にしておこう。では皆の衆、遅れ馳せ、陛下のもとへヒヒヒヒヒ』


(──うん。まぁ、うん、結果オーライ。すぐ助けるからね、ヤマシタさん)

 

 ”小部屋”の扉に手をかけ、ガブリエラが薄暗い王城内の扉から廊下に出た。

 と同時に、建物全体が大きく揺れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ